第35話

ダンスパーティー当日は学園も休みで朝食の席に着いたまではよかった。

⋯⋯どう見てもいつもの3分の1以下しか目の前には用意されていない。

父様のお皿と私のお皿を何度見比べても朝食の量は変わらない。


「父様⋯⋯私の朝食が⋯⋯」


「そうだな」


「そうだなって!」


「この後ドレスを着るのだろ?」


ああ!そっか~!って違う!こんな量では全然足りない!


「お嬢様、ここでいつもの量を食べられると後で後悔されますのでここは我慢を」


う~マヤに言われたら我儘は言えない⋯⋯


「ドレスを着たあとに余裕があればご用意させていただきますね」


「は~い」


仕方がない。こうなったらさっさと着飾ってもらおう。


さっさと?

甘かった⋯⋯すっかり忘れていた。

前回のデビュタントの時も時間をかけて磨きに磨かれ昼食を摂る暇も与えられなかった。

まあ間に一口サイズのサンドイッチやクッキーを食べただけで夜会に出たのだったわ。


ここまで手入れに時間をかけてくれても喜んでくれる人は父様とロー兄様ぐらいなのにな。


あ~でも今日はフェイから贈られたドレスだから彼も喜んでくれるかな?褒めてくれるだろうか?どうなんだろ?







フェイの迎えの報告を聞いてエントランスまで急いで行くと、すでに父様が出迎えていた。

何やら険悪な雰囲気なんだけど何で?


「フェイ!」


「⋯⋯」


私の声に反応してやっと気付いてくれたフェイは目を見開いて驚いているような顔のフェイとまた難しい顔をしている父様。


「ルナ⋯⋯すごく似合っている。綺麗だな」


フェイって父様と並ぶとやっぱり似ている。

私と同じ青い衣装も似合っている。

それに私の瞳の色と同じアメジストの宝石がさり気なく袖口や襟元に使われている。


「ありがとう。フェイも本物の王子様みたいに素敵だよ」


「「⋯⋯⋯⋯」」


なんでそこで二人とも黙るのかな?しかも固まっているのはなぜ?


「⋯⋯フェリクス、分かっているな?変なのに絡まれた時はしっかりと守れよ?それと!ちゃんと俺の元にルナを送り届けろ」


「はい、分かっています。お任せ下さい」


フェイは何やら任務を与えられたようだ。


「さあ、ルナ」


わたしに向けて当然のように手を差し出してくれた。すぐそこに馬車があるのにわざわざエスコートしてくれるようだ。フェイってスマートだな。


「父様行ってきます!」


「ああ、気を付けるんだよ。父様はルナが帰ってくるまで起きているから声をかけなさい」


「心配しなくてもそんなに遅くならないよ」


本当に心配性なんだから。


父様に見送られながら馬車に乗り込んだ。

いつもならポンポン会話が続くのに、今日のフェイは様子が少しおかしい。


「フェイ体調でも悪いの?」


「いや、いたって健康だ。あ、あのな⋯⋯ルナに話しておかなければならない事がある」


「な、なに?」


そんな畏まって言われたら緊張するじゃない。


「お、俺の本当の名はフェリクス。フェリクス・ストレジア。この国の第二王子だ」


な、なるほど?

本物の王子様だったんだ。

デビュタントの日に王太子夫妻とロイド殿下しか紹介されなかったから気づかなかった。

確かにフェイはちょっとした仕草や所作に品があるとは思っていた。でもそれは貴族なら当然だとも。


「そ、そうなんだ⋯⋯今までの無礼を「いや、ちょっと待て!堅苦しい言葉は使わないでくれ!俺はルナとは飾らない本音が言える今のままで付き合いたい」


「いいの?」


「ああ。そうして欲しい」


「⋯⋯そうだよね~。今さら王子様って言われたからって口調まで変えるのってね?では遠慮なく今まで通りってことで!」


「ハハッ、ルナらしいな」


「それだけ?」


「いや、ここからが重要なんだ」


フェイには他国の王女の婚約者がいた。

王族として生まれ個人の感情が優先されることがないことを理解して受け入れていたらしい。

それが王女の方で問題があり、婚約は白紙に戻されたそうだ。

それから学園では令嬢には追いかけ回され、王宮では自分の娘を後押しする貴族たちにうんざりしていたそうだ。

親しい令嬢は私以外には一人も居ないと念押していた。


「でだ、今回のダンスパーティーで俺がルナをエスコートしている姿を見た令嬢たちからルナが目を付けられないかが心配なんだ」


「ああ、そんなこと?」


「必ず何があっても守るつもりだが⋯⋯って、そんなことだと?」


「ええ、私こう見えて意外と強いの。自分の身は自分で守ることが出来るように父様に鍛えてもらったの。センスがあるって褒められたわ。だから大抵の令嬢には負けない自信はあるわよ」


「⋯⋯それはフォネス伯爵家でのことが要因だろ?」


ああ、やっぱりフェイは昔の私を知っているんだ。


「二度とあんな辛い思いはしたくないから⋯⋯でもね!今は父様もロー兄様もいる。公爵家の皆も大切にしてくれる。だから⋯⋯そんな顔しないで?本当に大丈夫なのよ」


フェイの方が辛そうだ。


「それにフローラはフォネス伯爵に死亡届を出されているからもう存在しないの。私がフローラだったことは限られた人しか知らないの。だから秘密にしてね」


「 分かっている。それでも俺はルナを守りたい。守らせてくれ」


「ありがとう」


もしかしてフェイはあの時の鼻水垂らして泣いていた子?

⋯⋯そうだとしたら立派になったのね。

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