第11話 シンと異世界
あの翼が生えている人ってなんなんだ?
ああ、あれはエーレだ。翼持つ人の事だね。
魔法って召喚の魔法以外にどんなものがあるんだ?
魔法は大きくは4種類あって~。
そんな話をしていると、イーリスの後ろに控えたメイドさんが声を掛けてくる。
「皆様、昼食はどうなさいますか?」
昼食、と言われて、初めて時間の感覚のずれに気が付く。
俺は放課後にすこし駄弁って、それから帰宅している途中にコンビニ強盗に巻き込まれたんだから、日本ではまだ夕方か夜ごろの筈だ。
外国に行ったことはないが、こういう感覚なのかな。生まれて初めての時差を感じる。
もうそんな時間か、とつぶやきながら二人はこのまま食事を摂るのはどうだろう、なんて話している。
俺はお金も持っていないし、若干気まずい思いをしながら黙って聞いていると、イーリスに苦手なものはないか聞かれる。
俺も一緒に食事して良いらしい、異世界のごはんには興味がある。
ただ、俺の国にある有名な神話で、黄泉の国の食べ物を食べてしまったら帰ることができないという話を思い出して躊躇も生まれた。
それを伝えてみると、イーリスはめちゃくちゃ興味深そうに聞いてくれたが、リーンは怖い話を聞かされたと思ったのか、青ざめながら少し震えていた。
少し前までの妹を思い出すような姿で、いたずら心が沸いたが俺の召還と帰り方を知っている唯一の人なので余計に怖がらせるようなことはしないでおく。
「興味深い話だね。それにシンは教養も高くてこちらの話の理解も早くて助かる。異世界ではなにをしていたんだい?」
「こんなのオタクの一般教養でっせ。ああ、いや俺も偶々知っていただけで、お前らと一緒の学生だよ。」
おたく……? と揃って首をかしげるイーリスとリーンを見て、チートだとかオタクだとか、こっちにないような単語はうまく伝わらないんだなぁと笑いがこみあげる。
オタク文化を持ち込んで、こっちの世界の人にも娯楽を提供するのとか、良いかもしれない。
「シンは良い学校に通っているんだね。その装束も高価なものに感じるし、貴族なのかな?」
「あ、この学ランか。これはその学校に通っている学生がみんな着ているものだし、全然高価なものじゃないぜ。俺なんて全然庶民、庶民!」
貴族ときたか、やっぱり二人は貴族なんだろうな。
言葉にして気が付いたが、差別とかそういう意識ってやっぱりあるんだろうか。
ただ俺の庶民発言は二人とも特に気にした様子はない、異世界だから関係ないのかな。
「そうなんだ。えっと、ヨモツヘグイだっけ。」
意外にも俺の疑問に答えてくれたのはリーンだった。
「たぶん、そういう事にはならないんじゃないかなぁ。召喚士の中には、異世界の動物を召喚して酪農している人とかもいるし。もしそういうことなら飼い葉を食べてる牛さんとかが、送還できなくなっちゃうって聞いたりすると思うんだけど。聞いたことないもの。」
牛さんと一緒に考えられているのも変な気分だが、同じ生き物としてならそういうものなのか?
「そうだね。僕たちも普段、異世界産のものを口にする機会がある。幻獣や精霊も意思があるモノを召喚することは普通に聞くから、ヒューマンだけ帰れなくなるっていうのは考えづらいかな。」
イーリスも補足してくれたので、ふうんそういうものか、とそれならご一緒したい意思を伝えた。
異世界の食べ物は初めてだし、苦手なものって言われても食べてみないとわからない。
夕飯時も近かったし、健全な男子高校生の食欲は些末事に捉われないのだ。
「ただ、寮の食堂は使いづらいな。」
「それじゃ、外の広場にお弁当持っていくのはどうかしら?」
すこし楽しそうに、リーンが提案する。
意外に溌溂としたその提案に、イーリスもそれは良いね。と若干目元を緩ませながらリーンを褒める。
さっきから表情はあまり変わらないし、声も平坦で感情の起伏が少ないように思えるが、慣れてくるとイーリスは随分と優しく思慮深い人間に感じる。
事務的なのかと思えば言葉の端々に優しさが見て取れて、このイーリスとリーンの人間性の良さを感じられる。
「それじゃあ、僕はアイシャと一緒にお弁当を取りに行くよ。せっかくだし、シンとリーンも少し話をして仲を深めたら良い。」
どうやらメイド服の女性がアイシャというらしい。
ぺこりと一礼してイーリスの傍に控えているその女性は、メイド喫茶とかにいる派手な可愛らしい服装ではない。髪を隠す白いキャップにシンプルな丈の長い黒ワンピース、上に白いエプロンとまさに働くための格好というか。
メイド服のイメージがあるからメイド服だろうなって思っていたけど、俺のイメージよりも随分地味な格好の女性だ。
あまり言葉を発さずに控えている様子から、仕事人の雰囲気はすごい感じていた。
「あ、じゃあお願いしようかな……。」
やっぱりもじもじしながらリーンが了承し、俺もさっきからイーリスとばかり話していたから全く構わない。
そうして俺たちはさっきの広場に戻るべく、連れ立って石造りの建物を出たのだった。
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