いつも通り宝石を壊していたら、変な後輩ができた件について

真白いろは

アンバー

日向水

 今日こんにちも俺らは宝石を求む。


「はぁ…はぁ…はぁ…!」


 息を切らして路地を駆ける。後ろからはパタパタした足音もしない。っているからだ。ただズリズリと擦れる音が聞こえる。よし、と覚悟を決めて、振り返った。後ろは壁。逃げ場はない。


 後ろには巨大な蛇がいた。白く硬いウロコとくれないの瞳を持った怪物。多分25メートル以上はある。俺を目掛けやってくる。がぱぁと口を開け、丸呑みにする準備を整えて。赤く細い舌がチロチロ舞っていた。

 軽く横に走る。勢いを殺せなかった蛇はそのまま壁に突っ込んだ。すぐさま跳んで蛇の背へ。

 いける…!

 自身のてのひらをウロコにくっつけた。しがみつきながらもゆっくりと力を込める。目を閉じれば、トクトクと蛇の中へ入る。解剖しようと見えない、蛇の中へ。

 ふわふわとした、なんとも言い難い空間に漂う、宝石のような何か。それを握って、力を込める。パリンと音がして、宝石は握りつぶされた。

 そして目を開けると、蛇は息絶えていた。内側から攻撃したので、外傷はない。

 こいつはただ赤いだけだったな、と思って降り、伸びをした。


 仕事完了。お疲れ様でした。

 連絡して、今日は帰ることにした。


 ここはただの現代社会。と言っても、俺にとって・・・・・の現代社会。人間はほとんどいなくなり、何かもわからないような生物たちが生きる社会。でも、たまにいるんだよなぁ。人間を食べようとする奴が。

 人間はどうやら美味しいらしい。特に15歳から18歳くらいの女子は格別に美味いらしい。俺も17だが男子なので、上から2番目か3番目くらいの美味さってわけだ。2番目は20くらいの女なのかな。うーん、分かんない。

 俺は、そんな暴走し出す奴らを殺してまわっている、いわば人間の味方。だが雇われているので、もちろん給料もある。

 他にも仕事はあるのだが、これが一番、給料がいいんだよなぁ。


 宝石を握り潰せば、心臓を刺さずとも綺麗に死ねる。宝石を潰す能力は人間にしかないので、需要はあるけど供給が少ないのだ。だから給料が良い。宝石は全員潰せるが、それを職にするには少々練習が必要となる。初心者だと、潰せる時と潰せない時が出てしまうのだ。いつでも潰せるようになったら雇ってもらえる。ちなみに俺は5歳から練習し出したので、8歳になる頃には給料がもらえるようになった。


 少し歩くと、明るい場所にたどり着く。商店街だ。今は屋台が並ぶ夏祭り状態になっているけど。ここで毎日食材やらなんやらを買っている。

 赤やオレンジに煌めく提灯ちょうちんが吊るされ、ここは夜でも明るい。

 ふと美味そうな匂いがして、チラリと見ると、焼き鳥屋・たつのタレの匂いだった。


「タレ、1本。」

「ああ、コウか!」


 竜の大将も『何か』だ。そのままの意味で枯れ枝の体なのに、声はやたらと元気で、シワも増えてきたのにいまだに元気に過ごしている。この間はウエイトリフティングを行なっていた。ちなみに竜の由来は、大将が子供の時の夢が「竜になること」だったからだ。


「仕事帰りか?」

「まあ、そんなとこ。」

「背、伸びたな〜もう少しで俺越せるんじゃないか?なーんつって!人間に俺は越せねえよ。」

「だろうね。身長2メートルくらいは余裕であるもんね。俺なんてまだ170センチいったかな…?くらいだよ。」

「ほら、おまけでもう一本つけてやるから、さっさとデカくなれよ?」

「ありがと。じゃあね。」

「おう!また来いよ!」


 かぶりつくと、やっぱり美味しい。少し甘めのタレがよく肉に絡み付いている。美味いな。

 こーゆーサービスがあるから、あそこの店は良いんだよな〜。

 すぐに一本目を食べ終わり、2本目を食べ始めたとき。ザラザラ感を横道から感じて、覗き込んだ。暴走したか?それなら安全と給料のために向かわねばならない。一気に2本目を食って、見てみることにした。


 覗いてみると、少し細い道に女が立っていた。俺と同じ人間。月の下で艶やかな黒髪が靡いている。蒼黒そうこくのブレザーに、灰色と白のチェック柄のスカート。うわ、スカートみじか…。

 多分年齢は俺と同じくらい。何かを真っ直ぐ直視している。視線の先は…あ、やっぱり食おうとしてるやつだ。


「ほしい…。にんげんほしい…!」


 あ、うん。完璧に食おうとしてる。白い頭巾を被った少女が衝動を堪えられずにいる。


 きゃああああ!と叫びながら少女が走った。頭巾が取れる。口が耳元まで裂け、とんでもない笑顔だ。喉から手が出るほど黒髪の女を食べたいのだろう。まあ確かに今、あの女は食べ頃真っ盛り。相当美味しそうなんだろう。

 だが、それを黒髪の女は許さなかった。力一杯、持っていたバールを振り下ろす。少女は呆気あっけなく倒れた。そして女は拘束しつつ掌をくっつけた。目を閉じる。

 こてんと少女は脱力した。結局食べられなかったまま、落命した。

 嫌なもの見た。何回も見ているとは言え、流石に見たいとは思わない。再び商店街に戻り、夕飯を探した。

 ふと浮かんだのは黒髪の女。あいつ…誰なんだろう…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る