第50話 飼い主、散歩をする

「ケルベロスゥ、ココロのことを頼んだぞ! 変なところや建物の間には入って行かないようにな?」


『俺がいれば問題なし!』

『兄さん……それが一番怖いんだよ?』

『そうね。だって私達すぐに迷子になるものね』


 今日はケルベロスゥと町の中を散歩する予定だ。


 マービンはどこか行きたいところがあるらしい。


「あー、心配だな。やっぱり俺と一緒に――」


「だいじょうぶだよ」


 せっかくマービンの腕も良くなったから、何かしたいことがあるのだろう。


 ケルベロスゥからも大人には色々あるから、一人にしてあげる時間も大事だって言われた。


「本当か? いや、やっぱり……」


「おててさん! おででさん!」


 僕はおててさんとおででさんにお願いごとをする。


 手足を掴んでもらって、僕達は急いで商店街に向かう。


「おい、ココロ! ケルベロスゥ頼んだぞ!」


 マービンはしばらく宿屋でお留守番だね。



『それで商店街に来て何をするつもりなんだ?』

『さっき朝ごはん食べたばかりだもんね』

『やっぱり食後の散歩よ?』


 僕はケルベロスゥにも商店街に来た目的を話していない。


 商店街に来たのには理由がある。


 それはみんなにプレゼントを買うことだ。


 今まで僕はみんなに助けてもらってきたからね。


 ただ、商店街って広いから少し怖い。


 お金は半分以上はマービンに預けてきたけど、キラキラしたお金は一枚持ってきている。


 そんなことを思っていると、突然前から人が出てきた。


「あらココロくん偶然ね」


「おねえさんだれ?」


 僕は声をかけてきた女性を警戒する。


 だってマービンから知らない人は、気をつけてと言われているからね。


 ケルベロスゥも僕を遠ざけるように体で押してくる。


「ははは、しっかりした番犬だな」


 後ろから男も出てきた。


 あっ、これは紅蓮の冒険団と同じやつかもしれない。


 咄嗟に危ないと思った僕がケルベロスゥに近づくと、ケルは僕を咥えた。


『兄さん逃げるよ!』

『はやくココロを乗せなさい!』


 僕はケルベロスゥの上に跨ると、すぐに走り出した。


 やっぱりこれは危ないやつだね。


「えっ……これって追いかけっこをしたいのかしら?」


「逃げるってことはそうじゃないのか?」


「ここはAランク冒険者の腕の見せ所ね」


 僕がチラッと振り返ると、あの人達は目を光らせていた。


 なぜか嫌な予感がするけど、ちゃんと人通りがあるところを散歩していれば問題ないね。



『なぁ、ココロ?』


「なに?」


『これって迷子だよね?』


「んー」


『誰も歩いていないわよ』


 僕達は人通りが多いところを逃げて……散歩していたはずなのに、やっぱり迷子になったのかな?


 周囲に誰も人が歩いていない。


「ケケケ!」


 突然の声に僕達は警戒する。


 人通りがないところには変態がいるもんね。


『コココ……ココロ大丈夫だぞ……』

『僕達がいるからね?』

『出てきなさいよ! タマを食いちぎるわよ!』


「ケケケ、お前達の方がよっぽどヘンタイだな」


 よく見ると影で見えにくくなっていたが、薄気味悪い笑い方をする人がそこにはいた。


 まるでおとぎ話に出てくる魔女のような見た目をしている。


「ぼくたちへんたい?」


『ココロ、あの人の話を聞いたらダメだよ。耳を塞いで!』


 ケルベロスゥが僕の背後に来ると耳を塞いだ。


 ただ、もたれるような形になったため重たい。


 僕は前に倒れそうになる。


「ケケケ、別に悪いことはしないさ。よかったら見ていってくれんか」


 何かを売っているのか、テーブルには様々なアクセサリーが置いてあった。


 色々な指輪や腕輪、首につけるチョーカーのようなものまで。


 全てキラキラしていて目が惹かれる。


『いやーん、どれも素敵だわね』


 ええ、スゥは興味津々だった。


『姉さん光るものに目がないもんね』


「めないよ?」


『いや、よく見たらあるかもしれないぞ?』


『兄さんは変なことを教えない! あれに目が合ったら気持ち悪いよ』


 キラキラしているところが、ギョロっと目になったら怖かったね。


 スゥはキラキラしたアクセサリーと僕を交互に見ている。


 買って欲しいというおねだりなんだろうか。


「いくらですか?」


「これは金貨一枚じゃ」


 金貨一枚ってあのキラキラしたやつだよね?


『なぁ!? こんなのでお肉がたくさん食べられるんだぞ!』

『ココロダメだ!』

『淑女に宝石は必要よ?』


 スゥは体をスリスリとしてくるが、お金は大事だもんね。


『ほら姉さん行くよー!』

『俺達は肉の方がいい!』


 ケルとベロが動き出せば自然と体は動いていく。


『私の宝石ー!』


 スゥは必死に抵抗していたが無理そうだった。


「ケケケ、これなら安く買えるぞ?」


「いくらなの?」


「金貨一枚で欲しいだけ持っていけばいいさ」


 何か怪しいが他のやつよりはお手頃なので、僕はそれを買うことにした。


 あまりキラキラはしていないけど、これだったらプレゼントになるね。


 僕はケルベロスゥを追いかけるように走っていく。


「ケケケ、楽しい旅をするんだな」


 振り返るとそこには誰もいなかった。


 やっぱりあの人は変態なんだね。

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