ヴェリタ王子救出① (リベルタ)


「ヴェリタを救出しなくては」


 それが目を覚ましたリベルタの開口一番であった。


 スパックォ城塞にある賓客のための客間。

 決して広くはないが、高価な調度品が並べられており、ベッドの布も上質だ。

 本来ならば、王族であるリベルタを通すべきは、鉄の壁に囲まれた仕掛け部屋などではなくこのような部屋であったハズだ。


 外からはまぶしいほどに朝日が差し込んでいる。

 意識を失ったのは昼頃だったハズだから、どうやら半日以上が経過してしまったらしい。


 リベルタが目を覚ましたことを聞いて部屋へと駆けつけてきた二人の護衛に、「ヴェリタを救出したい」と、もう一度同じことを伝える。するとディニーは眉間にしわを寄せて黙り込み、オズマはあからさまに大きなため息をついた。


「うん。ぶっちゃけ王子様なら……じゃないんだっけ。王女様ならそう言うだろうなぁとは思ってたけどね。絶対にやめた方がいいよ」


 その場で真っ先に反対の意思を示したのは、護衛の一人である召魔士のオヅマだった。


 リベルタを『安全な場所まで護衛する』という依頼を前金で請け負っているオヅマの立場としては、余計なことはしないでさっさと先へ進みたいと考えるのは当然だ。

 だが、この件に関してはリベルタにも彼を説き伏せるための一案があった。


「リベルタで構わない。そもそもオヅマ殿が受けた依頼は『ヴェリタ王子の護衛』ではなかったか? そのヴェリタ王子が処刑されようとしているのだから助けにいくのが道理だろう」

「いやいやいや。俺が受けた依頼は『ヴェリタ王子をを護衛』することだし、待ち合わせ場所は『王都南方にある山』なんだから、そっちのヴェリタ王子は人違いだよ。本人だけど人違いってのもおかしな話だけど」


 この程度の詭弁は想定済みだったのか、オズマは口の端を上げて得意げにスラスラと反論した。


「その依頼、日時は決まっていたのか?」

「え? そりゃまあ、一応ね」


 歯切れの悪い返しに、今度はリベルタが口の端を上げる。

 依頼主が誰かは知らないが、クイスタ皇国が急襲してくる具体的な日時をあらかじめ指定できていたとは考えられない。


「なんと?」

「…………『王都オルゴニアが陥落したら』だ」

「それならば、現在も続いているということだな」

「おいおいおい。何を言い出して――」


 誰が聞いても強引な解釈に慌てるオズマに向かって、リベルタはここぞとばかりに畳みかける。


「そして三日後、処刑されようとしている男は『ヴェリタ王子』だと触れが出ているな」

「それは名乗ってるって言わな――」

「本人が認めていれば名乗っているのと同義だ。さらに場所についてだが」


 あえて一拍、リベルタが間を置く。

 続く言葉を察したらしいオヅマが「なんかイヤな予感がするなぁ」と引きつった表情を見せた。


「王都オルゴニアから最も近いエゼコチオネ処刑場は、王都の南方の山中にある」

「いや、さすがに後出しがすぎるって。……なあ、アンタはいいのかよ。殿下がまたとんでもないこと言い出してんだぞ。止めるのも側近の仕事じゃねえの?」


 あまりにリベルタに都合の良い言い分に肩をすくめたオヅマは、これまで一言も喋っていないディニーに水を向ける。

 目をつぶり、眉間に皺を寄せたまま話を聞いていたディニーだったが、ぽつりと「わからない」とつぶやいた。


「え、本気?」

「リベルタ王女殿下の側近としては、一刻も早くビャノス辺境伯領へとお連れすべきだ」

「なんだ。ちゃんと、わかってんじゃん」

「だが、王族親衛隊としては唯一の王位継承者であるヴェリタ王子殿下を見殺しにはできん」


 その言葉を聞いて、リベルタから安堵の息が漏れた。

 ディニーの性格を考えれば、王族親衛隊としてヴェリタを見殺しにすることはできないだろうと踏んではいた。踏んではいたが、人の心が決めるものに確信を持つことはできなかった。


「とは言え、だ。王子殿下救出にあたって、もし私の身に何かあれば、殿下を辺境伯領へとお連れすることができなくなってしまう。いかにすべきか……」


 ディニーは本気で悩んでいるらしく、うんうんと唸っている。

 その様子を隣から見ていたオヅマが、あきらめ顔でため息をついて言った。


「あー。それなら、ひとつ名案があるんだが」

「黙れ。貴様の案など役に立つものか」

「まぁ、そう言うなよ。すっごいシンプルにアンタの悩みを解決できるんだから」


 いつの間にか影から出てきていた彼の召魔、ダヴァンティの頭に手を乗せたオヅマが出した提案は、本当にごくごくシンプルなものだった。


「俺とダヴァンティだけで、その王子様を救けに行けばいい。ってか、そうでもしないと王女様はココから動かないつもりだろ」


 同じことをリベルタも考えなかったわけではない。だが、たった一人で死地へと向かわせるのはあまりにも非人道的ではないかと思い、口にはしなかった没案だ。


 それをまさか、当の本人が言い出すとは思わなかった。


「オヅマ殿……」


 感謝の気持ちを伝えようとしたリベルタだったが、オヅマの手が親指と人差し指で丸い円を作っているのを見てスッと冷めた。


「つきましては、危険手当を頂けましたら、と」




§  §  §  §  §  §  §


 リベルタ王女は本作のヒロインです。

 ずっと出ていたのにヒロインと呼べなかった悲しみ。


 それでは、また明日。

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