第7話 近付く黒い斑点と白いヒラヒラ
これは僕が毎日のように金縛りに合うようになった時に起こった出来事です。
その日もまた金縛りになってしまいました。何の前触れもなく始まった金縛りに合ってしまう日々。
今日も夜中に目を覚ますとバチっと体が固まってしまってて動きません。体は動かないのに何故か目だけが動かせる状態です。巷でよく聞く金縛りの典型的なパターンです。
時計を見ると午前2時でした。
その時の僕は金縛りに合ったとしても特に怖い体験に合うとか、幽霊が見えるとかもなかったので、『あー、またなってしまったなー、何なんだろこれ、早く解けないかなー』と思う程度で、それほど気にもしていませんでした。
ただ一つだけ気になることがありました。僕と天井の間くらいの空間に、何か白いものがユラユラと揺れ動いているんです。
煙とかそういうものではなく、その白いものは細長く薄い白い紙のような布のようなもので、質感がかなり柔らかいものなのか波打ちながら、風になびいている旗のような感じで揺れ動いていて、部屋の壁と壁の間を右に行ったり、左に行ったりを繰り返していました。
そしてそのユラユラは何重にもなっていて無数にあるのです。例えるなら空中をモップとか埃祓いが行ったり来たりしているような感じです。
一番最初に見た時は『何だこれ、気持ち悪っ!』と思ったが、自分の方に落ちてきて覆い被さってくる訳でもなく、ただただ空中をモップ掛けしているだけなので、特に恐怖感を感じることもなく何の感情も抱くことなく、ボーッと見ていられるものだなーっという感じで見てました。
そしてしばらくすると眠ってしまい気が付くと朝になっていて、昨夜そんなことがあったことなどすっかり忘れてしまっていて、また2時ごろ目を覚ますと『今日もかぁー』という感じを繰り返していました。
そんな感じで毎日のように金縛りになってしまうのが繰り返していましたが、怖い感じもないし、疲れが取れない訳でもないし、ただ不思議な感じが残る程度で気にもしていませんでした。
そんな日が続いていたある日、ここ最近毎日のようにお薬をお届けにお伺いするようになっていた方がいました。その方、長谷川さん(仮)はかなり体調が不安定で毎日毎日追加薬が出てしまっていたのです。
「こんにちはー」
その日もお薬を届けに行くと玄関に奇妙な物がありました。真っ黒な黒い斑点のようなシミのような跡があったのです。
大きさは野球ボールほどのものでした。その方の玄関は綺麗な淡色の木目調なので黒い色はかなり目立ちます。
触れてみると表面はサラッとしているので、何かを焦がした跡という訳でもなさそうです。
墨汁のような真っ黒なものを溢したとしてもこんな色つくものなのかなー?何だろこれ?と不思議に思いました。
という感じで最初の1日目は別にそれ程気になるような存在ではなかったのですが、2日目はかなりビックリしました。
最初は玄関入ってすぐの位置にあった黒い斑点が、玄関から奥に2、3歩移動した位置にあったのです。
しかも最初はボールのように真円だったのに、今度は楕円状に少し上下に伸び上がっているのです。
次の日お伺いした時はさらにビックリしました。黒い斑点が長谷川さんの部屋の前まで来ているのです。そして黒い斑点はまた大きくなっているようなのです。
次の日行くと黒い斑点はもう部屋の中まで入って来ていました。そしてまた形が変化しているのです。
その時になって黒い斑点がもしかしたら足跡なんじゃないかと思いました。なぜなら大きくなった楕円形の片側に、くびれのようなものが見られるようになったからです。まるで足跡の土踏まずのように見えました。
このままこの黒い斑点が進んで行ったら、明日には長谷川さんのベットサイドまで進んでしまうのは明らかでした。これは不味いかもと思った僕はすぐに薬局に帰り先輩に相談してみることにしました。
「あー、そうなんだ、、でもそれは俺らではどうすることも出来ないことだから、、」
黒い斑点が徐々に近づいて行って、徐々に足跡の形になっていくというのは先輩も経験したことがあるようで、もう死期が近い方に多い現象なんだとか。
「俺らがどう頑張ってもどうすることも出来ないことだから、辛いだろうけど自分で感情をコントロールするしかない」
と、諭されてしまった。
次の日お伺いすると黒い斑点の先には、明らかに指の跡と分かるような点々が浮かんでいて完全な足跡となっていました。
場所はもうベットのすぐ横でした。あー、きっと長谷川さんをお迎えに来た人の足跡だったんだろーなーと思った瞬間、体がバチっとなり金縛りの状態になってしまいました。
えっ!?何だこれ??ここで??と思っているといつも金縛りにあっている時に見ていた、白くて薄いものがヒラヒラと浮かんで見えてきました。
いつものあれが起こったのか?と思っていたら、目の前に見える光景いっぱいに白いのが増えていきました。そして左右に動き出します。
体は動かないので眼球だけを動かし、その行方を追うといつもと同じように部屋の端まで行って戻ってを繰り返しているようでした。
何だこれ、何だこれと思いましたが不思議と恐怖感は感じません。恐怖というより幻想的というか神秘的な印象を受けました。
そのまま佇んでいると徐々に数が減っていき、白いのが見えなくなったところで金縛りが解けました。
一体今の現象は何だったのでしょうか?
そして薬局に帰った僕にさらにビックリな事が起きていました。
「オメー、おせーよ。江藤さんの家に行く時間だぞ!戻ってこねーから俺が行くしかねーかと思ってたよ」
いつもはそんなに時間掛からずに戻ってこれるのだが、今日は1時間以上掛かってしまっていたようだ。
その原因といえばあの白いヒラヒラを見ていた時間が自分の感覚以上に長かったとしか思えません。
自分では数分の出来事だったように感じたのだが、1時間近くあの現象を見せられていたようだ。
あれは一体何だったのでしょうか?落ち着いてから先輩にそのことを聞いてみたが、、。
「いやー、黒い斑点は経験あるけど、白いヒラヒラは知らねーなー。しかも時間の感覚までおかしくなるなんて、、」
先輩の話では近付く黒い斑点は死神みたいなものがいて、その死神が長谷川さんの様子を伺いながら徐々に実態を露わにしながら近づいて行っていたのだろうと想像できるが、白いヒラヒラは何なのか見当もつかないとのことだった。
死神のお迎えという概念があるのなら近付く黒い斑点があるということもあるんだろうなーっと思えるが、あの白いヒラヒラは何だったのだろうか?
僕の知識では仮説すら立てることのできない謎の現象だった。
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