第41話

 

 結界を割ってアビスの割れ目に突入すると、直ぐに荘厳な扉が現れた。


 俺を遮る物は、何だって破壊する。


「うおりゃあああーー!!」


 俺は魔力の手をたくさん出し、百裂拳。

 目の前の扉を、盛大にボコボコにして破壊して、そのまま扉の奥に進む。


 割れ目は大人1人が歩けるくらいの大きさで、少し湿り気がある。

 魔道具の光源が、10メートル間隔で設置されてるが、それでもちょっと薄暗く感じる。


 そんなアビスの割れ目を、俺は猛スピードで走り抜ける。

 多分、15分程走っただろうか?道が少しづつ大きくなってきて、そして、また目の前に結界が現れた。


 俺は、その結界を無視して突き進む。

 最早、結界など破壊する必要などないと気付いたのだ。普通に進むだけで、結界など薄紙一枚にしか感じられないと気付いたのである。


 そして、難無く結界を突破すると、無骨な鉄製の扉が現れた。

 ここまで来ると、ヤヌー牧場が、ただの牢獄だという事が分かる。

 家畜のヤヌーを飼うのに、壮厳な雰囲気など必要ない。ただ、ヤヌーを逃がさなければ良いのだ。


 この扉は、ヤヌーを逃がさない為にだけ作られた、ただ頑丈なだけの扉なのである。


 なんか、扉を見てただけで腹立たしくなって来た。

 壮厳なヤヌー牧場側と、ただ頑丈なだけなフローレンス帝国側の扉の違い。


 多分、16歳になったばかりのヤヌー達は、ここで違和感を感じるのかもしれない。


 俺は頭に来て、扉を実体化する8本の魔力の拳で粉々に粉砕してやった。

 ヤヌーを差別する奴らは、例え誰であっても許さないのだ。


 そして、粉砕した扉から外に出ると、扉の外で警備してたであろう、フローレンス帝国の兵士が、粉々になった扉の下敷きになって倒れてた。


 まあ、死んで無さそうなので良しとしよう。


 結構、扉をぶち破るのに大きな音を出した為か、目の前にある城のような、アビスの割れ目を守る為に建てられたのであろう砦から、兵士がゾロゾロと出て来る。


「何者だ!」


 フローレンス帝国の兵士が、少し離れた場所から大声で聞いて来る。


「何者だと? 俺は、ハイブリッドヤヌーのタカシだ! 俺の彼女のエリーを救いに来た者だ!」


 俺は、堂々と、フローレンス帝国の兵士に言ってやったのだ。


 だけれども、兵士達は、俺の言葉にキョトンとしている。

 別に、分かんなくても、それでいい。

 俺は、エリーさえ助けだせれば良いのである。


 だがしかし、見ず知らずの人を殺してしまうのも何だから、俺は、ありったけの魔力を放出してやる。

 アビス山脈でも、俺の本気の魔力を浴びると、最早、黒龍意外の魔物は、俺に近付く事など出来なかったのだ。


 そんな俺の魔力を浴びれば、ご覧の通り、50人近くいた兵士は、全員、泡を吹いて倒れてしまった。


 俺は、倒れた兵士の横を歩き、目の前にある、多分、アビスの割れ目を守る砦の中に入って行く。

 最早、俺を遮る者など、誰も居ない。砦の中に居る者達も、全員、俺の魔力に当てられてら次々と気絶して行く。


 砦は、外からは無骨な感じがしてたのだが、中に入ると、結構、大きく豪華な造りになっている。

 そして、何も考えずに進んで行くと、そこには客席と舞台がある、そのまんまオークション会場のような場所を見つけてしまった。


 多分、ヤヌー牧場で育てたヤヌーを、このアビスの割れ目を守る砦も兼ねたオークション会場で、売り捌く仕組みなのであろう。


 結構、ここまで来る途中に、貴族みたいなオッサンや、オバサンもたくさん転がってたし、そいつはら、新鮮なヤヌーを買いに来てた奴らに違いない。


 この場所で、エリーは、マイクに買われてしまったのだ……


 転がってる貴族を調べても、マイクは何処にも居ない。

 多分、オークションでエリーを買って、早々に家に帰ったのであろう。


