第25話 清水さんと相合傘②
(……どうしよう)
本堂が去ってからしばらく後、私は移動せず駅の中から雨空を眺めていた。
親を呼ぶと本堂には伝えたが、両親は今日出かけてしまっていて夜までは帰ってこない。愛は傘を持っているか分からないし、そもそも友達といるところを邪魔したくない。
そうなると自力で家まで帰るしかないが雨は激しさを増すばかりで全然止む気配がない。完全に手詰まりというやつだ。
さすがにこの雨の中を傘なしで走って帰るのは風邪を引きそうだし、何よりワンピースやぬいぐるみが濡れてしまう。
無意識だが自分の体調よりもワンピースとぬいぐるみの優先順位を高くしていたことに気づきハッとする。
(何考えてんだ私……)
アイツに一度服を褒められたくらいでなんだというのか。
アイツは愛だって褒めていたし私が着た他の服だって褒めていた。でもこのワンピースを褒めていた時のアイツの顔はどこか他の服の時と違ったというか。見惚れていたように見えたというか……。
頭をブンブン左右に振る。アイツがそんな反応をするわけがない。あの鈍感な男は何度アピールしても私の気持ちに気づいてくれないのだから。ただ、全く無反応というわけでもなく見てほしい部分は見ていてくれて……。
頭を再びブンブン左右に振る。アイツの反応なんてどうでもいい。それにこのぬいぐるみだってどうしたというのか。どこにでもあるクマのぬいぐるみだ。でもこれはアイツが私のためにとってくれた特別な……。
「……清水さん」
アイツのことばかり考えていたせいか幻聴まで聞こえてきた。自分はここまで脆かっただろうか。
高校生になってからは人を寄せつけないようにして、弱いところをなるべく人に見せないようにしてきたつもりだ。それなのにアイツは私の近くにいて私を少しずつ脆くさせる。
「清水さん?」
誰かの顔が目の前に現れる。
「うわっ」
突然のことに反応しきれず可愛くない声を上げて後方に飛んだ。
先ほど私がいた位置には当たり前のように本堂が傘を持って立っていた。
「本堂、なんでお前ここにいるんだよ」
「なんでって帰る途中で引き返してきたからだけど?」
「だからどうして戻ってきたか聞いてんだよ」
「なんとなくかな」
「はあ?」
清水さんは心底理解できないような表情をしている。
まあその反応も仕方のない理由だと自分でも思う。
「なんとなく清水さんがまだここにいる気がしたんだよね。そう思ったのは帰ってる途中なんだけど。清水さん優しいから僕を帰りやすくするためにウソをついたんじゃないかなって」
「お前、それで私が普通に帰ってたらどうするつもりだったんだよ」
「そしたら考えすぎだったんだなってまた帰ってたよ」
「お前……」
清水さんの顔は呆れているようにも見えるし何か他のことを考えているようにも見える。
「まあ清水さんがいたからよかったでしょ。ここにいるっていうことは帰る手段がないんだよね?」
「……ああ。それ聞くってことは何か解決策あるのか?」
「あの……それなんだけど」
「なんでそこで歯切れ悪くなるんだよ」
「僕の傘使ってよ」
「はあ?」
清水さんは予想していたものと大方変わらない反応を見せた。
「近くのコンビニ見て回ったんだけどビニール傘売り切れててさ。それでもう僕が貸せる傘は自分の分しかないんだよね」
「そしたらお前はどうやって帰るつもりなんだよ」
「どうしよう、輝乃にでも迎えに来てもらおうかな」
いくら出不精な輝乃でも、僕が困っていればきっと助けに来てくれるはずだ。
「……半分」
「え?」
「半分だけ傘貸してくれ」
「それって相合傘ってこと?」
「わざわざ言い直さなくていい! それでどうなんだ」
「清水さんはいいの?」
「お前の傘なのにお前が使わないのはおかしいだろ。でもワンピースやぬいぐるみは雨で濡らしたくない。だから……お前の傘に入れてくれ」
清水さんは絞り出すような声で僕に告げた。
「分かった、それなら傘に入ってもらっていいかな?」
「お、おう」
清水さんがおそるおそるといった感じで僕の傘に入ってくる。こうして僕と清水さんは駅から家に向けて動き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます