第36話 飼い主、パパができる

『ココロ、朝だ!』

『ココロ起きてー!』

『起きないとタマを食いちぎるわよ!』


 スゥの言葉とともに、股間がヒンヤリして目を覚ました。


 すぐにズボンの中を確認するが、いつもと変わらずホッとする。


『淑女がそんなはしたないことするわけないじゃないの』

『あん? 昨日やってなかったか?』

『僕もそんなこと聞いたよ?』

『あんたらのタマを噛みちぎろうかしら?』


「そんなことしたらみんないたいいたいだよ?」


 言い合いをしていたケルベロスゥはお互いの顔を見合わせて静かになる。


『私達体が繋がっていたわね』

『今頃かよ!』

『姉さんも雄なんだ――』

『うるさいわね!』


 再びケルベロスゥは戯れあっていた。


 兄姉がいるといつも楽しそうで良いな。


 僕も少し兄さんと姉さんに会いたくなっちゃった。


 でも僕は嫌われ者だもんね。


 いつか会えたら守ってもらったお礼だけは言わないと。


――トントン!


「ココロ起きたか?」


 扉を開けるとそこにはマービンが立っていた。


「おはようございます」


「ああ、おはよう。準備はできた……準備が終わったら下に降りてこいよ」


「きょうはなにかあるの?」


「はぁー、冒険者ギルドに見習い冒険者として登録する予定だろ?」


「あっ、そっか!」


 昨日宿屋へ帰る時に鎧のおじさんが必死に走ってきた。


 今後のために見習い冒険者にならないかという話だった。


 マービンも生きていくには、何か仕事をする必要があると言っていた。


 魔獣であるケルベロスゥやおててさん達といるには、それにあった仕事をしていないといけないらしい。


 たしかに肉屋にケルベロスゥがいたら、全部食べられちゃいそうだもんね。


 ケルベロスゥとおててさんなら、たくさんお金がもらえるところで働けるって言っていた。


 でもそれは僕の力じゃないけど大丈夫なのかな?


「ケルベロスゥ、さんぽにいくよ!」


『さささんぽ!?』

『さんぽだあーい!』

『ふん、相変わらず一人じゃ散歩もいけないようね』


 ケルベロスゥも散歩に行きたいようだ。


 マービンと町の中をクルクル回って、冒険者ギルドで見習い冒険者登録をする。


 これが今日の日課だね。


 一階に降りると良い匂いがしてきた。


『ココロ、ご飯は?』


 そういえばまだご飯を食べていなかったね。


「町の中で何か食べながらいくぞ」


『肉はあるか!』

『にっくにく!』

『本当にだらしないわね』


「スゥよだれがたれてるよ?」


『ジュル! 淑女がそんなはしたないことしないわよ』


 すぐにスゥは地面についたよだれを手で伸ばして隠していた。


『ちょ……よだれを触ったじゃないか!』

『姉さん……』

『これぐらい良いじゃないの!』


「けんかはだめだよ?」


 体が同じだと色々不便なんだろうね。


「なんかお前達って兄弟みたいだな」


「ぼくたち?」


「ああ」


 マービンは僕達を見て笑っていた。


「へへへ、僕達兄弟だって!」


『俺がココロの兄貴だな』

『僕がココロのお兄ちゃんだね』

『私がココロのお姉さんね』


 ケルベロスゥも僕と兄弟に見えて嬉しそうだ。


 でもケルベロスゥって頼りになるけど、お兄ちゃんって感じがしないな。


「あっ、ならマービンさんはパパだね?」


「へっ!?」


 マービンはパパと同じくらいだよね。


 それならこれからはパパだね。


『『『パパさん!』』』


 ケルベロスゥもマービンをパパと認めたようだ。


 少し困った顔をしながらもにこりと微笑んだ。


「ははは、こんなに急に子どもが増えたら俺も大変だな」


「パパ、さんぽにいこ!」


 僕達は町の中を散歩するために、宿屋を後にした。


 どこかおててさんとおででさんが、寂しそうにしていたのは、何も食べられなかったからかな?


 それとも家族じゃないと思ったのかな?


「おててさんとおででさんは、おばあちゃんとおじいちゃんだね!」


 おててさんとおででさんは親指を上げて喜んでいた。


 僕達はみんな家族だからね。


 あっ、シュバルツは……お姉さんだね!


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