ステラ(5)
魔物討伐の報酬+人食い狼の肉はけっこういい金になった。
フレアたちはそれをきっちり四等分してくれた。昔の俺ならありえない──というわけではなく、これに関しては昔からこうだ。
そういうところは律儀というか、だからこそ分けまえ泥棒扱いされたのか。
ともあれ。
俺はもらった分けまえから金を返そうとした。すると三人は揃って「ノー」と言う。
「自分のお金も必要でしょ? 持っておきなさい」
「なにか必要になった時にお金がないと困る」
「返していただくのはいつでも構いませんから。……いえ、そもそも無理に返していただかなくとも」
あ、これ、なんだかんだ理由をつけていつまでも受け取ってもらえないやつだ。
記憶喪失の可哀想な美少女扱いされたのかもしれない。
悟った俺はフレアたちの手伝い以外になにか金を稼ぐ方法を考えることにした。
要するに金が余っていれば気兼ねなく受け取ってもらえるわけで。
今の俺に向いている仕事。
ただの野暮ったい男だった頃とは逆──と、考えて、
「この宿で給仕として雇っていただくことはできないでしょうか?」
ゴブリン討伐の翌朝、朝食の席で相談してみた。
すると、反応は劇的。
かたん、と席を立ったフレアが血相を変えて、
「冒険者が嫌になったの!?」
どうしてそうなった。……そうか、安定した職を欲していると思われたのか。
「い、いえ、そうではなく。副業というかお休みの時のお仕事という意味で」
「ああ。なんだ、そっかそっか」
紅の少女が座り直すと黒髪の美女──エマも息を吐いて、
「びっくりした」
「いえ、そんな、いきなり止めたりしませんよ。……みなさんから解雇されるならともかく」
「そんな。……そんな不義理な真似するわけないでしょう?」
銀髪青目のお姉さん、リーシャが表情を歪めるが……されたんだよ! お前らに!
「こほん。……まあ、気持ちはわからなくもないけど。止めておきなさい」
「どうしてですか?」
「ステラにはそんな暇ないから」
きっぱりと言い切られた。
はて、ひょっとして連日冒険に出るつもりなのか。そこまで無理するタイプじゃなかったはずだが。
「なにか大きな買い物でもするんですか? それならわたしの分け前を減らして」
「違うわよ。ステラには教えることがいっぱいあるって意味」
「え」
硬直する俺をエマとリーシャが笑顔で見て、
「とりあえず、古代語魔法の基礎と調薬の方法、あと他言語の読解」
「神の奇跡の扱い方も覚えて欲しいです。ゆくゆくは銃も扱えるようになっていただけると」
「あたしはなんと言っても剣よね。あと、精霊魔法も覚えなさい」
「それ全部覚えたらわたしすごい人になっちゃいますよ?」
「だってあんた、勇者志望なんでしょ?」
そういえばそういう話になっていた。
全ステータスが基準以上ある俺は白兵武器、飛び道具、魔法すべてに適性がある。その気になれば勇者にもなれると。
「で、でも、冒険者にとって技術は売り物でしょう? そんなに簡単に人に教えては」
「なに言ってるの。ステラは私たちの仲間」
「大切な後輩でもあるのですから、これは将来への投資です」
「ステラにいつまでも荷物持ちさせてたらもったいないわ。四人目の仲間として胸を張ってもらえるようにしなくちゃ」
「……みなさん」
やばい、普通に感動してしまった。
ここまで親切にしてもらえると思っていなかったからか、瞳から涙が溢れてくる。
慌ててそれを拭っていると「馬鹿ね。なんで泣くのよ」と照れくさそうな顔をされた。
「そういうわけだから副業は禁止。そんな暇があったらあたしたちに教えを乞うこと。わかった?」
「はい。もっとお役に立てるように頑張ります」
俺は『三乙女』の一員として気持ちを新たにした。
その時。
眼前に眩い光が生まれた。
「これって──」
俺は、その光に見覚えがあった。
他でもない。ほんの数日前に見た輝き。俺にチャンスを与えてくれた力。
「『
これには、さすがのフレアたちも目を見開く。
他人の『秘蹟』が開花する瞬間なんてそうそう見られない。
俺は俺で「こんな立て続けに?」と別の意味で驚いた。
──しかし、考えてみると別に連続しているわけではないのか?
あの『秘蹟』、『夢想転生』で俺は別の人間へと生まれ変わった。
その際、俺のすべては失われている。
つまり、記憶以外のすべてにおいて前の俺と今の俺は連続していない。ステラにとってはこれがひとつめの『秘蹟』ということになるはずだ。
ひとつめなら珍しさはそれほどでもない。
二つ以上を持つ人間となるとぐっと数が減るが、人は『秘蹟』を一つは持つものだ。
開花できるか、有用な効果かは別として。
果たして、今度の『秘蹟』はどのようなものか。
当然、前回とは異なる力なのだろう。俺は期待と不安を交えつつ光の文字に目をやって。
『憧憬の学び ランク:SSS
自分よりも優れた者と親交を深め、相手について深く知ることでその能力を自分のものとする。
深く知れば知るほど得られる能力は強くなる』
「これって」
瞬きを繰り返しながら文を何度も読み直していると、しびれを切らしたような声。
「ねえ、なんて書いてあるの?」
『秘蹟』の内容は得た当人以外には読めないようになっている。俺は少し迷ったうえで「それが……」と素直に話した。
すると、
「とても良い力を得ましたね、ステラさん」
「ランクSSSの『秘蹟』はとても珍しい。それだけでも自慢できる」
「今のステラにぴったりじゃない! なんと言ってもあたしたちっていう師匠がいるんだから」
確かに、フレアたちなら間違いなく「自分より優れた者」だ。彼女たちからあれこれ教わる際に『秘蹟』の力でサポートしてもらえれば飛躍的に効率が良くなる。
「でも、親交を深めるってどうすればいいんでしょう?」
話をするとか酒を酌み交わすとかでいいんだろうか?
『秘蹟』はえてして説明が足りない。詳しい使い方は自分で解明するしかないことも多々あるらしい。
三人も不可解そうに首を傾げて、
「とりあえず裸の付き合いとかしてみる?」
俺は尋ねたことを本気で後悔した。
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