第6話「思惑」

 その後結局役人たちもバラし、箱の中に詰めた。頭の中に抱えたモヤモヤを隠しながら。すみれはニコニコと笑いながらお腹が空いたと話したため、私たち3人は夜ご飯を食べに小汚い小料理店に入った。


 ここは私たちが普段から仕事を片付けた後によく来る店で周は魚、私は肉料理中心に食事をする。


「注文はいつも通り酒と何かつまみでいいか?」



「それでお願い。そしたら私は彼女にいくつか聞きたいこと聞くから。」



「えー先輩に隠し事なんてしないですよ。そんなに私は信用されてないんですか?一緒にあの地獄を生き抜いて来た仲なのに。」



「それが問題なのよ、あなたあの力は使ってるの?」



 私には一つ不安視していることがある。それは実験の副作用だ。私たちは確かに様々な動物の細胞や遺伝子を体の中に取り込まれて常人離れした身体能力や頭脳を獲得した。



 けれどそれには大きな欠点がある。体内の細胞分裂による自我の崩壊。彼女の性格はこんなんじゃなかった。少なくても私が知っているすみれはもっとその名前の通り人に対して誠実で、殺し屋をやるような女の子じゃなかったから。



「ねぇ、ほんとにあなたすみれなの?私が知ってるあなたは...!」


 そう聞いた私にとってすみれの回答はとても悲しいものだった。



「人は変わるものですよ、私だってあの時の小さいままじゃないですし。人間の汚い部分やこの国がやろうとしてる愚かな行為を見ていたら気が気じゃなくなりますって。」



 すみれは真顔でそんなことを言って私の言い分を誤魔化してきた。昔のすみれだったら、絶対にそんなことは言わない。言い返そうとしたがそこへ注文の品が運ばれる。



「お待ちどうさん、まずは『乾杯』ね!」



 お酒が運ばれて来たからみんなの分を分けていく。いや、すみれはまだ成人していないから飲ませられない。



「えー私にはお酒くれないんですかー?」



「あなたはまだ子供でしょ?お酒なんて尚更、何しでかすかもわからないのに。」


「私たちはお酒何杯でも飲んだって平気じゃないですかー!私は普段飲んでますし。」



「まぁまぁ2人とも、とりあえず仕事終わったんだから飲もうぜ。んじゃお疲れさん。」



 周は私たちの間をとりもち、乾杯の音頭をとった。私は渋々みんなで酒を飲むことにする。まぁ私は酔えないんだけど...



 私は生まれつき代謝がよく、酒を分解することが早い体質なのだ。それを知ったのは実験としての毎日を過ごしたから。だから周りが酔っていても私には通用しない。


 悲しいけれど一緒に酔えない。



       ーーーーーー


 それから簡単な小料理もいくつか頼んで食べていた。屋形船では何も食べていないから正直お腹は減っている。2人もパクパクと食べながら楽しく会話をしていた。



「へー!先輩そんなことしてるんですね、なんか意外かも!」



「だよな、仕事と休みの日じゃ完全に別人ってくらい変わるぜ。」


 全く余計な事を。



「ちょっと周、変なこと吹き込まないでくんない。」



「先輩のそんな姿が見たいなって思いますよ?普通に綺麗な顔ですし。」



「普通には余計よ。そんなことよりすみれ、一体どうしてあなたが殺し屋なんてしてるの?」


 

 私はついにすみれになぜそんなことをしているのかを聞き出していく。



「気になっちゃいましたー?いやーあれからいろいろとあったんですよ!


研究所から脱出した私はその後、どうなったと思いますか?私は麦国に密輸されてたんです。私に埋め込まれた細胞や遺伝子が目当てでね。


そこで身柄の保証を条件に私は麦国専属の殺し屋として働くことになりました。」



「細胞や遺伝子を埋め込む?」


 周はその辺の事情を知らない。実験については壊滅されてからも帝国内で知っている人間は数人程度だ。



「はい、私に埋め込まれた動物は...鮫。


鮫肌のように私に触れるだけで傷つき、感覚器官が人よりも敏感になるんです。


だから殺し屋の能力にしたら打ってつけなんです、攻守両用できるんです。」



 なんですみれはそんなことを私たち2人にわざわざ伝えるの?そんなことをペラペラ言って何かすみれに利益はあるんだろうか。


 麦国の大統領の意向なのか、それとも...



