第2話 飼い主、犬に出会う
馬車は町に向かって走っていく。
僕は逃げられないように檻のようなところに入れられてしまった。
「うっ……みんなおかしくなっちゃたよ」
ずっと涙が止まらない。
僕が悪魔の子だからおかしくなったのだろうか。
僕は生きていてはいけない子。
生きているだけで迷惑。
その言葉だけが僕の胸に突き刺さる。
「ん? ママ?」
そんな中、頭を優しく撫でてくれる人がいた。
視線を上げると地面から黒い手が伸びている。
何かわからない存在なのに、なぜか気持ち悪いと思わなかった。
慰めてくれるように、僕の頭を優しく撫でていた。
まるでママに撫でられているような気がした。
でも、そこにはママの存在はいなかった。
昨日までは見たことがなかったため、これが僕の魔法なんだろうか。
落ち込んでいた気持ちがどこか晴れたような気がする。
このままここにいたら僕は誰かに売られてしまうのかな?
どうにか逃げる手段を探していると、黒い手は檻の方を指さしていた。
ここを開けろと言っているのだろうか。
「むりだよ? かぎがかかってる」
ここに入った時に男が鍵を閉めたのを覚えている。
逃げるにも鍵をもらわないといけない。
『ヒヒーン!』
どうしようか悩んでいると突然、馬の鳴き声とともに馬車が大きく揺れた。
体の小さい僕はそのまま転がって……いかなかった。
僕を黒い手が支えてくれた。
「ありがとう!」
親指を立てて何か合図をしている。
お礼を言っているのだろうか。だが、すぐに黒い手はパタパタと動かして指をさしている。
そこには大きなクマが手を広げていた。
きっとあのクマにびっくりして馬が急に立ち止まったのだろう。
「くっ、護衛もいない状況で魔物が出るとはな」
男は急いで檻の鍵を開けてくれた。
危ないと思って僕を出してくれるのだろう。
「いたっ!?」
男は僕の髪の毛を掴むと、そのまま外に放り投げた。
「ちょうど囮がいてくれて助かったぜ」
そう言って男は走って逃げていく。
ああ、僕は逃げるための囮として檻から出された。
目の前にいるクマに足が震えて動かない。
『グオオオオ!』
クマが咆哮をあげて襲ってきた途端、目の前で大きく転んだ。
クマの足元には黒い手があった。
ひょっとしてクマの足を引っ掛けたのだろうか。
少し落ち着いた僕はそのまま必死に走る。
今はどうにか逃げないと食べられてしまう。
いや、僕はもう一人だから生きられない。
ママやパパ、兄ちゃんや姉ちゃんもいない。
次第に走っていた足は止まっていく。
――ツンツン!
肩に衝撃が走ったと思ったら、黒い手が僕に突っついていた。
まるで僕に元気を出してもらおうとしているように感じる。
「へへへ、だいじょうぶだよ」
僕がにこりと笑うと、そのまま手を引かれる。
あっちに逃げたほうが良いのだろう。
ただ、近くで急に血のにおいがした。
明らかにおかしいと思い、周囲を警戒すると血だらけで倒れている黒犬を見つけた。
きっとクマに襲われたのだろうか。
「ん? いぬになにかあるの?」
グイグイと黒い手は僕を犬の前まで連れていく。
黒い手は大きく犬に手を広げていた。
何か必死に伝えようとしているのだろうか。
「てをのばすとなおるの?」
僕の問いに黒い手は親指を立てた。
どうやら合っているようだ。
そういえば、僕の魔法って回復属性魔法だったね。
じゃあ、この黒い手はなんだろうか。
とりあえず僕は手を前に出して犬が治るように願った。
すると、黒い手は次第に大きくなり、犬の傷口に手を入れ始めた。
――グチャグチャ
周囲には肉をつなげる音が響く。
傷口をグチャグチャと何かしているようだ。
あまりの気持ち悪さに目を閉じる。
気づいた時には犬の傷は塞がっていた。ただ、一つだけ問題があった。
「からだがひとつだよ?」
犬は全部で3匹倒れていた。ただ、綺麗に体が残っていたのは、そのうちの一つだけだった。
きっと綺麗な体に他の2匹をくっつけたのだろう。
「これでいいのかな?」
僕の言葉に黒い手が反応している。
ひとまず犬が目覚めるまで僕は隣で待つことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます