第2話「間違い召喚であってくれ」
『聖女召喚の儀式』
聖女とは聖なる力で悪しき力から王都を護る結界を作り出す清らかな乙女。
慈悲深く、自らの事よりも人々を助ける為に動ける人。
「その聖女召喚で喚ばれたのが俺だったから、すごい怒られて……」
「そりゃまあ、聖女を呼んだのにお前みたいな、うすらでかいぼけっとした男が現れたら驚くわな……でも間違いとはいえ勝手に呼んどいて怒るとか失礼な奴らだよな」
「うすらでかいとか酷い……」
拗ねたように唇を尖らせた悠也の背中を叩いて宥める……さっきから気付いてはいけない何かを感じている。
「聖女召喚には大量の魔力がいるらしくて普通に集めていたんじゃ10年かかるらしいんだけど……聖女じゃなくても魔力だけは俺も相当あったみたいだから再召喚を手伝わされたんだ」
「うん」
「そうしたら、悠生が召喚されてきて……」
「……うん」
「怒り狂った神官っぽい人達から一緒に追い出されちゃった」
まだ眠る俺を背負ってとにかく街から離れようとここまで運んできてくれたらしい。
「そりゃ怒るだろうよ」
続け様に聖女じゃなくて男が召喚されちゃあね。
聖女といえば、やっぱり可愛い女の子だろ?召喚した奴らだってそれを期待して長い年月、力を注いできただろうに間違い召喚2連続なんてやってられな……い……。
先ほど感じた違和感がまた蘇る。
待てよ?悠也の話を信じるなら、最初の召喚では女の子が召喚されそうになったのを俺が助けようとして、その俺を悠也が助けた。
と、いう事は召喚されるべきはその女の子であるはずだろう……今回あの魔法陣は最初から俺を狙ってなかったか?
「本当だよね。悠生ほど『聖女』にぴったりの人間なんていないから、頑張って魔法陣に干渉して悠生を呼んだのに怒るとか失礼だよね」
「ちょぉぉぉぉっと待て。俺を呼んだってなんだ?」
聖女だろ?聖女召喚だろ?なんで俺を呼ぶ必要がある。
「魔法陣?に魔力を込める時に聖女のイメージを持つことが大切だって説明されたんだ」
「まぁイメージは大切だよな。それで何で俺なんだよ。お前聖女って知ってる?」
「優しく高潔で美しい慈愛に満ちた女性なんだって。ゆうちゃんはいつも遅刻しないように朝起こしてくれるし、ネクタイ結んでくれるし、怪我したらすぐに絆創膏貼ってくれるし、優しくていつも笑顔向けてくれるし、俺が何しても許してくれる。聖女ならゆうちゃんしかいないでしょ?」
そう……小学校からの付き合いだが、こいつはいつもぼんやりしていて生活力が皆無なんだ。それで学校の成績は常に上位なのがムカつくとこだが。それでいつもつい世話を焼いてしまっていたのだが……お前が原因か!!
「お前は大事な部分を忘れてる……それは『女性』って部分だ!!だいたいお前の言うそれは『聖女』じゃなくて『オカン』だ!!」
はっとした顔の悠也……うん。こいつはこういうやつだよな。
「だいたい聖女って言ったら絶世の美女に決まってるだろ。何で俺を……」
巻き込むんだ。と言いそうになった言葉を飲み込んだ。そもそも悠也がこの世界に飛ばされた原因は俺にもあった。
「でも、ゆうちゃん居なくて寂しかったんだ。ゆうちゃんのいない世界なんかで生きていけない」
怒られた大型犬の様に萎れてしまった姿に良心が痛む。こいつがこんなんなのは俺が甘やかしてきたせいもあるんだろうと思いながら……頭を撫でてやる。
「悪かったよ……俺を助けようとしてくれたんだもんな。いきなりこんな現実離れしたことになって、知らない土地で役立たずなんて一人で放置されたら怖かったよな。うん、こうなったら二人で帰る方法を探そう」
「うん。でも俺はゆうちゃんがいてくれたら、どこでも平気」
頭を撫でていた手を引っ張られ、倒れ込んだのは悠也の腕の中。
逞しさを感じる身体、小さい頃は悠也の方が小さくて、いつの頃か背を越えられたけどここまで体格の差がついていたなんて……息子の成長みたいで少しジーンときてしまった。
「女の人じゃなくてもゆうちゃんはとっても可愛いよ」
ぎゅっと抱きしめられて体が密着する。
「可愛いは褒め言葉じゃねよ」
抗議しようと顔を上げると思いのほか近くに悠也の顔がある。こんなに間近で悠也の顔を見るのはいつぶりだろう。
「ゆうちゃん……お願い。俺を一人にしないで……俺ゆうちゃんがいないと何もできない」
昔々……こんな顔で同じ様なことを言われたな。あれはいつのことだったっけ?幼稚園でまだチビだったこいつが、いじめられて泣いてた時だっけ?
