相談
「この辺もお店が増えたじゃない」
それは走って来たから知ってるよ。高校の頃に比べても増えてるよね。それもちょっとオシャレそうな店も出来てる。
「銀将も出来てたでしょ」
あったな。あのチェーンは大きいけど、こんなところにも出来てるのにちょっと驚いたかな。
「あそこってさ、安くて旨いが売りじゃない」
卵一日何万個のCMは知ってる。
「お客さん取られちゃって危ないのよ」
なるほどそういうことか。イズミの店も安くて旨いだけど、どうしたって銀将に行っちゃうかもね。まあ、言いたくないけど昔のままで薄汚れてしまってる。中華は小汚い方が美味しいっていうけど、
「あれは都市伝説みたいなもの」
入るなら銀将に行くだろうな。今日だってイズミに呼ばれたから来たけど、なんにも知らなかったら銀将に行くものね。じゃあ改装したら、
「カネがない」
まあ改装したって、それで客が取り戻せるかと言われれば疑問符がテンコモリなのはわかる。もしするにしたって、改装したら繁盛するぐらいに見通しがないと借金だけが増えるものね。
「だからマナミが頼りなのよ」
他にいないのかよ。こういう時にはコンサルってのもあるだろうけど、コンサルはコンサルでピンキリも良いとこらしいのは聞いたことはある。高いコンサル料だけ取ってロクな仕事をしないのも多いらしいものね。
「昔にそんなテレビ番組があったじゃない」
あれか。潰れかけの飲食店を再建しますってやつだろ。あれはね、ごくシンプルには新たな看板メニューを作り上げ、それに見合うようなイメージに店を改装して、
「リニューアルオープンしたら大繁盛」
そうなった店もあったかもしれないけど、そうならなかった店の方が多いのじゃないかな。あの番組のラストが曲者だと思うんだ。たしかにお客さんが来て繁盛してるように見えたけど、あの客がどこから湧いて出たかが問題なんだよ。
テレビって台本があるのよ。台本以前にああいう番組だから、最後は繁盛しないと話にならないじゃない。あれだけやって失敗でしたのじゃ、放映なんか出来るものか。だから番組制作サイドはどんな手を使ってでも客を集めたはずなんだ。
「それってサクラとか」
だと思うよ。少なくとも鳴り物入りみたいにテレビ局が放映するって宣伝してるだろうし、その番組が収録される日だってそう。そこまでになれば、
「テレビに映るかもしれないってだけで来るよね」
そういうこと。似たような番組もあったじゃない。
「そっちも見てた。リフォームするやつね」
あれがトラブル続出でなくなったものね。番組では完成したリフォームを匠の技の結晶みたいに絶賛してたけど、
「あれだけの費用を出したのに使いにくくて話にならなかった」
余計に不便になった話もいくらでも転がってるぐらい。ああなってしまった原因は色々あるだろうけどまずは演出のエスカレートは絶対にあると思う。ああいうリフォームで視聴者が求めるのは、
「こんな家をどうするって言うんだ!」
ここから入らないといけないじゃない。そのためには番組が続けば続くほど難度は上がるしかない。難度が上がり過ぎると誰が手を出しても無理なものは無理になるよ。だってあれこれ工夫を凝らすには面積が絶対に必要だ。
「あれだね、ワンルームマンションを4LDKには出来ないってことよね」
それに近い感じだと思う。演出は小手先に求められるのもある。たとえばやたらと出て来る階段収納みたいなやつ。
「それ思った。あんなもの役に立つのかって」
まだあるぞ。見た目上の演出だと思うけど、天井を取っ払ってしまうとか、壁をなくして広く見せようも、
「あんなことしたら、エアコン代が高くなるし、それより部屋が暖まらないし、冷えないよ」
そういうこと。吹き抜け構造とか、だだっ広い大部屋を作れば解放感は演出できるけど、他はデメリットが多いのよ。掃除だってどうやってやるのかと思うぐらい。だけど番組演出として、
「見栄えはともかく実際は住みやすいは最初から無いのか」
そんな感じになって行ったはずだ。
「途中からおかしくなってたよね。リフォームと言いながらほぼ建て替え状態になってたもの」
それでも全面建て替えにしていないのは建築基準法の関係で、建て替えになれば築面積の問題がでるからだそうだけど、あそこまでぶっ壊せば費用も上がるし、
「求められるものだって高くなる」
そういうこと。トラブルにならない方が不思議だ。とは言うもののイズミの店をなんとかしてあげたい気持ちはマナミにだってある。友だちの店でもあるし、高校時代の青春の思い出の店でもあるもの。
とは言うものの潰れかけになってる状態から奇跡の復活をさせるようなアイデアがポンポン出てくれば誰も苦労なんかするものか。そんなにお手軽に出来たら、潰れる店なんてこの世からなくなるだろうが。
「それはそうなんだけど・・・」
マナミぐらいが知恵を絞っても何にも出るはずがなく、最後に出た遁辞は、
「とりあえず考えてみる」
申し訳ない気分で一杯だったけど、もうイズミの店に来ることはないかもしれない。だって放っておいても潰れるだろうし、もし次に行くなら再建のアイデア無しで行けるはずも無い。帰り道に涙が出た。
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