Blue rose〜青い薔薇〜

柊准(ひいらぎ じゅん)

希望の光はいつか錆びる

第1話 アイドルのコンサートに来てよ

 僕、大島錆斗は机に肘をつき、ぼんやりと虚空を眺めていた。

 暇だなあ。

 すると、友人の安室修二が僕を見かねて声を掛けてきた。

 その言葉は、僕に衝撃と感嘆をもたらした。


「ねえ、この学校にアイドルがいるらしいよ」


 安室は人差し指をある少女に向けた。


「ほら、あの銀髪の少女……」


 その少女、クラス替えの時から目立ってはいたが、まさかアイドルだとは思わなかった。

 染髪もしているし、時代遅れのヤンキーかと思ったんだがな。

 だから特段、関わろうとは思わず遠巻きに眺める、もとい目につくことが多かった。


「呼んできてやるよ」


 安室が意気揚々とその少女に話しかけに行き、何かを喋っている。するとどうしてか少女が驚いている。そして二人はこちらを向いてきて、遠目で僕のことを笑っている。

 ・・・・・・嫌な予感がする。

 そして軽薄な安室に肩を叩かれた少女は、にたにた笑いを浮かべながらやって来る。

 その少女は目鼻立ちは整い、そして身体から桃の匂いが漂ってきて鼻腔をくすぐる。きっと香水だろう。


「君〜、アイドルオタクなんだって」


「は?」


「そう、安室くんから聞いたよ。あいつはメジャーなアイドルしか興味ない、ミーハーなんだよ、って」


「アムロのやつ、あの軟弱者は嘘つきか」


 するとそいつは二重の眼を細めた。

 じゃあ、ミーハーな君に新しい推し、作ってあげる。とその銀髪女子高生が自席に戻り、スクールバッグの中から何かを取り出し、それを持ってくる。


「これ、次のコンサートのチケット。興味があったら来てみてよ」


 手渡されたチケットをよく見る。それには『SWORD』というグループ名が書かれていた。 どうして刀なのだろう。それを訊ねてみると彼女は、


「だってその方が格好いいじゃない。このアイドルグループ、ロックテイストも入っているし」

 僕は刀のどこがロックなのかは理解できなかったが、とりあえずこのチケットはもらっておく。


「絶対に来てね。約束だよ」


「まあ行ってみようかな」


 正直、興味が湧いてきた。SWORDというアイドルグループだけに、舞台上で刀を振り回すのかもしれない。

 笑い話だがそれだとロッカーだと思った。

 そんな僕の馬鹿にしたような思考を、もちろん察せられるわけもなく少女は自己紹介をする。


「私の名前は綾瀬光。よろしくね」


 僕は、彼女の眩しい表情に目を細めてしまった。


「ああ、よろしく」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る