第34話 12月27日

 朝の9時を過ぎたぐらいに部屋の近くを行き来する足音で目覚める。昨日真琴一家は家族で出かけていたらしく夜になって電話がかかってきた。


 23時ぐらいから気づけば2時を回るまで彼女は色々なことを話していた。途中3度ほど『聞いてる?』と言われたので途中から半分ほど眠っていた気がする。裕美としずくが明日は一緒に髪をカットに行くという話をしていた時だった、


「じゃあ明日は誰もいないの…」

「妹は部活で雅也は夜ごはん終わるまでは遊びに行ったり、実家の方に居るから誰もいないね」


「じゃあ遊びに行っていい?…おうちデートがしたい」

「おうちデート…?」


「そう!ゆっくり映画見たりとか…ゲームしたりとか…ちょっと…仲良くもしたい…」


 クリスマス以降、行動や言動が大胆になっている気もするが、しばらくは彼女の言動に対して全て肯定的に受け入れるようにのぞみちゃんに言われていた。


「わかった。何時に来る?しずくたちは11時に予約してるって言ってたから10時ぐらいには出ると思うけど…」

「じゃあ10時!」

「ありがと…じゃあ明日ね…おやすみ」

「ああ…おやすみ」


 察するにだが明日の約束がしたかったのだろうなと思う。それが言い出せずに3時間の長電話。今後はこちらから誘おう。ドタバタと準備をするしずくに起こされリビングに降りる。妹はとっくに部活に出かけ、雅也は朝ごはんのため実家の方へ行っている。


 洗面所はしずくが使っているようなので実家の方に向かおうと玄関に向かったところで鉢合わせた。


「おはよう」

「ああ…おはよう…早いな」


 そう声を掛け合って出かけるしずくを見たがジーンズにパーカーといういつもの格好だった。濃い緑色のパーカーには『OKLAHOMA』と書いてあった。


「どこで買ったんだ…」

「イオン」


 他の身近にいる女の子3人がお洒落なだけに見習ってほしいと思わなくもない。彼女の母親の恵美さんは今でこそおばさんだが若いころの写真を見る限りかなりかわいい感じの女性だった。服装に関しては現在でも若々しくちゃんとしてる。この娘だけが無頓着なのだ。


 彼女の人としての価値はどんな格好をしてるかとは関係ないのだが変えてもいいのではと思う。


「じゃあ…かわいい感じに切っといで…」

「…………………」


 しずくはショートでまとまりのある髪の一部を掴みながら無言で思案しているようだった。実家で顔を洗い、朝食をとって9時50分頃に家に戻った時には彼女は出かけた後であり誰もいなかった。5分ほどしてチャイムが鳴る。


「おはよう」

「おはようございます…」


 なぜか敬語になってる真琴が来た。髪を横に結んで太めの三つ編みにしているのでいつもより少し幼く見える。今日は白のダウンにジーンズというカジュアルな感じだった。


「お邪魔します」

 そう言いながら部屋に入ってきた彼女はダウンを脱ぎ椅子に掛ける。コーヒーでも飲むと声をかけようと思ったがソファーの前のラグに正座していた。


「ちょっとそこに座ってください…」


 彼女はそう言ってソファーを指さす。相変わらず敬語だった。ダウンを脱いだ彼女は薄いピンクのニットを着ていた。思ったより突き出ている胸に目が行く。指示された通りソファーに座ると彼女が言う。


「一番端、左に詰めてください」


 先ほどから敬語に対して違和感があったが、何より目を合わせてこないことに気づいた。左の端に詰めたところで真琴が立ちあがりソファーの右端に腰を下ろす。そしてそのまま彼の膝に頭をのせて寝転んできた。


「今日はこれで…お願いします…」

「……………何で敬語なの?」

「…その…えっと…恥ずかしくて…」


 背中を向けて言う真琴はとても可愛かった。膝枕は問題ないが実際問題として手の置き場に困った。左手はソファーの肘掛けでいいのだが右手が余る。彼女の体に置くのが自然ではあるのだが、実際問題難しいものがあった。


