第10話鋭い一撃でした
王都クロウディルには大きく3つの区画が存在するが、そのうちの下層街は特に賑やかな街である。
城壁門は東西南北各所にあり乗り合い馬車の往き来も多く、各国から行商人や冒険者の出入りもあり下層街は様々な人達をもてなす観光地みたいな側面もあるのだろう。
宿や飲食をする店もあり露店からの料理の匂いを嗅いでいると自然とお腹も空くというもの、ミリーと下層街を周りついつい串ものを握り頬張りながら歩いてると。
「フィオナは食べてる時が一番顔が緩みますわね、晩御飯の前にそんなに食べて・・・」
この香りの中、我慢できる人は相当なメンタルだろう、それにここに連れてきたのはミリーの方である。
しかも何気におすすめの店もよく知っており、私より下層街の事に詳しかったりする。
「ミリーが物知りなのは知ってるのですが、下層街のことも詳しいのです・・・城からここまで結構な距離があると思うのですが」
まあ間違いなく何度も抜け出しては街を歩き回ってたのだろう、なんなら中層の人達より詳しいかもしれない。
王位継承権を持たない第三王女とはいえそんなに自由に行き来できるとは、この王都はそれだけ平和なのだろう。
「私(わたくし)は国政に関わってはおりませんから、とはいえ魔導師になるときはそれなりに揉めましたわね」
実力でわからせましたがと軽く言ってるが、才能だけで通せるものではないだろうし・・・やはりミリー自身の努力の賜物なのだろう。
「ミリーを見ても育ちのよい令嬢くらいの反応なのです、王女の姿って認知はされないものなのです?」
「そうですわね、フィオナは私(わたくし)のお兄様とお姉様の顔は思い出せますの?」
言われてみれば王族の顔が特に思い出せない、というより会ったこともないから知らないかも・・・前世みたいなメディア媒体もないことを考えれば十分有り得ることなのかもしれない。
「王族を守る近衛騎士であっても兜の下の顔を知らない、なんてことも往々にしてありますわ」
「それもそうですね~一緒のクラスのカーム君も、理事長の顔知らなかったということで他の子達に笑われてたです」
ミリーとそんな話をしながら歩いていると、武具屋の露店に見なれた武器が飾ってあった。
「ミリー、この剣は見たことあるです?」
「刀と言われてますわね、共和国で造られてるという話でしたが・・・王都でも取り扱ってますのね」
共和国か、行ったことないからなんとも言えないけど、時計といい測定器といい・・・そういえば家の台所の魔導コンロも共和国が発祥だったと思い出す。
「もしかしてこれってクルス商会が関わってるです?」
「ええそうですわ、よく分かりましたわね?」
どうやら私以外にも転生者がいたみたいだ、前世と同じ時代かは分からないが・・・そのクルス商会を創った人は日本人の可能性が高いだろう。
いやまあジャパニーズカタナが好きな外国人かもしれないけど、いつか会う機会があったら是非ヘッドホン作れないか聞きたいものだ。
学院の放課後や休みの日もミリーとよく遊んでいる、というよりほぼ毎日だが・・・今日は休みで私の部屋で一緒なのだが。
「フィオナは鉄板で何を作っていますの?」
私が鉄板をああでもないこうでもないと切ったり貼ったりしているのを眺めていたミリーが話し掛けてきた。
まあ端から見たら何してるか分からないだろう。
「ジオの追加パーツを少々・・・よし完成、なのです」
バックパックとディオールの杖に取り付ける追加パーツを完成させ一段落、まあ無くても特に問題はないのだが見た目は大事である。
「器用ですわね、触媒結晶を付けないとはいえ工房もなしで加工するものではありませんわ」
指からレーザーブレードを出して削っているから大掛かりな設備もないからと部屋で作っている、最初は作業用に下に何も敷かずにやって溶けた鉄で床に穴をあけノルスに怒られたなぁと・・・しかし
「かぁぁぁ、くぅぅぅ・・・」
姉のアイリを起こすかもと思ったがまるで起きる気配はない、私よりアイリの方が呑気だと思うのだが・・・私の方が呑気に見られるのは少しだけ納得がいかないなぁ。
「ふふ、なんていうか本当に姉妹ですわね」
「よく言われるです、でも・・・」
魔力の『色』見ると全然違いますわねとミリーに言われるのだが、自分の魔力に関してはよく見えないからなんとも・・・
「まあいいのです、それはそれです」
「それでその追加ぱあつ?はどの様に使いますの?」
それはギルドで討伐依頼を受けてからのお楽しみと・・・そういえば12歳になったから私たちはブロンズランクでの仮登録で依頼を受けれるはずだから、ミリーと次の休みの日にでも誘って行ってみるのもいいかも。
「来週の休み討伐依頼にでも行かないです?」
「私達は学院生ですのよ?ブロンズでは・・・」
「シルバーランクの冒険者同行が条件、なら大丈夫なのです。ジオはシルバーランクになってるので条件は満たしてるのです」
え?とミリーが驚く、まあ最近なったばかりだけど条件はクリアしてるなら問題はないと来週の討伐に備えるのであった。
ギルドでのミリー同行の許可はジオ殿であれば大丈夫でしょうということで、魔物の討伐依頼を受けることができた・・・のはいいのだが。
「洞窟の中だとスラスターが使いにくいのですー」
頭部装甲を通して低周波に変えた野太い声が洞窟内に響き回る、その声に対しミリーは。
「ちょ、その声でいつもの喋り方はやめてもらえます?力が抜けますの!」