 なんか、面倒くさかったから、魔力を全放出して、全員、気絶させてしまったが、俺は、買われてしまったエリーを追い掛けないといけなかったのだ。


 なので、その辺で気絶してた肥え太った貴族の胸ぐら掴んで、そいつにだけ、俺の回復の魔力で包んでやる。


 俺の回復の魔力に当てられた、肥え太った豚は目を覚ます。


「おお! タカシ! タカシじゃないか! ヤヌー牧場から出て来るの、ちょっと早かったんじゃないのか?」


 どうやら、肥え太った豚は、俺の事を知ってる人だったようだ。

 まあ、確かに、俺って、エベレスト侯爵家の貴族子息のようなので、俺を知ってる人間が居てもおかしくない。


「お前、俺の事を知ってるのか?」


「オイオイ、タカシよ! 実のお父さんを忘れてしまったのか?

 そんなにヤヌー牧場が楽しかったからって、実のお父さんを忘れてしまうなんて、とても悲しいぞ!」


 なんか、肥え太った人の良さそうなオッサンが泣いている。全く、嘘を付いてるようには見えない。


「お前、本当に、俺の父親かよ?」


「タカシよ。ヤヌー牧場に行って、大人になったからって、今更、反抗期とかって、お父さん、とっても悲しいぞ!」


 このオッサン……本当に、シクシク泣いてるし。どんだけ、親バカというか息子バカなのだ……


 このオッサンは、記憶の無くなる前の俺のワガママを聞いて、俺をヤヌー牧場に送り込んでくれた人。

 どんだけ親バカな奴だと思ってたが、俺の想像を上回る親バカだった。


 だがしかし、俺はどんなに親バカなどうしようもない父親だったとしても、決してこの人を嫌いにはなれない。


 俺って、前世で、高校で喧嘩して中退した過去があるんだよね。

 その喧嘩にも、俺なりのちゃんとした理由があったんだけど。


 だけれども、俺は高校を勝手に中退してしまって、両親を悲しませた過去があるのだ。


 当時の両親は、中退してしまってやさぐれていた俺を、親身になって、色々と手を尽くしてくれていた。


 俺でも入れる違う高校を探してくれたり、通信制の高校はどうだとか……


 だけれども、当時の俺は自暴自棄に陥ってしまっていて、親が折角見付けてくれた全ての申し出を断り、自分の部屋に引き篭ってしまったのであった。


 そして、3年経ち、同じ高校に入ってた奴らが、大学行ったり、働き出してから、俺も引き篭ってるのに焦りだし、バイトとか始めたのである。

 まあ、高校中退の中卒だと、ちゃんとした会社は正社員で雇ってくれなく、結局、派遣社員になってしまったのだけど。


 それでも、俺の両親は、最後まで俺をフォローし支えてくれた。

 そんな、高校中退してしまうようなアホなダメダメな俺を、いつも優しいく接してくれる両親の顔を見るのが耐えらなくて、家を飛び出し安アパートで一人暮らすようになったのである。


 俺は、この世界に来て、1つだけ後悔があるとしたら、迷惑ばかり掛けてしまった、前世の両親に全く親孝行ができなかった事。


 そして、全く覚えてないが、多分、この世界の俺の父親であろう、肥え太った人の良さそうなオッサンも、ヤヌー大好きな俺の為に、ヤヌー牧場に送り込んでくれたりと、俺をとても愛してくれていたのだろう……


 せめて、目の前にいるオッサンにだけは、生きてるうちに親孝行したいのである。

 じゃないと、前世の時のように親孝行する前に、異世界に飛ばされちゃうかもしれないし。

 親孝行は、すぐにでもやっとかないと、いざ、やろうと思った時は、手遅れで、やれなくなってしまうものなのである。


「父さん! 今まで俺を育ててくれて、ありがとう!」


 俺は、取り敢えず、今日初めてあった見ず知らずの肥え太ったオッサン(お父さん)に、号泣しながら抱きついてみたのだった。

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