ヴェリタ王子救出④ (クランツ)


 クイスタ皇国第二皇子、クランツ・シュヴァインはずっと考えていた。

 どうすればリベルタ王女を手中に収めることができるのか、と。


 そんな折り、彼女の弟でありオルゴー王国唯一の王位継承者であるヴェリタ王子を捕らえたとの報告が入ってきた。


 当初、そんなことはクランツにとって心底どうでもいいことであった。


「王子よりも王女の確保が優先だ」「王子は死んでいても構わないが、王女は何が何でも生かして連れてこい」と、何度この口から発したかもわからない。


 なぜ捕らえたのがリベルタ王女ではなくヴェリタ王子なのか、と憤りすら感じたほどだ。


「あっそう。それで? リベルタ王女の方はどうなってる?」

「それは……、まだ捜索中でがほっ」


 だから、腑抜けたことを言った兵士を滅茶苦茶に蹴ってやった。

 どうして自分の部下たちは、いつまで経っても優先順位という子供でもわかるようなことを理解しないのか。

 そのまま蹴り殺しても良かったのだが、


「クランツ殿下。その王子ですが、もしかしてリベルタ王女の行方をなにか知っているのでは?」


 悪くない進言をしてきた兵士がいたから、腑抜けた方も許してやることにした。


 我ながら寛大な処遇をしたものだと思いながら、クランツは自らヴェリタと会い、リベルタ王女の行方を問いただした。


 結論から言えば、ヴェリタ王子はリベルタ王女の行方を知らなかった。

 だが、彼と話したことでヴェリタとリベルタの姉弟の間に強い絆があることを知れたのは大きな収穫だった。ヴェリタ本人の心から手ずから汲み上げた情報だ。間違いはない。


 そこで思いついたのが、ヴェリタの処刑をエサにリベルタ王女をおびき寄せる作戦だ。王と王妃は捕らえたその日にさっさと処刑して首を晒したが、ヴェリタはあえて「3日後に処刑する」と告示した。


 オルゴー王国はそれほど大きな国ではない。

 すぐに情報は王国全土に広がっていくだろうし、逃亡中のリベルタ王女が駆けつけるにも3日あれば十分と考えた。


 あまり長く時間を置くことで、王国内で日和見している勢力が手を組み、大軍を差し向けてくることも考えられた。3日とは、彼女を待てる限度でもあった。


 そして今。リベルタがいるべき場所になぜか黒髪黒瞳くろかみこくとうの異邦人が立っている。やはり現実はよくよく思い描いた通りには進まないものだとクランツは嘆息する。


 あげく、その異邦人が自分に敵意を向けてきているのだから始末に負えない。

 大方、クランツの身分が高いことに気付いて人質にでもしようと考えているのだろうが、無謀にもほどがある。


「おい。そこのキツネェ。今、なにを考えた?」

「…………」


 クランツの問いに異邦人は返事をしない。

 ここで「お前を人質にしようと思った」と正直に答える者などいないだろう。

 へらへらと薄ら笑いを浮かべて心にもないウソを言うヤツより、黙ってこちらを見ているコイツの方が多少マシだ。


 どうせ言葉なんて信用できない。

 だからクランツは、その目を凝らして処刑台の上にいる異邦人の目を覗き込む。


 クランツは自身の召魔であるダンタリオンの能力で、瞳を覗き込んだ相手が考えていることを大まかに読み取ることができる。


 彼が質問をするのは、相手の心に波紋を広げるためだ。


 心の中は色で溢れている。

 平静を装ってはいるが、異邦人の心の中は畏怖の色が渦巻いていた。


 この短い時間でクランツの怖さを理解できているのは、この異邦人が優秀な戦士であることの証明でもある。もし皇国の人間であれば、今の使えない親衛隊長を飛ばしてこの男を据えていたかもしれない。


「貴様はなぜここにいる?」


 クランツの問いによって、再び異邦人の心に波紋が広がる。

 畏怖の色に、動揺の色が混ざり始めた。


 この男は自身の心が読まれていることに気付いている。

 そして読まれては困る情報を持っているから、動揺しているのだとクランツは心の色から読み取った。


「そうか。貴様はリベルタ王女を知っているのだな」


 畏怖、動揺、を上回るほど濃い肯定の色。

 クランツが仕掛けた罠はちゃんと役目を果たしていたようだ。


 王女ともあろう者が得体の知れない異邦人を送り込んできたことに、皇子であるクランツは強い不快感を覚えたが、それはこれから先、自分が彼女を躾けていけばよいのだと自らを納得させた。


「そして、リベルタ王女の居場所も知っている」


 動揺の色が濃くなり、畏怖の色をかき消した。

 肯定の色がそれほど濃くならないのは、現時点での居場所に確信を持っていないから。いや、この異邦人を押さえたとき既に逃げ出しているようだ。


「北か? 南か? そうか。南か」


 南、と言った瞬間に動揺の色がはっきりと出た。

 ここから南に向かうと、王国の最大勢力の一つであるビャノス辺境伯の領土がある。それか道中にある城塞にでも逃げ込むつもりか。


 いずれにしても、その前に捕まえてしまわなければ。

 城の中に入られてしまっては面倒だ。


「おい、お前ら。今すぐリベルタ王女を追え。絶対に殺すなよ?」


 召魔士を数人選んで追っ手とした。

 王女一人を捕まえるのに過剰な戦力だと思われるかもしれないが、相手の戦力がわからない以上は確実に捕まえられるようにしておきたい。


 あとは目の前にいる異邦人の男をどうするか。

 優秀な戦士なのであれば、ここで暴れられるのは困る。


「貴様はリベルタ王女のなんだ?」

「あーもう。黙ってたってバレるんだから、意味ないよね。ただの護衛だよ、護衛」

「そうか。ならば、ここで待っていればいい。殺すつもりはないし、丁重に扱うことを保証しよう」

「嫌だって言ったら?」

「ここにいる兵士全員が命を懸けて貴様を足止めする」

「……足止め。そうか、足止めかぁ。それは最高にダルいな」


 男は手を挙げて反抗の意思がないことを示した。

 だがこの後すぐ、クランツは想定と全く違うかたちでリベルタ王女との対面を果たすことになる。




§  §  §  §  §  §  §


 気づけば一月が終わりそうです。

 この作品もそろそろ終わりが見えてきました。クライマックスってやつです。

 書いている私はすごく楽しく書いてますが、読者の皆様にもお楽しみ頂けてますでしょうか?

 私の半分でも楽しんで頂けていたら嬉しいです。


 それでは、また明日。

 

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