第55話 飼い主、絡まれる
マービンが事前にケルベロスゥのことを話してくれたおかげで、一緒に宿屋に入ることができた。
「わぁー、ひろいね」
この町の宿屋は前の町よりも大きい。
「食事処が広いと全体的に大きくなるからな」
前の町では宿屋として主にやっていたが、ここは食事処を主にやっているらしい。
それもあり賑やかな印象だ。
僕とケルベロスゥが食いしん坊だから、ここに泊まることにしたって言っていた。
『肉はあるか!?』
『お腹減ったよー』
『淑女でもこの音はどうしようもできないわ』
ケルベロスゥもお腹が空いているのだろう。
僕も寝ていただけなのに、すでにお腹から音が聞こえてくる。
スゥと一緒だね。
「あんた達そんなところに突っ立ってないで座りなさい」
店員に声をかけられて僕達はテーブルに向かう。
やっぱりここでも僕達は目立つのだろう。
でもマービンとケルベロスゥは特に気にしていないのか、全くキョロキョロとしていない。
『ここはランウェイよー!』
むしろスゥはなんか嬉しそうにしている。
ランウェイってなんだろうね。
ただ、スゥが張り切って歩くから、ケルとベロはあたふたとしている。
足がピーンってなってるから歩きにくいのかな?
「ここのオススメはなんだ?」
「この周辺は農地が多いから野菜が――」
『えー、野菜!?』
『お肉じゃないの!?』
『野菜は体に毒よ!』
ケルベロスゥは野菜が食べたくないのかな?
僕の家は野菜を作っていたから、野菜ばかり食べていた。
むしろお肉を食べることのほうが少なかったからね。
「もちろんお肉もあるわよ! それにしても魔獣って話せるのね……?」
やっぱりケルベロスゥが話せることにびっくりしたようだ。
『普通だぞ?』
『普通だね?』
『ここでも聞かれるのね?』
お互いに顔を見合わせて頷いている。
話す魔獣は本当に珍しいんだね。
王都にいたら魔獣騎士団もあるから、他に話す魔獣にも会ってみたいな。
周囲の人達もケルベロスゥが話していると、興味深そうに見ていた。
「すまん、こっちも良いか!」
「はーい!」
マービンがご飯を頼むと、すぐに店員は他のお客さんのところへ行った。
次々と呼ばれてお店は大変そうだね。
しばらくすると、大きなお肉の塊がたくさん出てきた。
ケルベロスゥは喧嘩しないように、お皿を三つに分けてくれたらしい。
『ははは、うまいな!』
『ココロも食べてる?』
『体が一つだけどダイエットしなくていいのかしら?』
ケルはすぐにお肉にかぶりついていた。
美味しそうに食べている姿を見ていると、僕も嬉しくなってくる。
ただ、聞こえてきた声に僕は胸が締め付けられた。
「魔獣と悪魔が人間様の食事処になぜいる?」
突然声をかけられ視線を上げると、ここに来る前に会った神父がいた。
『あっ、オークだ』
『あっ、ブタだ』
『あっ、脂肪まみれの加齢臭だ』
ケルベロスゥの言葉に神父の顔が赤く染まる。
――バン!
強く机を叩く音に周囲の視線が再び集まる。
「お前達みたいなやつが、なぜ町にいるんだ」
「さんぽ?」
『町に入れるからかな?』
『入れなかったら町にいないものね?』
『むしろ、オークが入れるなら俺達も入れるだろ?』
町には身分証明書があれば入ることができた。
特に問題はないよね?
「クスッ」
僕はマービンを見ると、口を押さえて笑っていた。
「お前ら悪魔のくせに!」
神父はさらに顔を赤く染めると、僕の首元を締めてきた。
「うっ……」
ただ、それにすぐに気づいた僕の家族も黙っていない。
『オークの分際で俺に勝てると思ってるのか?』
『ココロに触れるな!』
『私の大事な人に触れて生きられると思っているのかしら?』
「俺の息子に何をする」
ケルベロスゥは大きな口を開けて、今すぐにでも噛み殺しそうな勢いだ。
それにマービンも剣を抜いて、首元に押し付けている。
でも今僕のことを息子って言ったよね?
ちょっと息苦しいけど嬉しいな。
「ここは人間様の町だ!」
それだけ言って神父は僕の首元から手を離す。
『ココロ大丈夫?』
『苦しくなかったかしら?』
神父はすぐに食事処から出て行った。
ケルとマービンはそれでも警戒していた。
周囲を見渡すとまた僕達が目立っている。
「うるさくしてごめ――」
「ははは、良いものが見えたぜ!」
「さすが番犬だな!」
僕達を褒める言葉が聞こえてきた。
ひょっとしたら良いことをやったのかな?
「教会の人だからって威張っているのよ。何も仕事をしないのにね」
この町でもあの神父の悪い噂はたくさんあるらしい。
怪我も治さず、治したとしても莫大なお金を請求したりとか。
だから町の人の信用はない。
ケルベロスゥが噛んでも特に問題なかったんだって。
「ただ、ここに泊まっていると危ないかも知れないから妹の宿屋を紹介するわ」
「助かる」
またあの神父が何をするかわからないからと、店員が違う宿屋を紹介してくれることになった。
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