「右手は頭を撫でててください…」


 お見通しのようだった。彼女のことだから家でシミュレーションしてきたのだろう。右手を軽く頭に乗せ滑らしてみる。


「…うっ…くっ…映画…終わるまでこのまま…」


 触れて動かすと少し彼女の体が跳ねた。拒否する理由もないのでお願いを受け入れることにする。


「何見る?いろいろ選び放題だよ」

 親のサブスクをこちらの家でも利用できるので映画もアニメも見放題である。リモコンでテレビをつけ画面を表示させる。


「何かみたいのある?」

「…ある…一人じゃ見れなくて…バイオハザードが見たい…」


 王道で恋愛ものを指定されるかと思ったが意外だった。確かにホラーを一人で見るのは怖い。デートに向いているかわからないが検索してみるとシリーズ全部あった。


「見たことあるやつある?」

「無いよ…お姉ちゃんがゲームしてたけど…怖くて見てない…」

「じゃあ最初の奴から見るか…飲み物とかいる?」


 膝の上で彼女が頭を振る。少し重みのある感触が心地いい。とりあえずリモコンのスタートボタンを押しテーブルに戻す。彼女の頭に手を置くと指を重ねてきた。


 映画用にリビングのカーテンは閉めておいたのだが失敗だったかもしれない。正直ホラー映画は見たことがなかった。怖いのだろうか?


 初代映画は2002年と表示があるので20年ほど前の映画だ。見始めると特に古い感じは無かった。アクション映画にホラー要素が加わった感じだろうか。


 真琴が時々強く手を握る。100分程度だったのであっという間だったが面白かった。最後は絶望を感じるような演出も好きで続きを見たくなる。ただ無言で映画を見続けただけだが、手は触れ合っていたので何となく力加減で会話しているような気持になった。


「終わったね…頭撫でて…」


 力加減が分からないが、なるべく優しく手を上下に動かす。冷たくしっとりとした髪の感触が心地よい。撫でてる間に少し体を震わすような感じだったが、嫌そうな感じはないので大丈夫なのだろう。しばらくすると真琴が上を向いたので手を放す。手前の膝に乗せていた頭をズルズルと奥まで移動する。


「んっ…んー。好きなとこ触っていいよ…」


 態勢を変えられたところで右手は宙に浮いていたがそういうわけにもいかないだろうと思う。少し上気した彼女の顔は可愛くも妖艶な雰囲気を出していて重く後戻りを許してくれそうにない感じがあった。とりあえず無難にお腹に手のひらを置き、わき腹辺りまで包み込んだ。


「ん…くっ…触らないの…?」


 彼女が触れと言っているのは明らかにニットによって強調されている胸のことだろうが、圧倒的母性を醸し出すその部分は危険な匂いも同時に感じさせる。そもそもが仲良くしている4人の女の子の中でもっとも恥ずかしがり屋は彼女だ。クリスマスから日が経っていないが距離感の詰め方がおかしくなっている。


不安定な精神状態だから沢山肯定しろとのぞみちゃんは言っていたがこの真琴チャレンジはエスカレートする未来しか見えない。恐らくは敏感な体質と思うので思い切って仕掛けることにした。人差し指を首の下あたりの中心に置き、ゆっくりとお腹まで滑らす。


「んっ…あっ…やっぱ無理…」

 体をくねらせこちらを向き腰に抱き着いてくる。


「休憩ついでにお昼ご飯食べる?サンドイッチ用意してもらってるけど」

「んー。後5分…」

「2度寝か!」

「いいじゃん…5分だけ…そしたら私がコーヒー入れたげるから」


 腰の辺りで抱き付かれているので男性の事情としては早く離れてほしいのだが、彼女の腕はしっかり腰の後ろまで回されていて動けない。彼女の手が彼の手をつかみ頭の位置に持っていく。撫でられるのが相当気にいっているのだろ。思ったより甘えてくるタイプだった。


 髪を優しく撫でると腰に回された手に力が入る。結局10分程度そのままの姿勢でいた。その後満足したのか『ありがと』と言いキッチンへ向かった。


「コーヒーでいいかな?」

「そうだね。パックは出してあるから使ってくれたら」


 そう言いながら朝に家から持ってきたサンドイッチをダイニングテーブルに置く。2人で食べるには少し多いかもしれないがレタス、ハム、タマゴと色々と入っていてありがたかった。


