ソフィア・グレイシャスノー(下)
トニーが冒険者になった次の日。
私は朝から、トニーが冒険者ギルドに来るのを待っていた。
スカウトを断られたため、接点を作るためには自分から近づく以外の方法がなかったからだ。
トニーがギルドに入ってきたのを確認した私は、実力を見極めるためにも気配を消して彼に近づき、名前で呼びかけた。
すると、「人違いです!」と一言。初めから近づいてくることがわかっていたのか驚いた様子がなく、あろうことか自分がトニーではないという嘘をついてきた。それも、心底面倒くさそうに。
引き下がるわけにはいかなかったので、私は相手をしてもらおうとムキになって話かけ続けた。
なかなか相手をしてもらえず、途中から少し涙目になっていたと思う。今思えば、少し恥ずかしい⋯⋯。
最終的に、受付嬢──アリシアさんのおかげで話を聞いてもらえることになった。
私はすぐに、ライバルになってもらうようトニーにお願いした。私の気配に気づけるレベルだという事実に、期待しないわけにはいかなかったのだ。
意外にもすんなりと受け入れてくれたけど、一緒に彼のクエストについて行こうとしたら嫌そうにされた。
結局これもアリシアさんの説得と、ルークのおかげで了承をもらえた。
1人で解決できなかった自分が情けない思ったが、「競い合えることが嬉しい」という気持ちの方が
トニーと一緒にホーンボアの討伐クエストを受けることになった。
ホーンボアの討伐なら、Cランクで初めてのクエストとしても、勝負のため討伐数を競い合うのにも丁度いい。
クエストに同行することで、トニーの実力は私が思っていたよりも遥かに高いことがわかった。
彼は、気配に敏感なだけでなく、魔力探知まで使えるらしい。
それに、ホーンボアを真っ二つにしたあの剣捌きと魔力操作⋯⋯。
使用していたのは、誰にでもわかる駆け出し冒険者用のロングソードだったが、魔力で剣の表面を覆うことで切れ味を上げ、刃こぼれも防止していた。
トニーの言う通りになってしまったのは少し
気を取り直した私は、先輩らしいところを見せようと、氷魔法を披露してホーンボアを仕留める。
すると、トニーは氷魔法に関心を示し、私が使った魔法を初級魔法であることを言い当てた。
(おかしい⋯⋯)
この時点で、彼が魔力探知を使えることに気づいていたが、それを考慮しても使い手が稀な氷魔法について詳しいことを疑問に思った。
(まさか⋯⋯トニーも氷魔法を?)
理由を聞くと、魔法に込めた魔力量と効果範囲から推測したという返答。
私も魔力探知を使えるため、「本当にそんなことで?」と、ますます疑問に思ったが、その場では納得することにした。
でも、私が動きを止めた隙に、獲物を彼に横取りされたことは納得してないけどね⋯⋯。
私は今まで、同年代でこれほど実力がある者に会ったことがなかったため、思わずトニーの素性について聞いてしまった。
すると、はぐらかされただけでなく、逆に私の素性を追求されてしまった。ギルド内のやり取りでもそうだったが、妙に鋭いところがある。
私は誤魔化しつつも、素性を深く詮索することがマナー違反だとわかっていたため、同じ話題を続けるのをやめた。
討伐を繰り返して夕方になった頃、トニーが終わりにしようと提案してきた。
時間が結構経っていて、そろそろ戻らないといけないことはわかっていた。でも、勝負が引き分けの状態で帰るわけにはいかなかった。
私が帰るのを渋っていると、トニーから「この後2頭のホーンボアを先に討伐した方を勝ちにする」という提案があり了承した。わかりやすくていい。
⋯⋯結果、引き分け。
(もうっ、どうしてこうなるの〜〜っ? ⋯⋯もしかして、私にタイミングを合わせた? それはない──とも言い切れないわね。もし、そうだとしたら⋯⋯)
全然納得がいかなかったが、約束を破るわけにはいかない。決着は諦めて帰ることにした。
ギルドに到着すると、アリシアさんに勝負の結果とそれぞれの討伐数について報告した。すると、周りは騒ぎ立て、アリシアさんは勝負の結果に感心しつつも、討伐数が多いことには呆れ顔だった。
アリシアさんにトニーの実力は示せたが、引き際を考えずに討伐を繰り返したことを注意されてしまった。
(これは、私が悪い⋯⋯。次は気をつけよう)
私は今回のクエストで、トニーの実力ならもっと高ランクのクエストでも問題ないと感じた。
彼の実力を知ったアリシアさんなら、「トニーを早くAランクまであげてほしい」というお願いを聞いてくれるかもしれないと思って、頼んだ。
でも──今思えば、無理なお願いだった。少し考えれば、簡単にランクを上げられないことくらい、わかるはずなのに⋯⋯。私とトニーが、通常よりも高ランクからのスタートだったため、簡単に上げられるものだと勘違いしてしまっていた。
ルークとアリシアさんの話を聞いて、無理を言っていたことを理解した私は、急に恥ずかしくなってきた。でも⋯⋯それでも、「早くランクを上げてほしい」と思った私は、駄目元でトニーに頑張って早くランクを上げるようにお願いした。すると、本当かどうかはわからないけど、頑張るとは言ってくれた。
その後、ルークが保護者みたいなことを言っていたけど、寛大で慈悲深い私は許すことにした。
最後に、報酬の受け渡しについて話がまとまると、トニーの初めてのクエストは完了した。
帰り際に何かライバルっぽいやりとりをしたくなった私は、トニーに次の勝負では私が勝つことを宣言した。それに対して彼も、負けるつもりはないと返答した。
⋯⋯私に、やっとライバルと呼べる存在ができた。もう、これからは退屈な日々を過ごさなくていいんだ。
(でも、トニーのランクが上げるまでは少し暇になるわね⋯⋯。──決めたわっ! トニーが早くランクを上げられるように、私が全力でサポートする!)
次の日。
昨日のように待ち伏せなんかしていたら、トニーの迷惑になることを学んだ私は、少し遅めに冒険者ギルドに向かった。
ギルドに入ると、なぜかいつもより騒がしかった。冒険者たちが注目している方向を見ると、どうやらトニーが誰かに絡まれているらしい。
(ちょっと! トニーは早くランクを上げなきゃいけないのに、邪魔をしているのはどこのどいつよ!)
そう思って近づいていくと、どうやらオリバーという男が、
身内と実力者にしか興味がない私でも、問題を起こすことで有名な冒険者の名前くらいは覚えていた。
(許せない⋯⋯。あんな男程度、トニーの相手にすらならないと思うけど、サポートすると決めたからには、私が相手をするしかないわねっ)
オリバーが、暴力沙汰を起こす気満々の様子でトニーに向かって歩き始めたため、すかさず呼び止めた。
トニーのことだから、スカウトを断る時にあの男の気に障る事を言ったのかもしれない。でも、それを上回るくらいの挑発をすれば、怒りの矛先が私に向くはず。
目論見通り、
他の冒険者たちを巻き込む訳にいかないため、アリシアさんに試験場を借りることにした。
トニーには、クエストに専念するように言いつつ、「ここは私に任せなさい」とウインクで合図を送る。
(どう? トニー。少しは先輩らしい振る舞いができたかしら?)
オリバーの相手なんか、暇つぶし程度にしかならないけど、ライバルのサポートだと思えば⋯⋯。
「──悪くないわね」
私はそう思った。
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