第19話 お泊り特訓 3
驚くというのは、こういうことを言うのだろうというのは、なんとなくわかった。
それでも、鍛えている天音の足は速かった。
というのも、駅から天音は出てきた。
当たり前のようにきれいな見た目の彼女は、駅から出てきたところから目立っていた。
待ち合わせ場所に立っていた私は、結構な勢いででてきた彼女に、声をかけられるものだと思っていた。
だけど、彼女はそのまま走り去っていってしまった。
「え?」
驚きながらも、私自身の体は、ちゃんと動いていてすぐに追いかける。
こういうときによかったのは、この後にレッスンがあるということもあって動きやす服装でいたことだろう。
さすがに走ったところで、普段ちゃんとレッスンをこなしている天音に追いつけるはずもないと思った私は、歩いて向かう。
このときによかったのは、初めてプールで特訓した後、一緒に帰ったことがよかった。
ある程度家の場所がわかってるから、わかるところまで向かうことができるからだった。
最初からわからなければ、必死に走ってついていく必要があったけれど、そうならなかったことだけはいいところだった。
「さすがに、最初から必死についていかないってなったら、見失ったときに怖いしね」
そう思いながら、天音が走って行ったであろう場所に向かっていく。
ゆっくりと歩いていくことで体力も温存できるという戦法だ。
天音のことだから、気づいたら戻ってきそうだけど、もし私がそこにいないってなれば、連絡くらいはくるよね。
そんなことを考えながらも、歩いているときだった。
駅から少し歩いたところの公園に人影が見えた。
シルエットで、それが天音だということに気づいた私は、天音が座っていた公園のベンチの隣に腰をおろす。
「花澄さん…」
「うん?どうかしたの?」
「あの…すみませんでした」
「何に対して謝ってるの?」
「それは、その…待ち合わせ場所から走り去ってしまったので…」
「確かに、それはダメなことだけど、理由があるんじゃないの?」
「それでも、せっかく教わるっていうのに、逃げていくのは…」
再度天音はそんなことを言う。
そんな天音を見ていて、私はだんだんとイライラとしてきた。
アイドルだというのに、自信がない。
そういうのは、私が好きな漫画やアニメにもキャラとして登場する。
自信がない彼女たちが、練習なんかを重ねることによって、自信をもってアイドルになっていくというのは、見るものとしてはいいものではある。
でも、実際に目の前の彼女が自信をもっていない、ダメダメ主人公のような感じになっているのを見ていると、どこか鬱陶しいと感じてしまうのは私だけなのかな?
何度も申し訳なさそうにしている天音を見て、私は手をガッと掴む。
「え?」
驚く天音を引っ張るようにして立ち上がる。
急な出来事に、天音は驚いているが、私はそんな天音の目を見る。
「花澄さん?」
「天音?いい加減うじうじするのやめて!」
「うじうじって、私は…」
「うじうじじゃなかったら、なんだっていうの?」
「私は、自信がなくて!」
「だったら、ステージに立つのは他の人に譲ればいいじゃない!」
「でも、それは…」
天音は、言いよどむ。
私は思ってしまう。
なんで言いよどむのだろうと…
天音はアイドル。
それも、せっかくオーディションに受かって、ものにしたステージなのだ。
普通なら、他の人に譲れと言われれば、すぐにでも嫌だと答えるはず。
それなのに、天音は何も言えなくなってしまう。
その姿に、私は思わず天音の胸倉を掴んでしまう。
「花澄さん…」
「そのさん付けをやめろって言ってるじゃん!」
「ですが、私はステージに立つまでは…」
「そんなことを言ってるから、いつまでもうじうじしてるんじゃないの?」
「そんなこと、ありません」
「だったら、ちゃんと否定しなさいよ。天音はアイドルなんでしょ!だったらこんなことでうじうじしないでよ!」
「否定したいです。でも、私はそれができるほど、ダンスが歌がアイドルとしてちゃんとできていません」
「そんなこと、新人に誰も期待していないって、私は少し前に言ったよね!」
「嫌です。私は、私は…完璧なアイドルになりたいのです。だから…」
再度、天音はそんなことを言う。
かなりの理想でしかないその言葉に私が思うのは一つだった。
「完璧になんて、最初から誰もできるはずないじゃない」
「それでも…」
「だったら、どうして逃げるのよ」
「…」
「自信がないなら、練習するしかないじゃない」
「わかってるんです」
「だったら、やるのよ。こんなところで立ち止まってる暇ないでしょ!」
「でも、うまくできなかったら…」
「それは、今考えることじゃないでしょ!」
「はい…」
天音は、私の気迫に押されるようにして最後には頷く。
ただ、当たり前のことではあるけれど、かなりの大きな声で喧嘩のような言い合いをしていた私たちは、その後に警察に注意を受けるのだった。
二人で必死に謝ることになったのは言うまでもなかった。
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