第11話 風呂と飯②

「はい兄さん、あーん」

「あーん」


「目の前でそれやられるとキツいんだけど?」


 銭湯内部の食堂にて、チームはテーブル席で食事を取っていた。

 カガミが冷蔵庫の中身をちょいと拝借し作ったオムレツと野菜炒めを各々つついている。

 その様子をカガミはにこやかに眺めながら、兄(銭湯の浴衣着用)にオムレツのかけらをスプーンで給餌した。

 それを見てバベルは露骨に嫌な顔。

 しかしカガミは気にしない。


「ナイフル、お前は気にならないわけ?」

「なれた」

「慣れちゃったか。じゃあ百目は?」

「そうね、アタシもフジミちゃんにあーんってしたいわ」

「ろくなのいねぇな」


 周りから同意が得られないとなると、バベルは諦めて食べ始めた。


「カガミー、ナイフルわんちゃんとあそんでいいー?」

「いいよー」

「わーい。おて!」

「ワン」

「チンチン!」

「ワン」

「しんだふり!」

「ク~ン……」パタリ。


 食べ終えたナイフルとウロタエルが遊んでいるその傍らで、代車に乗った大きな水槽がぴちゃんという音を奏でた。


「お水を貰えないかしら。カガミさん」

「はいただいま、姫様」


 キザな台詞を吐きながらカガミは椅子から立ち上がり、蛇口に向かった。


「ケッ、なーにがお姫様だよ」

 バベルはどこから調達したのかビール缶を開けながら言った。それからグイっと飲み干す。

「いや実際、彼女はアマビエ族のお姫様だ」

 ユガミが言った。


「我々NEOには、一族の友好のために差し出されたフリークスが在籍している。彼女はその一人だ」

「厄介払いじゃなくてか? 俺みたいによ」

 バベルは自虐すると、笑いながらまた一口ビールを飲んだ。


「……バベル。貴様の今回の働きを私はよく見ていた。上々といった塩梅だな。事前に申請していた、『結婚式への参加』を許可しよう」

「おお、そりゃ嬉しいな。だがよ、そういうお慈悲よりも気になることがあんだよなぁ」


 ビール缶が置かれる。


「ユガミさんよ。今回お前全然仕事してないのな。何してたの?」

「……それが気になってたのか?」

「ったりめーだろ。見てたんだろおい。俺の頭にくるみが何度も投げつけられてよ。今もたんこぶできてるぜ」

「悪いが、私の今回の任務は後方支援だ。私には他者の能力を向上させるがあるからな。百目の能力をサポートしていた」

「……マギヤ? 魔法じゃなく?」

「魔法という呼び方もあるが、NEO は【マギヤ】と定めている」


 魔に歯車でマ・ギヤだ、とユガミは説明した。

 慣れない響きだ、とバベルは口の中で何度もマギヤと唱える。

 ふと、ちょっとした疑問が浮かんだ。


「つーかそのマギヤを使えるってことは、お前もフリークスだったのか? 普通、人間は魔法を使えないはずだ」

「そこは秘密だ」

「ちぇっ、ケチ」

「それから、反抗的な態度を取ったフリークスを処分するマギヤも持っている」

「え」


 ユガミはバベルのビール缶に手を伸ばし奪った。そして一口飲んで、

「私にも思うところがある」

 ポツリとつぶやく。


「ああ?」

「お前は今回、魔法マギヤ使。お前はフリークスで、取り替え子チェンジリングで、人間ではないのに。何故だ?」

「……」


 途端に真顔になるバベルにユガミは違和感を覚えた。しかし、深く追求することを止めた。


「まあ、説教は弟の役割だ。私からはこれ以上言わない」






「フジミちゃん、アタシがあーんしてあげましょうか?」

「平気だ百目。自分で食べられる」

「あらそうなの。……え、じゃあどうして弟ちゃんは貴方の介護してるの?」

「カガミの趣味だ」

「趣味」

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