第31話
よし!
昨日までのどんよりとした灰色の空と違って抜けるような青空が広がっている気持ちのいい朝だ。
こんな日はやっぱりあの木陰でお昼寝が出来たら最高に気持ちがいいだろうな。
昨日のうちに料理長にはお弁当をお願いしている。
こんな青空の下、外で食べるなんて絶対に気持ちがいいはず。
⋯⋯それに何となくだけれど『フェイ』が待っているような気がするんだよね。
「父様、おはようございます」
「おはようルナ」
新聞から顔を上げて切れ長のキツイはずの目尻が下がっている。
父様の傍に行っておはようのキスを頬に贈ればすぐにキスを返してくれる。
今日も父様は最高に素敵ね。
最近の父様は少し忙しそうにしている。
朝夕の食事はもちろん毎日一緒に食べるし、夕食後に過ごす時間も変わっていない。
だけど仕事以外の何かを抱えていると思う。それが何かは分からないけれど父様のことだからあっさりと解決するんだろうな。
「ルナ。学園で困ったことはないか?」
ふふっ、これは日課のような父様の言葉。
常に私を気にかけてくれている。それがとても嬉しい。
「うん問題はないわ。それにやっと晴れたからお気に入りの場所に行けると思うと楽しみしかないの」
「そうか。どんな場所なんだ?」
私がどんな場所かを身振り手振りで話すと父様の切れ長の目が驚きに変わってそして柔らかく細められた。
こんな目をする時は私を通してお母様のことを思い出している時。
私のお気に入りの場所が父様にとっても思い出の場所なんだ。
「それにね、今日なら『フェイ』に会える気がするんだ」
「フェイ?」
「そう!デビュタントで私と踊ってくれた人よ」
覚えているでしょう?と聞けば⋯⋯父様の眉間に皺が寄ってしまった。
まあ、溺愛する娘から男の名前が出たからヤキモチ焼いちゃったのかしら?
「そ、そうか」
「ええ。父様に少し似ているからか親近感があるの不思議でしょう?」
「⋯⋯」
彼は昔の私を知っているような口振りだった。
でも嫌な気はしなかったな。
いつものようにエントランスまで父様が見送ってくれる。
「気をつけてな。何か困ったことがあればすぐに父様に言うんだよ」
「ええ、では行ってきます!」
よし!
早くあの場所に行きたくて今日ほど授業が長く感じた日はなかったな。
私はお弁当を持って急いであの場所に向かった。
『フェイ』がいるような気がしていたけれど、ちょっと早すぎたかもしれない。⋯⋯いつもは食堂で昼食を摂ってからここに来るものね。当然『フェイ』が来るとしても食後よね。
木陰で空を見上げながら料理長に作ってもらったサンドイッチを食べていたら⋯⋯
「久しぶりだなフローラ」
やっぱり会えた。
ここに来れば会える気がしていたんだよね。
「ルナですよフェイ」
「ああ、そうだったな。美味しそうな物食べてるな」
「美味しいですよ。一緒に食べますか?」
そう言って私の隣に座るようにぽんぽんと軽く叩けばフェイは少し驚いた顔をしたあと、照れくさそうに隣に座った。
思っていたよりもフェイとの会話は楽しかった。
友人のいない私にはフェイが話してくれる学園行事だとかテスト対策などの情報が有り難かった。
「明日もここに来るか?」
「ええ。フェイは昼食は食堂で食べているの?」
「⋯⋯いや」
「じゃあ!明日はフェイの分のお弁当も持ってくるから一緒に食べましょう?」
「いいのか?」
「もちろんよ!⋯⋯あの、あのね⋯⋯私、親しくしている人が居ないの。でも、でもね、それが寂しいって訳じゃなくて気楽でいいの。それは本当よ。でもフェイと話すのは楽しいし、また会いたいとも思うの」
フェイはあの先輩とは全然違う。
あの人は相手に対しても思いやりよりも、自分優先なところが隠しきれていなかった。
最近は彼に嫌悪感すら湧いていたもの。
「⋯⋯そうか。俺もルナに会いたかったよ」
!!
まるで私が愛しいと言っているかのような目。
こんな所まで父様に似ている。
それから、雨の日にフェイが利用している場所も教えてもらった。
これで雨が降ってもフェイに会えると思ったら嬉しくなった。
これであの先輩に会わなくて済むしね!
結局、予鈴が鳴るまでフェイとは他愛もないことばかりだけれど話が尽きなかった。
主に父様自慢だけどね!
また明日の約束をしてその場で別れた。
帰ったら父様に友達が出来たと報告しよう。
きっと喜んでくれるわ。
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