第17話
港には携帯で写真を撮ろうと野次馬が集まっていた。遠目に見た感じではあるが誰かが被害にあった様子はまだなさそうだ。
「おい!警官!野次馬を避難させろ!危険だ!」
護衛の人が叫んだ。
「はい!分かりました。」
警察官が走って行き野次馬に避難を呼び掛ける。どうやら魚人はまだ海の中にいて陸には上がってないようだ。
海に近づき魚人の姿を確認する。水中から顔を出して陸の様子を伺っているようだった。
「ついに見つけた。」
「生きた状態を見るのは始めてだ。出来れば生け捕りにしたいのですが……。」
と田中。
「生け捕りは無理だ。」
護衛がそう答えた。
「そうですよね。」
「せめて陸に上がってくれれば」
そこまで言った所で、急に護衛が田中を突き飛ばした。田中の立っていた所には
「槍……。」
「どうやら人が減ったからかやる気になったみたいだな。危ないから下がってろ。」
「馬場さん。気をつけて。」
どうやら護衛は馬場と言う名のようだ。田中と朱音は少し離れた場所に身を隠すと、
「逃げた?」
魚人が水中に潜ったのか姿が見えない。
バシャーン
突然激しい音と共に水面が盛り上り水中から魚人が飛び出した。遥か高くまでジャンプし、水飛沫を撒き散らしながら上空から下の馬場へと落下する。その両手には槍がしっかりと握られており馬場に狙いを定めていた。
「と、危ねえな。」
咄嗟に横に飛び退き回避する。魚人は着地と同時にそのまま槍を馬場に向けて突き出してきた。それを身を捻り回避し、そのまま槍の柄を掴んだ。魚人と馬場の力比べだ。
「¨§」
魚人が何かを叫ぶと槍を横に、馬場とは反対方向に力任せに払う。その力に馬場は抗いきれず手を離した。
「流石だな!やはりこのままでは無理だな!」
魚人が払った槍をすかさず振り上げた。
『筋力を強化』
馬場の全身に力が漲る。槍の穂先が馬場を目掛けて振り下ろされる。
「遅せえよ!」
馬場は槍が届く前に魚人との間合いを詰めた。
「オラァ!」
魚人の腹に馬場の拳がめり込み魚人が体勢を崩す。馬場はそのまま追撃せずに両手をまるで剣でも持っているかのように頭の上で構えた。
『顕現せよバスターソード』
馬場がそう言いながら両手を勢いよく振り下ろす。
「うおぉぉ!」
ガアァン
地面に激しく何かが当たった音がした。馬場のその手にはいつの間にか巨大な剣が握られ魚人を通り越して地面にめり込んでいる。そう、魚人は頭からまっぷたつにされていたのだ。
「ああ、貴重なサンプルが。」
隣にいた田中が呟いた。
「今のは……。」
朱音が呟いた。それに対して田中が
「機密事項に該当するので見なかった事にして下さい。」
至極真面目な顔で田中は言った。それは剣を出現させた事に対しての発言だろう。しかし、私が驚いたのは馬場と呼ばれた護衛が使ったのがまぎれもなく
「せっかくのサンプルを入手するチャンスでしたのに。」
そう言いながら田中は魚人の所へと向かい歩く。
「魚人を相手にしてそんな余裕は無いな。」
「そうですよね。」
馬場の持っていた剣が消えた。
「今のって……。」
朱音が馬場に近寄り言った。
「ああ?見てたのか。まあいい。どうせ誰かに言っても誰も信じやしない。」
「それにしてもこれだけ人目につくような状況での出現。ここだけなのか、それとも全国に拡がっているのか、ちょっと他の地域での目撃情報とかがないか問い合わせてきます。」
田中は電話を片手にその場を離れた。
「さて、嬢ちゃん、何処か風呂に入れる所はないか?返り血を浴びちまって気持ち悪い。」
「あー、たぶん漁協にシャワー位ならあると思う。」
「ならそれを使わせてもらうとするか。」
漁協に戻ろうと歩きだした。すると
バシャーン
大きな音に振り返ると盛大な水飛沫が上がっていた。その水飛沫の中には魚人が!何かを投げたようだ。それは朱音に向かって飛んできている。朱音は咄嗟に避けようと思うが間に合わない。
「チッ」
突き飛ばされ横に倒れた。投げられた槍は朱音の横を通り過ぎ朱音を突き飛ばした馬場に
「ぐっ⁉️」
馬場の方を見た朱音の目の前に腹部を槍が貫通している。
「あ」
自分を庇って人が傷ついた。その人は私を見ていない。私の後ろを見ている。
ビシャッ
背後から音がした。魚人が近づいて来た音だろう。音からするとまだ離れているのが分かる。どうする?このまま
「ぬおおお!」
馬場が槍を引き抜くとそこから血飛沫が飛び散った。
「うおぉらぁ!」
そして馬場がその槍を魚人に向けて投げた。が、しかし槍は魚人の横を通過し外れてしまう。
「逃げろ!」
馬場が朱音の前に立ち叫ぶ。
「でも!」
「いいから早く逃げろ!」
バシャーン
海からまた新たに魚人が陸に上がって来た。
「いったいどれだけいるのよ!」
《筋力強化》
《顕現せよバスターソード》
馬場の手に巨大な剣が現れる。
「ここは俺の戦場だ!お前は邪魔なんだ。早く逃げろ!」
馬場の腹部からは止めどなく血が流れ出している。この人は私を逃がす為に犠牲になる気ではないか?ここで逃げたらこの人は死ぬのではないか?もう後悔するのは嫌だ。迷っている場合じゃない!
「どいて!」
馬場を押し退け前に出る。
「やめろ!逃げるんだ!」
馬場が抗議の声をあげるが気にしない。
『砂塵よ集いて無数の槍となれ』
砂が集まり幾つもの槍を形造る。
「な⁉️その言葉はまさか⁉️」
『槍よ飛び行き敵を貫け』
槍が消えたかと思うと魚人がまるで壊れた人形のように手が、足が、頭が、後ろへと弾け、まるで操り人形のように不可思議な動きをする。その魚人の体を無数の槍が貫いていた。
「お前、今のは
馬場が驚きの表情でこちらを見ていた。そんな馬場の声を無視して
『溢れる出る血よ止まりて傷を癒せ。彼の者に生きる力を』
馬場の傷が塞がり力が漲る。
「え?痛みが?」
馬場は服を捲り己の体を確認する。
「傷が治った⁉️どうなっているんだ?それにお前は
「自在に?」
どういう意味だろう?この馬場って人も
「あなたも使っていたじゃない。自在にってどういう事ですか?」
「あー、……いや、まあいい。これは後でじっくり話そう。ここで話をする内容では無い。お互いにじっくりと話しあう必要がある。」
「僕らも聞きたい事がありますし、あなたも聞きたい事がある。そうでしょう?」
いつの間にか戻っていた田中が言った。
「……そうですね。」
もちろん
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