第3話 世界創造 ②
あれから、一年が過ぎた(時間の感覚をつかむため、最初に時計を作った)。
ワールドマップどおりに土台が完成し、それに加えてこの世界の『ルール』も作成した。
まず、大陸は西と東にひとつずつ。
それ以外はいい感じに小さな島をバラけさせ、RPGの世界っぽくした。
中央に浮かぶ空飛ぶ島は、俺とチロの居城だ。
まあ、下界の人間たちはよほど文明が進まないかぎり、この島にはたどり着けないだろう。だが、まったく到達不可というわけでもない。そのくらい、絶妙な高度に設計した。
そして、次に取りかかったのは、この世界の大まかなルール作りである。これにはかなり頭を悩ませた。個人的には、前の世界の物理法則とは大きく違ったものにしたかった。
したかったのだが、残念ながら俺の頭では無理だった。
無から一を創造し、矛盾がないようにそれらを設定するのはかなりの知能レベルが必要だということを俺はこの数か月で情けなくも思い知った。
ゆえに、だいたいは前の世界のものをそのまま引き継ぎ、その他のファンタジー要素もゲームで得た知識をそのまま流用した。
唯一、オリジナリティーを出した部分と言えば――。
「ダブルメソッド? なにそれ?」
チロに訊かれ、俺は得意げに肩を鳴らして説明した。
「ダブルメソッド――通称、ダブル。刀身による斬撃とマジックボールによる魔法攻撃をそれ一本に内包した特殊武器だ。コイツを、ヴェサーニアにおける最もポピュラーな武器として設定する。唯一と言っていいオリジナリティーだ」
「うわ、すごいカッコ悪いことをめちゃくちゃ男前な顔して言ってのけた。想像力とか発想力がないって恥ずかしげもなく暴露してるようなモノなんだけど……」
「ああ、ないよ。悪いか? あったら前の世界でもっとまともな生活送ってたわ」
「ああ……うん、そうだったね。オイラ、デリカシーがないこと言っちゃったよ……ごめん。それで、ダブル……だっけ? それ関連の設定って、もう少し細かくあったりするの?」
「当然。俺がこれ考えるのにどんだけ時間かけたと思ってる? 三か月だぞ。それに暇さえあれば――って、まあいいや。とりあえず、まず最重要ポイントとして、ダブルにはランクを設ける。最高をS、最低をDとした五段階だな」
「ランクは何によって決まるの? 希少性? 刀身の切れ味? 魔法の威力? てゆーか、そもそもマジックボールってなに?」
「マジックボールってのは、魔法を収納する玉だ。例えば分かりやすく、ファイヤーって魔法があったとする。そのファイヤーの力をマジックボールに注入すると、マジックボールを介して、ダブルからファイヤーの魔法を発射することができる。個々人の魔力を消費してね。ああ、そうだ。魔力のことをエネルと名づけるか。エネルって言葉、どっかに使っときたいもんな。俺が作ったモノなんだから、証みたいなモンを入れときたい」
「じゃあ、魔力のことはエネルって名づけよう。そのマジックボールっていうのに魔法の力を注ぎ込むのは、トーマってことだよね? エネル使って」
「ああ、もちろん。エネルの一割くらいは使ってもいいと思ってる。百種類、全部で一万個くらい作っときたいからな。同じ炎系の攻撃魔法でも威力、範囲などによって十種類くらいは作りたい。ああ……となると、百じゃ足りないくらいか。二百だな」
「凝るねー。まあでも、それくらいだったら一割使えばじゅうぶんすぎるほどだと思う。超強力な魔法だけ、一万個作ったとしてもたぶんイケるよ」
「いやそれじゃつまんねえから弱いのも作るよ。弱いのがあるから、強いヤツが目立つんじゃねーか。いろんな魔法が入ったボールをたくさん作る。考えるだけでもワクワクするぜ」
「マジックボールはダブルのどこにはめるの?」
「今のところ、柄の部分を考えてる。ダブル一本につき、四個までマジックボールをはめられるようにする予定だ。最初から何個かはめた状態にしておくってのも、そのダブルの個性が出ていいかもな。ランクの高いダブルには、強力な魔法が入ったマジックボールが埋め込まれてるって感じで。となると、一度はめたら取り出せないって縛りが必要か」
「じゃあランクの高低は、はめ込まれたマジックボールの良し悪しで決まるってこと?」
「いや、総合的にだな。刀身の切れ味も当然考慮に入れる。が、マジックボールの良し悪しが一番の判断材料になることは間違いない。希少性は……まあ、ランクの判断材料からは除外するか。数が少ないモノは放っておいても勝手に希少価値が出るが、希少価値=役立つ武器ではないからな。ランクの高低は使えるかどうかのみで判断する」
「なるほどねー。トーマにしては、けっこう考えられてるね」
「だろ? あと、大まかに
と、そこまで言ったところで、俺はハタと言葉を止めた。
突然どうした? という顔で両目をパチクリさせるチロに、そうして苦笑いで言う。
「いや、どう考えても順序が逆だな。この話よりも、今は『最初の生命体』を生み出す話をしなくちゃな。土台が出来て、ルールも作った。次は最初に言った、『生物を生み出す能力を持った生物』の創造だ。原初の生命体。いよいよこいつの創造に着手する」
「忘れてなかったんだ」
「いや忘れるわけないだろ!? いっちばん大事な肝中の肝じゃねーか!?」
忘れるわけがない。忘れていたら、馬鹿を通り越して阿呆だ(いやどっちがより間抜けなのかは分からないが)。
「分け与えるエネルの量は、二割ずつでいいの?」
訊かれて、俺は問題ないとばかりに頷いた。これで俺のエネル量は当初の半分になるが、想定の範囲内である。
ダブル作成でまた一割使い、その他諸々、なんやかんやで三分の一ほどになってしまうだろうが、それだけ残ればじゅうぶんだ。三階建てのビルをパンチ一発で破壊する機会などそう訪れるものではない。俺専用の最強ダブルも作る予定だし――過ぎたるはなお及ばざるが如しである。
「容姿とかはどうする? 大きさとか」
「ああ……そう、だな……」
容姿、大きさ、肌の色など――。
これはよくよく考える必要があるなと、俺は思った。
ものすごく重要なことである。
その二体の生命体を作るのは俺だが、その後の生物は全てその生命体によって創造される。この先、下界を埋め尽くすだろう新たな人類にとって、彼らは神となるはずだ。
無論のこと、一定の威厳は必要である。が、だからといって、度を超えた神々しさというのは与えたくない。あまり神々しさがすぎると、それより上の存在の俺が相対的にショボく見えてしまうからだ。それだけは避けねばならない。
あごの下に右手を潜らせ、俺は黙考した。
「身長十メートルくらいの巨人にする?」
「却下」
「悪魔みたいな強そうな見た目にする?」
「却下」
チロの提案を二連続で即座に却下。両方とも問題外である。
俺はさらに黙考した。
そして――。
数時間後、悩みに悩んだ俺が最終的に出した結論は――。
振り返って考えると、自分でもため息が出てしまうくらい平凡なそれだった。
想像力のなさが、こんなときまで顔をのぞかせる。
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