第23話 対抗心

 12月も3週目になり、2学期の終わりも見えてきた。去年の今頃は受験勉強をひたすらしていたことを思えば、余裕のある12月だと思える。


 昼休みのグループにメンバーが増えて2か月程度が経過し、思っていたよりも全員が仲良くなり安定している。後から加わった2人のコミュ力が高いお陰もあるだろう。そんな2人のちょっとした小芝居が始まった。


「クリスマスパーティに着ていく服がないんだのぞみちゃん!」

「あー。じゃあ買いに行かなきゃね。選んでもらったらいいじゃん。土曜日なら暇じゃない?」


これがやってるってやつだろうか。素直にお願いするではダメなんだろうか。スルーすると怒るだろうし本当にめんどくさいと思う。しかし恐らくこうなったのは裕美が原因なので責める気はない。

 なぜ女の子は男が関わると牽制のため自慢をしてしまうのか。匂わせは大事と本人は言っていたが事実を話すこととは目的が違うので賛同できないものがある。なので無難に、そして適当に返してみる。


「真琴なら何着ても似合うでしょ」

「へー。そんなこと言うんだ。裕美ちゃんの服は選んであげるのに、私のは選べないんだ。へー私はそういう扱いなんだ。もう…死んじゃおうかなー」

 ほら、面倒になった。そのちょっと影のある顔も、落ち込んだ喋り方も全部作ってるよねと言うほど馬鹿でもないので頬杖を付きつつ真琴を見ているにとどめたのだが、もっとめんどくさいやつが参戦してくる。


「かわいい下着をさー、選んでもらったんだ。クリスマスに見せる約束もしたよ」

 相変わらずの裕美VS真琴の戦いが始まった。『人間が対抗心を持つのは、自分と同じぐらいだと、相手のことを値踏みしているから』とネットで見たのである意味では同レベルで仲がいいともいえるのだろうか。


「あーあーあ。そんなことするんだ。下着とか選んじゃうんだ。私とか邪魔なんだ」

「選んでねーよ。騙されるな。こいつは嘘を付いている」

「裕美ちゃんとも行ったんだからまこちゃんとも行くべきじゃない?」


 いつもは話を変えて止める側ののぞみちゃんも、今回は真琴の味方で結論までもっていくつもりみたいだ。ここで言い訳は色々思いつくが、どうせ行くことになるなら諦めて快く前向きに行こうと決めた。


「わかった。土曜日ね。場所は真琴が決めてくれると助かる」

「やったー。私もかわいい下着選んでもらいたいなー。でも裕美ちゃんとサイズ違うからかわいいのあるかなー」

「恥ずかしいなら言わなきゃいいのに…」

 のぞみちゃんが突っ込むまでもなく、真琴は耳まで真っ赤にしてうつむいてしまった。


「ばーか。脳みそ全部胸に行ったバカ女」

 真琴と裕美の小競り合いは多少続いていたがとりあえず週末の予定が埋まった。ここ数週間は目まぐるしく人との関係が変化したが、比較的上手くいってると思う。

「じゃあ、土曜日の11時にこの前のデートで待ち合わせた場所で。頑張っておしゃれしていくね」

「着ていく服あるじゃん!たかちゃんこの女ズルい!」


 土曜日になって再びドトールの前にある柱で待っていると相変わらずの破壊力を持ったおしゃれな女の子が来た。デニムパンツに長めのブーツを履いてる。ひらひらしたコートを羽織り中は白いニットを着てるんだろうか。今日は髪を結ばずに下ろしている。完全にお姉さんだ。


 真琴は『おはよう』と声を掛けると同時にクルっと一回転する。

「どう…?」

「好き…」

 何も考えず答えてしまったが、相手の予想を超えた正解だったと思う。『えっ…』と言いながら抱きしめられた。

「動けない…。ねぇ、この将軍のマントみたいなコートどうなってんの?」


 とりあえず、最初に浮かんだ疑問を聞いてみた。ちょっと頬を膨らまし、左側に回り腕を組んだところで答えてくれる。

「もうっ…将軍のマントってどんな例えよ。ケープコートだよ。袖がないアウターのこと。ほら!」

 袖を見せてくると確かにそこには白いニットに包まれた腕しかなかった。完全にマントにしか見えない。


「ショート丈のゆったりしたアウターだと視線が上半身に行くでしょ。上は体のラインが出ないんだけど、太ももから下はデニムでラインを出すことでスタイル良く見えるんだよね」

「凄い。そんなことまで考えて服選んでるんだ?」

「当り前だよ。のぞみちゃんみたいにスタイル良ければ何でも似合うけど、私みたいなのは考えて合わせないと悲惨なことになるんだよ」


 ファッションの話をしている時の真琴は機嫌がいい。これはオタクが好きなものについて話すとき興奮するのと似てる。

「そうなんだ。それで今日はどこか行きたいとこあるの?」

「ユニクロー」

「それ地元の駅でも行けるやつじゃん!」

「一緒に行くことに意義があるんだよ。今日は1日デートする予定ー」


「裕美が何か言ったんじゃないの?」

「気づいたか。先週一緒に服買いに行ったんでしょ。別にそれはいいんだけどね…たかちゃんが時間作ってくれたとか、試着した時にかわいいって言ってくれたとか、優しく気遣ってくれたとか、彼氏自慢みたいなの腹立つーって思って誘ってみました。ごめんね。迷惑だったりする?」


「いいよ。そんなことだろうと思った。真琴の場合は服選びは口実だな」

「やったー。じゃあ今日は楽しくデートで決まりね。服屋さんには寄るけど行きたいとこあったら一緒に行こ」

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