ミリーと一緒にいるためか、ついいつものような話し方をしてしまった・・・この状態の低い声はとても耳によろしくない。
「んん、失礼。困らせて申し訳ない、麗しきお嬢さん」
「中身を知ってるとなんだか複雑ですわ・・・コウモリ型がきますわよ!」
ブォォォンッ とブレードを横凪で切り払いスラスターを噴かしながら着地、空中戦をやってみたかったのだがこれはこれで・・・と隣から飛びかかってきた狼型を激しい風圧が吹き飛ばす。
「ちょっと不用心ですわよ、それでよくシルバーランクになれましたわね?」
「ミリーと一緒だとなんだか気がゆるんでしまって・・・いや言い訳はよくないな」
でも実際ずっと一緒にいるからか傍にミリーが居てくれるのはすごく安心してしまう・・・今までどちらかといえばジオを頼る同行者のほうが多かったからだろうか。
「頼りにされるのもやぶさかではありませんが、この山岳地帯に続く洞窟はやたら魔物が多い気がしますわ。少し警戒を強くするべきですわね」
洞窟は何度も足を運んでいるがこんなに連戦するのは久し振り、というか初めてだ。
「こことは別の洞窟の討伐はしてきたが、この山岳地帯に続く洞窟は他とは何か違うな」
洞窟を根城にしている狼型やコウモリ型も何度か見掛けたが、こんな無差別に攻撃してくることは稀だ。
キィン キィン
と奥のほうで音が鳴っていることに気付く。
「他の冒険者もいるようですわね、この依頼は洞窟内の調査と討伐でしたわね?」
ダブルブッキングというやつか、これは何度も経験があるから不思議ではない・・・加勢するべきだろうか。
「苦戦してるようなら手助けに入ろう」
「そうですわね・・・やはり何か喋り方に違和感を感じてしまいますわ」
気にしないで下さい・・・むしろ私の中身的には男の喋り方がしっくりはするのだが、ミリーにはいつもの私のイメージが強すぎるのだろう。
「ふっ!」
ザシュッ とコウモリ型が縦に真っ二つに切り裂かれる、確かに狼型に比べれば固い相手ではないが見事な切れ味だ。
「ユラ君、前に出すぎだ。先生から離れすぎないように!」
よく見たら制服のような姿をした男女が数名、鎧姿の男性に魔導師の女性というパーティーのようだった、洞窟内で制服とは・・・?
「王立剣術学院の生徒みたいですわね、実地訓練の場に鉢合わせたようですわ」
とユラと呼ばれていた女の子に狼型が飛びかかろうとする瞬間が見えた、シールドを展開しながらスラスターで一気に距離を詰める。
バチィン 右籠手のシールドで防ぎ反動で狼型の体勢が崩れた所を左籠手のブレードで切り払う。
この子のさっきの攻撃を見るに必要はなかったかもしれないが念のためである。
「・・・どうも・・・変わった武器ですね?」
暗く見辛いが黒髪の綺麗な女の子だ、赤紫の瞳が私の手元に視線を向けている。
と私も彼女の手元を見て少し驚く。
「魔導具のようなものだ、君のそれは刀だな?」
露店で見た物より少し長めで左手の鞘は宝石があしらってあり、値も張っていそうな造りだ。
「・・・はい、扱いやすくて気に入っています」
クールビューティな感じの喋り方は黒髪と相まってより静かな空気を強くしている、刀が凄く様になっているなと。
「実地訓練の最中で申し訳ありませんが、私(わたくし)達も参戦させていただきますわ」
ミリーの姿を見た他の生徒と先生は一瞬考えるような仕草をしたのち、感謝すると返し残りの魔物を殲滅する。
魔物を殲滅し終えギルドへの報告を済ませた帰り道で戦いを振り返る。
さすがは王立の学院生だけあって動きはしっかりしており、魔物のあの数相手にも誰も怯まず戦っていた。魔導師のシルバーランク冒険者も同行していたことからブロンズのようだったがそうなると年齢に差はなかったみたいだ。
「しかし多かったですねーあんなに狩ったのは久しぶりですー」
「・・・どの喋り方でもムズムズしますわ・・・いえ、それはいいとして」
あの黒髪の子、と話が続く。
「ユラ・ブライト、と名乗ってましたわね。見事な剣捌きでしたわ・・・もしかしなくても・・・」
と少し歯切れの悪い物言いになるミリー、確かに冒険者は色々見てきたけどあの刀の使い方はとても鋭く、何より綺麗だった。
「私が見てきた近接職の魔力とも違い、あの鋭い攻撃をしてても乱れることも激しくなることもなく・・・魔力操作もかなりのものかもです」
それに刀での戦い方もやはりかっこいい、一度は居合い切りの真似をしてみたり模造刀を腰に構えたり・・・まあこの体では脇差しでも少し長く感じるから自分ではできないかもと考えてたところで気になった事も。
「そういえば実地訓練ってなんです?」
「せめて喋り方を統一してくださいませんこと・・・12歳からブロンズになりますから・・・」
どうもあの実地訓練というのは各学院共通の授業の一環らしく、その実地訓練を経て卒業後に直接シルバーランクでの登録がされるとのこと。
もちろん例外もあり成績が悪ければアイアン、成績上位者はゴールドなんてこともある。そういえば私はどうなんだろう・・・?
「問題はないのではなくて?14歳で正式に登録されるのですから・・・とはいってもやはり二重になるのはあまり聞いたことはありませんから、ギルドマスターの判断次第になるかもですわ」
わざわざそんな面倒なことする人はいませんものというミリーの言葉にもう少し後先は考えようと思い直したのだった。
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