第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト俳句の部

佐伯 安奈

キモノ着て血で国境を引く枯野

 キモノ着て血で国境を引く枯野



(この句について作者自解:「たそがれる言葉の骨」11話より一部引用。)


(前略)この句を作った動機ははっきりと覚えている。イスラエルによるパレスチナ自治政府ガザ地区への軍事攻撃だ。それが始まった直後くらいに作ったのだ。(中略)

 国境はビジュアルとして地上に引かれるものではないが、もし引かれるとしたら、それは血によって引かれるだろうと私は思う。どこへ線を引くか、即ちどこまでが自分たちの領土で、どこからが君たちの領土か、それをめぐり、信じられない程の血が流されてきた。比喩ではなく、そのあまりに膨大な血は、地面に線を引けるほどの量になるだろう(だから人間が地球からいなくなったら、名実共に国境も消えるわけだ)。

 キモノ着て、というのはそういう映像が思い浮かんだので入れたので、深い意味はない。正装で、というようなことか。


 戦争の後である。何もかも焼き払われた、そこは枯野のように荒涼として無惨な地上だ。いま、争いに決着をつけた国の代表者が、死んだ人々の血で国境線を引くのである。


 そこに勝利の喜びや達成感はあるだろうか。言葉本来の意味での「むなしさ」と、いつまでもそんなことを繰り返し続ける人間存在への無力感に呆れ果てはしないか。そんな感情とは無縁な人々が政治家と呼ばれているのか。


(自句解説が評価対象にならないことは知っていますが、この作品の意図だけはどうしても言いたかった。のであえて載せました。)

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