 朝からまともに会話をする時間が取れなかったので昼食の時間はありがたかった。のぞみちゃんには自身の話題は出さない方がいいと言われていたが誤解は解いておきたいと思う。クリスマスの後、家に帰って電話した時は元気な感じで接してくれていたがそんなわけはないと思う。


 彼女は仲直りは不可能だと言っていたが全ては誤解なのだ。デートに関しては事実かもしれないがあれも落ち込んだ彼を励ますためだったはずだ。機嫌良く食事をしてる最中に切り出してみた。


「クリスマスのことだけどさー」

「何?」


「誤解だけ解いておきたくて…」

「…誤解…?」


「のぞみちゃんはあの日、本当に真琴のことを心配して連絡してきただけなんだ…」

 言葉を続けようと思ったが、真琴は持っていたサンドイッチを皿に置き背もたれに背中を付けて下を向く。


「…なんで私と居るのに他の女の子の話しするかなー……」

「そういうことじゃ…」


「じゃあどういうこと?…あの女は悪くない…私が悪いんだ…何で庇うのかなー…」

「…庇うわけじゃなくて…ただ事実を理解してもらいたくて…」


「事実って何?…腕組んでデートしてたじゃん…内緒で2人で会ってたじゃん…」


 その通りだった。こちらにはこちらの事情があるが、彼女から見れば嘘偽りない事実は言われた通りだった。彼が話そうとしたのは自分たちの都合で言い訳だった。


「ごめん…」

「裕美ちゃんやしずくちゃんなら分かるけど…何であの女なの?」


 数日前までのぞみちゃんと笑顔で呼んでいたのが今や『あの女』だった。彼はこの話題を出したことを酷く後悔した。そもそも手に負えるものではなかったのだ。


「それは…ごめん…」

「別に…たかちゃんに怒ってないよ…でも2度と口に出さないで…」


 そもそも拗れた人間関係を自分でどうかした経験もない彼には無理な話だと悟る機会にしかならず、この場は諦めるしかなかった。


 のぞみちゃんは真琴のことが好きだと言っていた。憧れているとも。それでもこうなることがあり、仲直りは不可能だというのだから彼女の言葉に従うべきだった。言ってしまったことは仕方がないが、原因を作っておいて何もできないのは恥ずかしかった。


「クリスマスはさ、色々あったけど最高の思い出なの…これからも色んなことがあると思うけどきっと忘れないな…」

「そうだね…」


「ねぇ…たかちゃん…キスしよ…」

「えっ…今?」


「そう…いま…だって男の子は…その…落ち込んでるときにエッチなことしたら…元気になるんでしょ?…だからしずくちゃんがしたって…」


 そういう解釈になるのか。斬新だなと思う。しずくの考えてることは、いまだに分からないがそこまで短絡的ではない気がしてる。


「嫌じゃないよね…何ならキス以外もいいし…ちゃんと今日はかわいい下着付けてきたから…」

「いやいやいやいや…あっ…嫌じゃなくて…この後しずくも裕美も帰ってくると思うから…じゃあ…キスでお願いします」


「びっくりした…嫌なのかと思ったよ…もうちょっとで今日がたかちゃんの命日になるとこだったね。じゃあ食べたらソファーでしよ…」


 たぶん冗談だと思うが数パーセントぐらい本気も入ってそうだったので突っ込むのはやめておく。しかし女の子はキスや告白の場所にこだわりが強いなと思う。


 ある程度食べたところで今度はソファーの真ん中に座るように指示された。『重かったら言ってね』とこの状況では絶対に言えそうにないことを伝え対面で両足を跨ぐように抱き着いてくる。そして少し躊躇しながら腰を下ろす。彼女のお尻から重みが伝わってくるが、目の前にある彼女の上半身の近さにそれどころではない。


「大丈夫?重くない?」

「ああ、全然…問題ない」


 先ほどの膝枕と違って顔が同じ位置にあるので彼女の香りがダイレクトにして心地いい。


「今日は膝枕してもらいながら映画見るのとソファーでの対面キスで夢が2つ叶うよ…」


 そう言いながら彼女は抱き付いてくる。よく考えたら友達という関係の範囲をかなり越えてきてる気がするが、彼には制御するすべがなかった。世の中に肉弾戦を挑んでくる女の子を制止できる人はいるのだろうか。


