因習村系ホラーゲームの序盤で死ぬ女子大生に転生したので仲間と協力して脱出したいのに、登場人物サイコ野郎しかいないんだが

木口草花

第1話 よくあるプロローグ

激しい揺れのせいで、意識が急速に浮上する。

纏まらない思考のまま、目だけ微かに開いてみる。ぼやけた視界の先に、車窓…恐らく山道を走る車の中から見えるであろう景色が映った。

「すまん、起こして悪かった。この辺りの道は整備されてないみたいでな…」

すぐ横から男性の低い声が聞こえてきて、私は緩慢な動きで其方に顔を向けた。

そこには、声質のイメージ通りの渋い…所謂イケおじとでも揶揄されそうな、知性的で雰囲気のある男性が座っていた。軽く捲ったワイシャツから伸びた精悍な腕がハンドルを握っている。

私は今、車の助手席に座っている。頭は冷静に状況を分析するが、心の理解は追いつかない。

「まぁ…起こす手間が省けてよかったか。…おい、もうすぐ着くぞ。」

イケおじの呼び掛けに応じる無数の声が背後から聞こえてきて、思わず後部座席を見遣る。そこには、4人の青年が思い思いの姿勢で座っていた。

前列向かって右に座った青年は、凛々しい顔立ちの正統派イケメンだ。スポーツマンっぽい均整のとれた体躯で、背筋もピンとしている。見るからにカリスマ性が溢れているというか、リーダーシップを執るのが得意そうなタイプって感じだった。

その横の青年は至って対照的で…スラリとした高身長が勿体無いほどの猫背。顔立ちは端正だが目の下のクマが酷い。ヒエラルキー低めというか、近所の犬にさえ舐められてそうな雰囲気。隣の正統派と並ぶと、ブラック企業の熱血上司と気弱な社畜みたいな組み合わせだった。

その後ろでは、切れ長目の青年が長いまつ毛を伏せて眠っている。この凸凹道の振動で起きないなんて、綺麗な顔してなかなかの猛者だ。

そして最後、4人目の青年は、the大学生、って感じのセンターパートの髪を揺らしながら、忙しなく視線を動かしていた。子犬のような挙動が微笑ましく目に映る。

私はイケおじと青年たちの間で視線を彷徨わせながら、恐る恐る口を開いた。

「あ、あの…も、もうすぐ着くって…一体何処へ…?」

「はぁ…?大丈夫か、退場たいじょうくん。」

「先生、早梅はやめはまだ寝ぼけてるんですよ。」

イケおじと正統派が呆れ顔で私を見つめる。

退場早梅たいじょうはやめ”…きっとそれが私の名前なのだろう。

猫背くんが力無く笑いながら一枚の資料を手渡してくれた。

「そもそも、退場さんがフィールドワークに推薦してくれた候補地だったよね、『鬼鳴村』…」

「おに…おになきむら…?」

私は小さい声で反芻しながら、受け取った紙に視線を落とす。レポートのようなそのプリントの1番上には『鬼鳴村の無形文化について』という題が記載されている。

何だこの不穏な名前の村は…。

「あ!看板が見えてきた!」

子犬くんがそう小さく叫ぶ。

木々に囲まれた世界が急に開けて、田畑や瓦葺きの建物が点在する集落が現れた。

「着いたら村長に挨拶しなきゃなぁ…」

気怠げにイケおじが呟く。

『鬼鳴村』。

私は、得体の知れない悪寒に身を震わせることしかできなかった。






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因習村系ホラーゲームの序盤で死ぬ女子大生に転生したので仲間と協力して脱出したいのに、登場人物サイコ野郎しかいないんだが 木口草花 @soda00soda

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