第51話

おかしい⋯⋯


新学期が始まってもエリザベスがロイド殿下に一度も会いに来ない。

エリザベスが来るとアリーと言い争いになって騒がしくなっていたが、それがいまは静かなものだ。


夏季休暇前までは最低でも一日一回はうちのクラスまでロイド殿下に会いに来ていたのに⋯⋯休暇中に何かあったのかな?

あの夜会での様子もおかしかったものね。

まあ、ロイド殿下に変わった様子もないからエリザベスの王子妃教育がやっと進んでいるのかもしれないわね。


エリザベスが何をしようが私に関わってこなければどうでもいい。

それよりも相変わらずアリスト様が気持ち悪い。

そのアリスト様がニヤニヤした顔のまま廊下ですれ違った瞬間⋯⋯私の聞き間違えでなければ『ご機嫌よう元フォネス伯爵令嬢』って呟いたのが聞こえた。


なるほど、エリザベスから私がフォネス伯爵家にいたフローラだと聞いたのね。


⋯⋯だから何?それで何がしたいの?

エリザベスって本当に馬鹿だったのね。自分の親がしたことが犯罪だって分からなかったのかしら?それが広まれば王子妃になるどころか貴族でいることすら難しくなると⋯⋯想像もしていなかったでしょうね。

!!

もしかしてアリスト様にバラされたくなければとか何とかって脅されている?だから大人しくなったとか?

有り得るわね。


アリスト様が私をフォネス伯爵と先妻である亡くなったお母様との娘だと思っているのだとしたら?

王弟の父様が私を娘だと公表していることを否定することになるのに⋯⋯

まあコレはただの私の憶測だけれどね。そう間違っていない気がする。


そんな事よりも!


フェイとはあれから会えていない。

どうも忙しいみたいな内容の手紙が花束を添えて二日に一度は届く。

近況報告のあとは『ルナに会いたい』『いつもルナのことを思っている』『ルナだけを愛している』って恥ずかしくなる内容が毎回書かれているから意識せずにはいられない。

それに私もフェイに会いたいと思っているし、フェイのことを考えない日はない⋯⋯


もう、分かっているんだ。

私はフェイが好きだって⋯⋯

この気持ちをフェイに伝えたらどんな顔をするかしら?

驚くかな?きっと喜んでくれるよね?




もうすぐ私も17歳になる。父様とお母様が愛し合って結ばれた年齢だ。

父様がなぜお母様を置いて他国に行かなければならなかったのか、なぜ何年も帰って来られなかったのか、その理由を私は知らない。

父様が話せる時がきたらきっと話してくれると思っている。今はまだその時ではないのね。





そして手紙のやり取りはあるもののフェイに会えないまま冬季休暇が近付いてきたある日、以前より少し痩せた顔色の悪いエリザベスに声を掛けられた。


「お異母姉様助けて」と⋯⋯すぐに周りを見渡して去って行ったけれど隣にいたアリーもエリザベスの最近の様子に思うところがあったのか、あの子のことは嫌いだけれど話くらいなら聞いてあげましょうよと言うことで、父様に相談し我が家で会うならと許可を出してくれた。


アリーには前日に10歳でお母様が亡くなり、12歳でフォネス伯爵家を追い出されるまで暴力付きで使用人以下の生活だったこと、追い出される時には『野垂れ死ね』と身体中が痣だらけになるほど殴る蹴るをされたこと、死亡届を出すと言われたこと、お母様の弟のロー兄様に助けを求めてスティアート公爵家まで歩いたこと。そして本当の父親である父様に会えてからは幸せだってことを話した。

最後まで聞き終えたアリーの瞳からは止めどなく涙が溢れていた。気の強いアリーの涙に少し意外だと思ったのは秘密だ。

泣き止んだアリーは「絶対に許さない!今すぐに処刑にしましょう!」と怒り狂い、それを鎮めたのは父様の「簡単に処刑にしたら面白くないだろ?ルナの何倍も苦しめて痛みを与えないとな」の言葉に何かに閃いたのかニヤリと悪い顔をして父様と頷きあっていた。






そして学園が休日の今日我が家に訪問してきたエリザベスは彼女らしくない地味な装いで俯いて私の目の前に座っている。


部屋には私とアリーとエリザベスの三人だけ。


『威圧感のあるブラッディ様がいたらエリザベスが怯える』と、アリーの一言で当然のように同席するつもりだった父様には席を外してもらっている。

正確にはエリザベスと顔を合わせてもいないが正しい。


「で、話はなに?時間が惜しいから早く話しなさい」俯いて黙ったままのエリザベスに痺れを切らしたのかアリーが早く話せと催促すると、小さな声で少しづつフォネス伯爵家の状況を話し始めた。

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