「わかってるって、ずっと側にいてやるって言っただろ?」
悠也の顔に過去の面影を重ねて思い出に耽っていると……。
暖かくて……柔らかい……。
「ゆうちゃん……誰にも邪魔されない場所で二人きり、永遠にのんびり生きていこう?」
突然のことで硬直したのを良いことに、顔中にキスを振らせてくるワンコ。
「いい加減にしろっ!!」
思い切りその頬に平手打ちを見舞わせた。
「何すんだよ……俺の……俺の……」
初めてのキスの相手が悠也だなんて……。
口を必死に拭う俺の体を悠也はまだ離してくれない。
「ファーストキスだったのに?大丈夫、お泊まりした時とかゆうちゃんが寝てる間に何回もしてきたよ」
今度は無言で拳を頬に食らわせた。
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何度も謝られ、許したわけではないがいつまでも怒っていても仕方ない。知らない世界、知らない場所、もしもの時に支え合えるのはこいつだけなんだ。
「ここがどういう世界なのか、なんか聞いてるか?聖女とか言うぐらいだからファンタジー色の強い世界な気はするけど……いわゆる魔物とかそういうのいるのか?」
「魔物っていうのかな?凶暴な動物いるよ。さっきも倒したし」
今まで気が付かなかったのが嘘みたいに。大きい猪みたいなのが森の奥の方に転がっている。いるんだ凶暴なのが。
「倒したってお前が?……あ、魔法。お前は強いのか?」
さっき炎を見せてもらった。魔法があるんだった。
「ああ『大賢者』らしいよ」
大賢者?賢者の上?こともなげに言ったけど、それってかなりすごいんじゃ……聖女じゃなかったとしても、絶対手放されることのない職業?って言っていいのかわからんが、すごいんじゃないのか?
「これ俺のステータスね。」
タッチパネルのような物が現れて、覗いてみるとゲームのステータスの様なものが並んでいる。
うわっ本当に大賢者って書いてあるじゃん。全てのパロメーターが万超えてるんだけど……すごいの?すごくないの?いや、きっとすごいんだろうな。
「元々数値高めだったけど……かなり変わってる……大賢者かぁ……あ、召喚した奴らに見せたのはこっちね」
ステータスの画面が少しブレて、そこには『魔法士』と書かれていた。数値は100以内。魔力だけが200近かったが、これで魔力が多いと召喚の手伝いをさせられたんだから、万越えってかなりすごいんじゃないか?大量にあったスキルの数々も消えている。
「悠生のも見てみようよ。あいつら男と見るなり、目を覚さない悠生を放り出そうとしてさ……後悔しても知らないよ」
「どうやるんだ?」
どうせ大したことはないだろうと思いながらも何処か期待してワクワクしてる自分がいる。
「ステータスでも状態でも、自分の思う言葉で念じれば見られるよ」
なら、ここは定番で『ステータスオープン』と念じると、悠也と同じようなタッチパネルもどきが現れてそこには……は?
「どうだった?……あ、ほら、やっぱりゆうちゃんが『聖女』じゃん」
悠也の言う通り、そこには『聖女』としっかり書き込まれていた。
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