第19話

まず、午前中は子供達に勉強を教える事。読み書きと計算。そして歴史の授業は必須科目として勉強をするようにお願いをした。

一見、歴史は将来の役に立たず関係ないように感じるが、私は、この国の事を知る事により、フォレスタ王国民である事への誇りを持ってもらいたい。


やっぱり、母国が誇れないと頑張れるものも頑張れないじゃない?

自分の国がいかに素晴らしいか、知る事はとても大事な事だと思うの。

それは前世、世界で活躍するようになって感じた事でもあった。母国が誇れないと他国の人間と堂々と渡り合う事はできない、と。民族なんて関係ない、人間皆共通。だとかなんとか色んな理想を掲げてもやはり、自国が自分の母体であり、軸なんだと実感した事でもあった。


次に、午後は将来の事を見据え、職業訓練をする事。主に、料理、裁縫、剣術を学ぶように提案した。特に十歳以上の子は必ずさせるようにする。畑仕事なんかもいいと思う。午前中の朝の涼しい時を見計らって、小さな子供達も交え皆で自分達が食べるものを作る。とても理想的な生活だと思う。


「恐れながら王女様。」

院長は私の提案に難色を示し、一つ一つ言葉を選ぶようにして話し始めた。

「私は、王女様の意見に賛同しかねます。子供達は、ここに来るまでに辛い経験をしてきました。親から虐待を受けた子、両親がおらず路上で物乞いをして生きてきた子や犯罪に巻き込まれた子、貧困で死にかけた子もいます。

でも、皆ここでは過去の事は忘れ、何不自由なく生きているのです。あの子達の笑顔を見たでしょう?あの、屈託のない笑顔を。

今更、あの子達に色々な事をさせ、負担を増やし苦しめる事で、また、あの子達から笑顔を奪いたくないのです。ですから、どうか、ご理解下さい。」


一見聞こえがいいが、それは単に子供達を甘やかしているにすぎない。今のままでは、ここでの生活が子供達にとって時間の無駄になってしまう。


「院長の言っている事は理解しました。子供達の事を大事に考えているという点で、私と貴方は同じだという事も。ですが、その尺度が違うようですね。

子供達にここで笑顔で過ごしてもらいたいという思いは私も同じです。ですが、今のまで本当に子供達の為になっているのでしょうか?

ここで何も学ぶ事無く、毎日を楽しく何不自由なく暮らす事は、将来ここを出て行った時に、彼らの生活力を奪うだけでなく、彼らの将来の可能性を奪う事に繋がると思うのです。

読み書きができない、計算が出来ない・・・そんな子が働ける仕事は必然と限られます。低賃金で重労働を強いられたり、無知なのを良い事に奴隷のような契約をさせられ、タダ働き同然で働かさせられ続けるかもしれません。

彼らの意思で選んだのなら、私は良いのです。ですが、選択の余地がなく生きる為、生活の為に仕方なく選んだものだとしたら?

それは、その子達の責任ではなく、そのようにしてしまった、私達大人の責任ではないでしょうか?

彼らが自分の意思で立ち、自分のやりたい事を、夢を、持ってやれる。そんな環境を作ってあげるべきではないでしょうか?

今のままでは彼らは外に出て自分の力で生きていく事は難しいでしょう。本当に彼らの事を考えるのなら、ここでしっかりとした教育を施し、彼らが大人になった時に自ら選んだ道で立派に働き、自分の足でしっかり立っている事ではないですか?

可愛い子には旅をさせよと言います。ここでの教育がたとえ厳しくても、ここで培ったものが彼らの土台となり、きっと役に立ち、支えとなってくれるでしょう。私達が目指すのは、そこではないでしょうか?」


「・・・。」

未だ渋い顔をする院長にテオちゃんが念を押す。


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