どん底==>>最高へ
夢限
第1話 短い人生
僕の名はプリマティオ、だったと思う。ここ5年ほど名前を気にしたことがなかったけれど、合っていると思う。そんな僕だけど、現在顔はもとの形が分からないほどに腫れあがり、たぶん骨もなんか所が折れている。そして、体も全身あざだらけで、こちらも骨があちこち折れている。その結果僕は今全く動けない。どうして、こんなことになったのかというと、失敗したからだ。僕はこの5年間浮浪児として街の中をさまよって、屋台から食べ物を盗んだり、歩いている人からお財布を盗ったり、時にはごみ箱をあさって何とか生きてきた。今回も屋台から食べ物を盗んだんだけど、ここで屋台の人に見つかって、追いかけられ、捕まって、この場所人気のない路地裏に連れてこられて、いっぱい殴られた。殴ってきたのは5人のおじさん、大人の男の人が力いっぱい殴ってきた。何度も、何度も、何度も、僕はやめてとか許してとかいろいろ言ったけれど、ちっともやめてくれない。
そうして、ついに全く動けなくなった僕を見たおじさんたちがやっと手を止め、『もう、二度とするなよ』とそういって僕に唾を吐き捨てて去っていった。
「ぼく、このまましんじゃうのかな」
これで、こんなつらい目に合うこともなくなるんだと思うと、ちょっとすがすがしい気分になる。
そう思った瞬間、僕の脳裏にこれまでことが思い出された。
僕の人生、5歳になるあの日までは、ごく普通の人生だったと思う。両親がいて、かわいがられて、愛されて、僕が何かをするたびに褒めてくれて、一緒になって笑って、そんな日々だった。でも、あの日僕の人生が大きく変わってしまった。それというのも、この世界は人ならだれでも最低1つのスキルを神様から与えられる。それは戦闘系のものであったり、生産系のものであったりと様々、このスキルは将来の仕事や生活の補助をしてくれる神様からの祝福。あの日も僕はどんなスキルを受け取ったのかドキドキわくわくしていた。
「どんなスキルかな」
「そうね。きっと希望に満ちた物よ」
「そうだな。神様はその人の夢や才能に沿ったスキルを与えて下さる。プリマティオはどんなスキルがいいんだ?」
「えっとね。おとうさんみたいなけんしがいい」
「おおう、そうかそうか、お前は筋がいいからきっともらえてるぞ」
「うん」
これが、僕と両親の村から街へ向かう馬車の中での会話。5歳になると誰でもスキルをもらえるけれど、どんなスキルをもらえたのかは、教会で鑑定をしてもらわなければわからない。でも村には教会はあっても鑑定を使える人がいないため、村ではこうして5歳になると街まで出ていき教会で鑑定してもらうことになっている。僕もこの時そんな希望をもって教会へ向かったんだ。
そして、初めての街、キラキラしててとても大きくて、僕もいつかこんなところに住んでみたいって思った。
「さぁ、ついたぞ」
「いよいよね」
「う、うん」
若干の緊張を持ちながら僕と両親は教会へと入っていった。
「お次はその子ですかな?」
「はい、プリマティオと申します」
僕の前にも何人か鑑定待ちの子が並んでおり、ようやく僕の番がやってきた。
「では鑑定します……おや?」
僕の鑑定をした神父さんが不思議そうな顔をしていた。そして、次の瞬間わなわなと震えて言った。
「あ、ありえない。まさか、そんな馬鹿な!」
神父さんにあるまじき言葉で驚愕しているため、僕も両親も驚いた。
「し、神父様、息子はどんなスキルを?」
「す、すみません。あまりのことに我を忘れてしまいました。それで、お子さんのスキルですが、その、ないのです」
「えっ!」
お父さんが恐る恐る僕がどんなスキルを与えられたのかを尋ねと、我に返った神父さんが答えに今度は僕たちが言葉を失う。
「えっと、すみませんもう一度お願いできますか?」
神父さんの言葉を理解できなかったお母さんがもう一度訪ねた。
「かまいません。お子さんはスキルを持ってはいません。与えられてはいないです。こんなことはありえません」
「ない、ないって、そんな、そんなことがあるのですか?」
「いいえ、こんなことは前代未聞、わたくしも長らく神父をしておりますが聞いた事もありません」
神父さんはそういって若干興奮していた。それほどのありえないことみたいだ。
「そんな、なぜ?」
「ああ、神様!」
ここにきて両親はようやく事実を認め、僕はというといまだによくわかっていなかった。
「少し、お話するべきことがありますので、こちらへ」
神父さんが両親に話があるといって呼んだ。
「わ、わかりました。プリマティオ、ここで待っていなさい」
「うん」
それから両親と神父さんは離れた場所に行き、何やら話し込み始めた。僕はというと、早く割らないかなぁと、のんきなことを考えていた。この後、自分の身に何があるのか、そんなことを微塵も考えずに……
そして、話が終わり僕のもとに戻ってきた両親、僕はお母さんの手を取り、教会を後にして、やってきたのはなんだか人気のない路地。
「プリマティオ、お母さんたちはこれから、ちょっと用事があるから、ここで待ってて頂戴」
「うん」
「ここを動くんじゃないぞ」
「わかった」
両親はそういって、振り返ることもなくどこかへ行ってしまった。
そして僕はというと、言われた通り、その場所を動くことなくじっと両親を待ち続けたのだった。
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