「その夢は何個ぐらいあるの?」

「100個…」


「多いね…」

「全部叶えてね……」


「今度内容教えてくれたら努力するよ…」

「じゃあ…考えとく…いっぱい元気にしてあげるね…」


 100個の内容を今から考えるんかいと思ったが、重厚な圧力の唇の感触に思考を邪魔される。彼女の背中に回された手に力が入り、顔は少し斜めになっていて全体的に密着感が凄い。


 生暖かい吐息と唾液交じりの舌が口の中で暴れている。これは高校生がしていいキスの内容ではなかった。年齢に応じてキスの段階があるのかは分からないが、イメージとして純粋な好きを伝える淡いキスではなく、性行為を感じるような激しいキスだった。


「じゅぱっ…ごめん…伝え忘れてたけど…30分するから…ぢゅっ…」


 何のお伝えか理解できないが、キスに時間制限とかあるのだろうか。30分ということは20分コースとか60分コースもあるのだろうか。キスの平均時間は調べたことがないので分からないが、標準的なものや基準があるなら教えてほしい。


《んぐっ…チュ…ぢゅるっ…チュ…チュ…んん…》

 

 緩急を付けて唇を吸われ、舌を絡ませてくる。最近の友達はレベルが高すぎる。今のところはまだ大丈夫だがこれは勃起不可避だと思う。


 この密着感では良からぬことになりかねないので、先人に倣って素数を数えようと思ったがよく知らないのですぐに終わった。


《にゅ…レロ…チュ…チュ…ん…んっ…ぢゅる…》


 こちらも舌先で少し応戦するが9対1ぐらいで攻撃が来る。キスというより唾液の交換である。これは確かに好きな相手じゃないと不可能な行為だと思える。


 明らかに人生の中で一番長いキスだが時計に目をやると15分程度だった。ここからさらに倍という衝撃と時計を見ていたことを真琴に目線でバレたことによるダブルのインパクトが襲ってきた。


「…何…はぁっ…時間が気になるの…気持ちよくなかった?」

「気持ちいい…」

「じゃあ…集中して…ぢゅっ…」


 部活かなんかだろうか。ちょっと真琴の真剣さに驚いたが、別に30分とは言わず出来るレベルの気持ちよさは与えられている。


 ただキスの途中に考え事は多くの男がしてそうな気はする。特に受け身のキスは暇なのだ。考えが読まれたわけではないだろうが彼女の手が彼の手を引き寄せニットで張り詰めた胸に押し当てた。


「…触っていいから……チュ…」


 当てられた胸は片手に余る重厚さとブラの少し硬めの素材のせいで感触的には分かりにくかった。ただ押し付けられた部分は柔らかく形が変わり十分な弾力が手に伝わる。


「ちょっと待て…まだ友達だから…これ以上は…」

「ぢゅっ…なら彼女にして…ブラ外すね…ん…」


 彼女はキスをしながら両手を後ろに回し、ブラのホックを外す。締め付けが緩むと同時に胸が数センチ下がり重みが増す。そして服の上から胸に当てていた手を取り、服の中へ導く。


「…直接触って…好きにしていいから…」


 しっとりした肌というのは手触りが最高だった。服の中なのですべては見えないがオーバースペック気味な下乳が胸の重厚さを物語っていた。乳首は小さめで少し上気味に感じるので全体的に大きいのは確かだ。肌の張りとかいうが基準があるとしたら最高レベルだろう。


《ん…ん…はっ…あっ…んんっ…んぐっ…ぢゅ…チュ…》


 キスの音に軽い嬌声も加わりよりアダルトな雰囲気が漂う。彼自身も完全に勃起状態にあった。友達と彼女のラインはどの辺からだろうとなるべく乳首は避け胸をゆっくりと揉む。乳首に触れなければ大丈夫という決まりはないのだろうが何となくそうしていた。


 30分と勝手に突入した延長戦の5分を経過してやっとお互いの重ねていた唇が離れる。


「はぁ…んっ…はぁ…元気出た……?」


 全身が元気になってはいるが、そういう話ではないだろう。ただ彼女の機嫌はすこぶる良く見えるのは間違いなかった。

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