「すみれ、そんな全部言わなくてもいいでしょ?なんでわざわざそんなことを私たちに?」



「2人に麦国から正式にあなたたちに依頼をしたいんです。」



 やっと本題に入った。やっぱりすみれももういっぱしのパシリになっていた。麦国こそが全ての原因、すみれをこんな風に変えてしまったのだと心の底から怒りが沸き立つ。



「それで、麦国は私たちに何をさせようと?」


 周は仕事内容を聞き出していく。すみれは一つずつ説明を始めた。



「2週間後、帝国は再び阿国と再び戦おうとしてるでしょ?麦国と帝国が書類上とはいえ同盟を結んで戦争に参加して利益や利権を得ようとしてるの。


今回私たちは傷国にむけてある書状を届けようとしてるの。

もちろん阿国の軍も黙ってはいない。


2人には私の援護を要請したいの、あなたたちの評判は街の噂などの情報とかで知ってる。



何より、また先輩と一緒にいれるなら私は本望です!」



「断るわ。」



 私はすぐに断りの打診をする。国に仕えて仕事をするなんてまた利用されるのがオチ。自由の国の人間ですら自由に生活を送れないのは本末転倒だと感じたからこその答えだ。



「おいおいあやめ、いきなり断るなって。肝心なのは報酬だろ、てか今日の報酬まだもらってないぞ。」



まったく周はせっかちでがめつい。私はもらった前金の半分を渡した。



「残りは明後日もらったら渡すから。」



「おし、これでまた遊びに行けるぜ。」



「お願いします先輩!今回だけでいいので、私に力を貸してください!」



「すみれ、私は今あんなくだらない大戦に関わるつもりはないの。



それに不可解なこともあるの、なんで私と同じ刀を持ってるの?あれは私のいた里でしか生産されなかったものよ、もうこの世じゃ私しか持ってないはず。


あなたは私の里にはいなかったはずよね?」



「それは...」


 すみれは一瞬黙り、すぐに回答をした。



「ある方に出会ったんです。この国の帝に。」



「帝だと!?あの人はこの国の宰相と2人の護衛しか会ったことがないと聞いたぞ!?」



 さすが周。元は帝国の諜報部にいただけあって情報は仕入れている。



「てことは帝は、私と同じ里の人間ってこと?」



「いえ、帝はある事件をきっかけに手に入れたと言っていました。私も襖の中からの会話だったので実際にどのような人なのかはわからなかったんです。」



 帝、この帝国。いや、この日の本という国ができて間もない頃から1000年以上続いている文化だ。一度は退いたものの、異国からの到来で時代は変わり、再びこの国の頭に返り咲いた。


 いわば私の最大の敵。打倒帝国の親玉。そして私はこの話を一度持ち帰り整理しようと考えた。



「すみれ、一度考えさせて。明後日私たちは依頼主とこの場所で落ち合うからその後に答えを言うわ。」


 そうしてお酒を飲み干し、お代を出して外へ出た。周も私を追いかけて来た。



「先輩、私は諦めませんよ。私には、やっぱりあなたが必要なんですから...」




ーーーーーー


「おいあやめ待てって!」


 周は走って追いかけて来た。



「何?報酬は半分渡したはずだけど。」



「違ぇよ、渡したいものがあるんだよ。」



 周はズボンのポケットからあるものを取り出した。黄色いヒガンバナだ。ヒガンバナは私が好きな花で師匠がよく育てていたのを眺めていた。



「黄色のヒガンバナ...」



「あぁ、今日の着物姿の色と合って。その、綺麗だったからさ...///」



 なんか照れながら言うのは気持ち悪いからやめろって。お前は乙女かと言いたくなるような顔をして。



「そう、ありがと。家で飾って育ててみるよ。」



私はそう言って解散をする。周も後ろに振り向いて渡した報酬を眺めている。




 黄色いヒガンバナ、そういえば昔何回かもらった覚えがある。確か花言葉は...


 いや、今はいいや。育てたら髪飾りにでも使っていこうと思う。

















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