第22話 恋模様と時々魔獣
実のところサミエルからの申し出とカタリナ嬢の意思はリアンナ嬢が挨拶に来た翌日には確認していて、カタリナ嬢の実家であるパレタイン男爵に承諾の書状を王室とオッフィさま、神殿とファステン侯爵家にも手続きの書類を送り出していた。
さらにその事はフィンにも伝えていたのだけれど。
「今日は私と領都に参りましょう」
「いや、僕は仕事があるから無理だよ」
「仕事なんて兄にさせておけば良いのです!」
うん、サミエルがすっごく嫌そうな顔をしているわね。
そもそも仕事を放棄したり誰かに押し付けるなんてサミエルが一番嫌うことだし。
休日はカタリナ嬢と過ごしているから会えないのもあって、朝早くからカルバーノ邸に押しかけてくる始末。
最初はサミエルとカタリナ嬢の朝稽古に加わるつもりだったようだけれど、無謀にもカタリナ嬢に模擬戦を挑んで返り討ちにあったとか。
なまじ騎士家系で多少腕に覚えをつけさせてもらっていただけに、ショックも大きかったらしい。
フィンが言うには末娘だったせいで兄弟からも親からも可愛がられていたため自領の持つ騎士団が相当手心を加えていたのだとか。
実力もなく自信だけ付けてしまったせいで本物には遠く及ばなかった。
フィンはカタリナ嬢に礼を言っていた、負けなければこのまま討伐隊に加わる気でいたらしい。
結局朝稽古に加われないリアンナ嬢は朝早くにカルバーノ邸に押しかけては朝稽古をさせないようにしてしまった。
そろそろサミエルが怒るんじゃないかしら。
そんなリアンナ嬢の襲来もどこ吹く風とばかりにカタリナ嬢とサミエルは交流を深めていた。
まあ、条件だけ見ても伯爵家の末娘であるリアンナ嬢と結婚したところでカルバーノの縁者ではあっても平民になるしかない立場と男爵家に婿入りして男爵位を譲り受けるという、さらにその男爵家もファステン侯爵派に所属していて結婚後はカルバーノ領に腰を落ち着けれるカタリナ嬢とではあまりに差がありすぎる。
サミエルがリアンナ嬢に気持ちがあるなら兎も角、サミエルがリアンナ嬢を拒否し切らない理由がフィンであるだけではどうにもならない。
フィンも無理矢理引っ張ってでもドルフ伯爵領に返したいところだが、現在魔獣対策の真っ最中。
そんな暇がない。
一応実家へ引き取りに来るよう早馬を出してはいるけれど騎士団を持つ騎士家系のドルフ領も彼方此方に自領と魔獣対策に追われていて手が出せないらしい。
「妹がすまない」
「今は仕方ないよね」
そう言いながらもサミエルはあからさまにリアンナ嬢を避け出した。
リアンナ嬢がどう引っ掻き回そうが魔獣は来るわけで、今回は南の森から大型の魔獣が東の高地から中型の魔獣の姿を確認したと報告があがり、サミエルとクリスが大型魔獣の対応を、フィンが中型魔獣の確認があった地へと向かうことになった。
「義姉さん、カタリナ嬢、領都を頼みます」
サミエルがそう言い残しクリスと共に討伐隊を率いて発つ、フィンもまた討伐隊を率いて高地に向かった。
私とカタリナ嬢は領都の衛兵詰所から総指揮を取る。
リアンナ嬢はあくまで客人のためフィンが自宅に留め置いた。
「昼過ぎにはどちらも交戦に入ると思われます!」
連絡係の衛兵が伝えに来ると室内に緊張感が走る。
移動型のカタパルトとバリスタが魔獣を目視した段階で射出される、その後は魔術と剣術で倒していくしかない。
依頼している討伐隊が来るまでまだ二週間はある。
ここを凌がなければいくら電気柵があろうと被害が広がる。
「大型魔獣、接触しました!」
「中型魔獣、接触確認!」
刻一刻と伝わる戦況に討伐に出た皆の無事を祈る。
緊張する詰所が俄かに騒々しくなり扉が無遠慮に開かれた。
「何をしてるの!何故あなたは行かないの!」
毛を逆立てて駆け込むなり怒鳴り散らすリアンナ嬢を衛兵に抑えさせる。
「全員が向かってはここを守る人がいなくなるのよ」
「そんなの逃げてるだけじゃない!」
私が冷静に諭すも興奮していて話にならない、チラッと視界に入ったカタリナ嬢の握った拳から血が滲む。
待つのは歯痒く怖い、けれど私もカタリナ嬢も彼らが安心して帰る場所を守っているから戦えることを知っている。
「話にならないわ!卑怯者!」
そう叫んだリアンナ嬢が衛兵を振り切り詰所を飛び出した。
「止めに行きます」
カタリナ嬢が後を追うために詰所を出ようとした。
「北西の電気柵に反応あり!中型魔獣三体を確認しました!」
最悪の事態だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます