第35話 占い師に言われて仕方なく…… 前編

 とある平日の朝。

 いつものように朝のホームルームが終了して担任教師が教室から出ていくと、クラスが少し騒がしくなる。

 そんなにぎやかな教室でオレ・吉永隆輔よしながりゅうすけは、机に頬杖をつきながら同じクラスの女子生徒をぼうっと眺めていた。


 その女子生徒の名前は村内琴音むらうちことね

 オレが妹以外で初めて魅力を感じた女子だ。


 彼女は現在、美しいロングヘアをなびかせながら忙しそうに教科書や筆記用具の準備をしている。

 今日は一時間目から移動教室なので、あまりのんびりしている時間はないのだ。


 もちろん忙しそうにしているのは他のクラスメイトも同じ。

 授業に必要なものを用意した生徒から移動を開始しており、今現在この教室に残っている生徒はごくわずかだ。

 オレも急いで準備をしなければならないのだが、村内をこっそり眺めるのに夢中でなかなか移動する気になれなかった。


 そんなオレのそばに一人の女子生徒が近づいてくる。


「……何ぼうっとしてるのよ。早く移動しないと授業始まっちゃうわよ?」


「結乃……」


 オレに話しかけてきた女子生徒の正体はクラスメイトで幼馴染みの木原結乃きはらゆのだった。


 今日も相変わらず大胆に制服を着崩しており、非常にギャルっぽい。

 距離が近いわ、胸が強調されているわ、やたらスカートが短いわで、普通の男子なら間違いなくドギマギしてしまうだろう。


 だがオレは幼い頃から結乃のことを知っていて、大胆な服装や近すぎる距離感にもなれているため、特に動揺したりなどしない。


 普段と同じように結乃と目を合わせるのだった。


「村内さんのこと見てたみたいだけど、今は移動を優先させなさいよね。同じクラスなんだから、遠くから眺めるだけならいつでもできるでしょ……」


 少し呆れたような表情で結乃がつぶやく。


「いや……別に村内を見てたわけじゃ……」


 一応否定しておくが、彼女はニヤニヤとこちらを見つめるのみだ。

 どうやらオレが村内を見ていたことはバレバレだったらしい。

 結乃は、オレが村内琴音に特別な感情を抱いていることを知っているので、オレの視線が誰に向けられていたかすぐに気づいたのだろう。


「そんなに気になるならもっと積極的に話しかけてみればいいのに……」


「いや、そう言われてもな……」


 村内とは何度か話したことがあるだけなので、何か用事や頼み事でもない限りこちらからは声をかけづらい。

 共通の話題があるわけではないし、そもそもオレは彼女が母子家庭であること以外は何も知らないのだ。

 クラスメイトで毎日のように顔を合わせる仲とはいえ、仲良くなるハードルはなかなか高かった。


「……まぁ、今まで妹しか眼中になかったあんたには女の子と仲良くなるなんて難しいかもね」


「うるせぇよ!」


 小バカにされて思わずむっとなってしまう。

 

 だが、確かに結乃の言う通りなので反論することもできない。

 幼馴染みの結乃を除けば、同年代の女子とまともに会話したことがほとんどないのはまごうことなき事実だった。


「でも、村内さんって本当に可愛いわよね。前から仲良くなりたいと思ってたし、隆輔がアタックしないなら、アタシが話しかけちゃおっと!」


「……え?」


 そう言ったかと思った次の瞬間、結乃が村内の方に近寄ってゆく。

 そして本当に話しかけると、そのまま二人で仲良く教室から出ていってしまうのだった。


「行っちまった……」


 二人の背中をただじっと見つめる。

 気づけば他の生徒はみんな移動してしまっており、教室にはオレ一人が残されていた。


「……オレも移動するか」


 しんと静まり返った教室でポツリとつぶやく。


 それから急いで筆記用具や教科書を準備すると、イスから立ち上がり、廊下を出て歩き始めた。


 目的地は三階にある教室だ。

 ここは一階で少し離れているので急いだ方がよいだろう。


 もうすぐ一時間目の授業が始まるからか、廊下にはほとんど生徒がいない。


 そんな生徒の少ない廊下をまっすぐに進み、まずは階段を目指す。


 そうして目的の階段にたどり着き、上ろうとしたところで前方に結乃と村内がいることに気がついた。

 彼女たちもつい先ほど移動を開始したばかりだから、まだ教室に到着していないのだろう。


(結乃と村内……もう仲良くなったのか?)


 楽しそうにおしゃべりをしながら階段を上る二人の姿を見て、ふとそんなことを思う。

 あの二人はクラスが同じというだけでそれほど接点があったわけではないので、談笑している姿はなんだか新鮮だ。

 特に笑顔を浮かべて結乃と話す村内は非常に可愛く魅力的だった。


(やっぱり可愛いな、村内は……ん?)


 階段の下で二人の姿を見上げていたオレはあることに気がついた。


 そう――村内のスカートの中が見えそうになっていたのだ。

 ……まぁ、階段の下から女子生徒を見上げている状況なので、スカートの中が見えそうになるのは自明の理なのだが。


(み、見えそう……)


 思春期真っ只中のオレは当然スカートに視線が釘付けになってしまう。

 何しろ気になる女の子がパンチラしそうになっているのだ。

 年頃の男子ならこの状況で落ち着いていられるわけがない。


(まわりに人は…………いないな)


 周囲を見回し、近くに人がいないことを確認する。


 今なら誰にもバレずに済むかもしれない。


 そう考えたオレはその場でしゃがみ込んで彼女のスカートの中を覗こうと試みたのだった――可愛いパンツが見られることを期待して。

 

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