第60話
そして楽しみにしていたお爺様とお婆様に会える日が来た。
お二人に会う前に父様から父様にはヒューガ様という弟と、フレンシア様という妹がいたこと。
そしてヒューガ様が三歳で池で亡くなったこと。
妹のフレンシア様は七歳の時に目の前で殺されたこと。父様も毒を盛られたり暗殺されそうになったことを教えてくれた。
そして⋯⋯お婆様の心が壊れてしまったことも。
「だから母上⋯⋯お婆様との会話や交流などはあまり期待しない方がいい」
「父様⋯⋯悲しかったね。辛かったよね」
私がずっと父様の傍にいるから。一人になんかしないからと言って父様を抱きしめた。
まさか父様にこんな辛い過去があったなんて⋯⋯それにどうしてカクセア王国から帰ってくるまでに12年もかかったのだろう?
12年前といえば前国王陛下がロベルト現国王陛下に譲位したのは授業で習ったけれど⋯⋯それに関係しているのかな?
さすが王宮。門を潜ってから数十分してようやく目的地の祖父母の暮らす離宮に到着した。
玄関先には黒髪に少し白髪が混じった女性と、父様によく似た老人が迎えてくれた。
「よく来たな何年ぶりだ?」
きっとこの方が前国王で私のお爺様。
その隣でニコニコ笑顔なのがお婆様ね。
「お久しぶりです父上、母上。この子が私の娘のルナフローラです」
「はじめまして。お爺様、お婆様。ルナフローラと申します」
「ああよく来てくれたな」
温かい手で頭を撫でてくれたのがちょっと照れくさくて嬉しい。
お祖母様は何も言わずニコニコ笑顔だ。
実年齢よりも若く見える。50歳は過ぎているはずなのに40歳前後にしか見えない。
⋯⋯でも、お婆様は笑顔だけれど私のことも父様のことも見ていない。
「こっちに茶の用意が出来ている。ついておいでルナフローラ」
お爺様はお婆様の手を引いて、私と父様を応接間に案内してくれた。
会話をするのは主に私とお爺様で、私たちが帰る時間までお婆様はお爺様の隣で終始ニコニコしているだけだった。
結局時間にして一時間に満たない時間をお爺様とお婆様と過ごし、次に会う約束をしていると使用人が現国王と王太后様の訪問を告げに来た。
!!伯父様だ!
この間の婚約式の時に「陛下だなんて寂しいこと言うなよ~伯父様って呼んでくれよ~。それともお義父様って今から呼んでもいいんだぜ」なんて巫山戯たことを言うから父様に「お義父様はまだ早い!」と反対されたので伯父様と呼ぶようになった。
あの婚約式の日息子しかいない伯父様は「女の子は可愛いね~」と、フェイがヤキモチを焼くぐらい私の傍を離れなかった。
その伯父様が忙しい執務の合間を縫ってここに?
「やあルナ!ルナがここに来ているって聞いたから抜け出して来てしまったよ」
抜け出したんだ⋯⋯
王太后様は私たちに会釈だけしてお婆様の所へ行くとギュッと抱きしめていた。
父様が言っていた通り二人の関係は良好に見えた。
「兄上、俺たちは帰るが?」
「じゃあ可愛いルナの顔を見れたことだし私も帰るかな」
と⋯⋯私に会いに来たと言っていたけれど本当は他に何か目的があって来たような気がする⋯⋯
そして、見送られながら馬車に乗り込む寸前にお婆様が突然私に抱きついてきた。そして耳元で「ルナちゃん気を付けて」と、誰にも聞こえないような小さな声だったけれど、しっかりとした口調で警告してきた。
もしかして、心が壊れた振りをしている?
すぐに離れた時にはまたお婆様はニコニコ笑顔に戻っていた。
そんな私に殺意を向けている者がいることも、さらにその者に冷たい眼差しを向けている者がいることも気付かないまま四人にお別れの挨拶をして馬車に乗り込んだ。
もちろんすぐにお婆様の言葉を父様に伝えた。
少し驚いたあと「ルナは何も心配することは無いよ」と言ってくれた。
でもお婆様は『気を付けて』って、私は誰かに狙われているの?
それに、もしお婆様が心が壊れた振りをしているだけだとしたら何のために?
それは⋯⋯父様を、愛する我が子を守るためだとしか考えられない。
だけど、その為に10年以上も心が壊れた振りなんて⋯⋯出来るの?
そうまでしなければならなかった原因が近くにあったとしたら?
それはちょっと⋯⋯考え過ぎだよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます