裏切られた俺が【真の勇者】だったと発覚した
AteRa
プロローグ
「偽勇者アレン、もう私と金輪際関わらないで」
婚約者から聞かされた言葉で、俺は全てが間違っていたことを悟った。ニーナ第三王女は俺を冷たく見つめながらそう言った。
いつから彼女の視線が冷たくなっただろう。幼い頃はもっと温かい視線を送ってきてくれていたはずだった。何が悪かったのか分からない。彼女に何をしてしまったのか分からない。でもニーナの考えが分からないのはいつものことだ。
俺はずっと彼女と結ばれるものだと思っていた。婚約者なのだし、それが当然だと信じ切っていた。でもそんなことはなかった。当たり前のことが崩れていくのはいつものことだとずいぶん前から知っていたはずなのに。
最近はめっきり話さなくなっていた。それでも心のどこかでは、まだ望みがあると信じていた。まだ彼女は俺を愛してくれていて俺のことを見てくれていると信じていた。俺が厳しい環境の中で過ごせていたのも、彼女の存在が大きかったのだ。
ニーナは王城でも人気者でにこやかで優しいと評判な王女様だ。優しげな美しい顔立ちに惚れた男は果たして何人いるだろうか。そして俺もそのうちの一人だった。彼女の優しさが俺に力を与えてくれていた——はずだった。
でも、もう終わった。その俺を支えていたものが全て終わった。
しかし、なんだか上手く歯車がかみ合わさったような感覚に陥る。……そうか、俺はやはり他人から愛されない人間なんだ。必要とされていない人間なんだ。そう思うと全てが腑に落ちた。心に暗く影が落ちていった。きっと彼女には俺よりも好きな人がいたのだろう。
両思いではなかった。片想いだったのだ、ずっと前から。ただずっと俺が空回りしていただけだったのだ。一緒に出掛けたときも、笑い合ったときも、全部俺の勘違いだったのだ。
「私には他に好きな人ができたの。だからもう関わらないで」
「そうか……。それはおめでとう、だな」
追撃するように彼女は言った。やはり……彼女にとって俺はもう気遣うような相手ではなくなったということだった。ガリガリと心が削られていく。壊されていくのを感じる。
彼女はもう一度、突きつけるように俺に言った。
「貴方とはもう金輪際、関わらないわ。出ていって」
そうして俺の心は完全に壊れてしまったのだった。
***
アレンが壊れて三ヶ月が経った王城ではアレンを探し回る人で溢れていた。ニーナ第三王女と新たに婚約した勇者ガイラムが偽物だと発覚したのだ。そして真の勇者だったのが婚約破棄した相手、アレンだった。
しかしアレンの寝泊まりしていた部屋は蛻の殻だった。埃が被っていることから王城を抜け出してかなりの月日が経っていることが分かった。誰もそのことに気が付かなかった。彼は仮にも勇者だったというのに。
消えてしまったアレンを探すため、大々的に捜索隊が組まれた。捜索を開始して半年後、敵国であるアルカイア帝国からこんな通達が入った。
『勇者の保護に成功しましたが、もう金輪際彼に関わらないでください』
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