第11話旅の始まり
ガロォン、グボボボボボボォ……
すっかりヤンチャな車に変わっちまったハイエースのキーを回せば、元気にエンジンが目を覚ます、朝の静かな時間にはちょっと近所迷惑気味な大きな排気音に、神社のすぐ下に住んでる大井のおばちゃんに心の中で詫びる。
「では、
「おう、お土産は配送してくれれば良いからな」
「はい!任せといてください!」
俺はそう言ってブラックカードを八坂刀売神に見せる、軍資金はもらっているのだそれくらいの手間は惜しまない。
「じゃあ、出発しますよ」
助手席にチョコンと座るオリジンちゃんにそう言えば、ニコリと笑顔を浮かべる。
「出発ですわ!」
別に急ぐ旅ではない、俺たちはとりあえず隣県の新潟を目指して車を走らせる事にした。
今時、AMラジオしか無かったしょぼい車だったが、今は最新のカーナビにETC、ドライブレコーダーまで完備している、良庵上人の檀家さん随分と無理したんじゃなかろうか?
カーナビにブルートゥースでスマホに接続、とりあえず音楽をかける。
「おっ、中々良い音楽じゃないか♬」
迫力あるギターリフにイシュタムが反応する、南米の神様は俺が選曲したロックをお気に召してくれたらしい。
「テレキャスターの軽快な音色がいいですわ」
「テレキャスって、オリジンちゃんってギター好きなの?」
「音楽は何でも好きですわ」
タム、タム、タタム、タタタン♬
イシュタムがいつの間にか膝の間に太鼓を抱えてリズム良く叩き始めた。
それにつられたのか今度はヘルまでも角笛をどこからか取り出す、ギャラルホルン?
「ブラギにもらった」
ブラギ?北欧神話の髭のおっさん、詩の神だっけ。
「何だなんだ、私もやるのか!」
犬もなんか琵琶とかマンドリンみたいな楽器を出してノリノリで掻き鳴らし始める。
冥界トリオが奏でるブルースが車内を駆け巡る。
「あらあら、しょうがないですわね」
しまいにはオリジンちゃんまで黒のギブソン・レスポールカスタムを持ち出して歌い始めた。
「ラ〜ラ〜ララ〜♬」
おぉ、皆んな上手いな、その演奏会はまさに神の領域、何とも贅沢で楽しい旅になりそうな予感がした。
ちなみにオリジンちゃんの歌うジャニスのムーブオーバーには感動して泣きそうになった。
えっ、一緒に歌った事があるの、本人と?マジで。
上信越自動車道で1時間30分、俺たちは新潟県の上越に到着した。
俺、海見たの何年ぶりだ、潮風の匂いで海に来た事を実感する。
信州人は上越は長野の海だとほざいているが、ここはれっきとした新潟県だ。
「おい、水族館があるぞ!イルカはいるか?」
犬が目ざとく看板を見つけて指差す。
水族館か、小さい頃に1回行ったきりで新しくなってから(上越市立水族館は2018年に「うみがたり」としてリニューアルしている)は行ってなかったな、行くか。
「うわぁ、綺麗になったんだな」
昔のイメージしかなかったからちょっとビックリした、すっかり四角くなっちゃって。もう昔乗ったモノレールみたいな空中自転車は無くなったのかな。
バシャーン!バシャーン!
「おぉ!」
2匹のバンドウイルカが宙に舞う、それを見た犬も大興奮だ、尻尾が凄い勢いでブンブンしてる。
3階から日本海を一望出来るのは気持ちが良い、視界に山が無い風景は長野じゃまず見れないからな。
イルカショーを見た後は大水槽で泳ぐ真鯛を眺めて昼食メニューを考える。
「ピカピカ光るクラゲ綺麗ですわ!」
「マゼランペンギン多すぎですわ!」
「錦鯉多すぎですわ!」
「三和牛乳ソフトクリーム美味しいですわ!」
オリジンちゃんも大満足だ。この笑顔を見れただけで来た甲斐があった。
「確かに普段海には来ないから魚の群れは新鮮ではあるな、魚が食べたくなったぞ」
「クマノミ可愛い…」
イシュタムもヘルも楽しんでいるようだ。
さて、昼飯はどうするか。
やって来ました、道の駅「マリンドーム能生」
上越から糸魚川方面に車を走らせると海岸沿いに見えてくる道の駅だ、ここに来た以上求めるのはズワイガニ!カニですよ奥さん。
昼の時間を過ぎているにも関わらず、大勢のお客さんが来て賑わっている、駅中の食堂も捨てがたいがここは「かにや横丁」でしょ。
駐車場に隣接するようにズラリと並んだ海鮮直売所、ここで買った蟹を隣接した「カニかに館」で食べれるのだ。
かにや横丁を歩いていると並ん出る店のおばちゃん達から客引きの声をかけられる。皆んなパワフルな感じで楽しくなる。
「そこの綺麗なお嬢ちゃん!良い蟹揃ってるよ、綺麗なお嬢ちゃんにはオマケもつけちゃうよ!」
「いやいや、こっちはその倍オマケつけるよ!」
「今日は鯛も良いのが入ってるよ!30分以内なら70%OFF!」
どこぞのショップチャンネルか!
流石にオリジンちゃんの容姿は目立つのか、おばちゃん達がひっきりなしに子をかけてくる、隣に俺もいるんだけどな。
改めて海鮮が並ぶショーケースの前に立つ、真剣な顔つきで蟹と目を合わせる。
「オリジンちゃん、ちょっと待って。美味い蟹をみわけるんだ、まず大きさと発色、鮮やかな赤は茹でてから時間が経ってない証だ、それに甲羅の硬さ、脱皮してすぐの蟹は甲羅が柔くて身が詰まってないことが多い、こっちの蟹にはブツブツのカニビルがついてるだろ、これは甲羅が硬い証拠だ、それに茹で蟹の腹は白いのが良い」
店のおばちゃんに歓声と共にパチパチと拍手される。思わずドヤ顔になる。
ズワイガニの旬は冬だ、今の時期だとキチンと見分けないとハズレの場合がある、美味い蟹を食べるためなら慎重にもなろうってもんである。
山盛りの蟹を持ち込んでカニかに館で食べる、見えないけどイシュタムさん達も食べる、皆無言になるのはご愛嬌。
ホジホジ
「あ、
蟹を堪能した後は海岸沿いを散歩する、久しぶりの潮風が気持ちが良い、しかも俺の隣には金髪美少女のオリジンちゃんが靴を手に生足で波と
あ、こら犬!そこで首を振るな水飛沫がかかる。
「きゃ、冷たくて気持ちいいですわ」
「か、可憐だ……」
日本海に沈む夕日で世界がオレンジ色に染まる。山に囲まれた長野では見られない光景に感動していると、水平線の彼方でピカリと何かが光った、船か?
「ん?ガク」
アヌビスちゃんの声に振り返った瞬間。
「そこ、危ないぞ」
ボンッ!ゴウッ!!
「えっ?」
眩い光が俺の隣にいたオリジンちゃんを包み込む、高温なのかオリジンちゃんの身体が蒸発するように青く燃え上がった。
「うわぁ!オリジンちゃん!」
思わず手を伸ばすが、オリジンちゃんを包む光に触れた俺の右手もジュッと音を立てて一瞬で消し飛び、肩の付け根から血が吹き出す。
「い、痛え!な、何だこれ?攻撃された?」
消し飛んだ俺の右手、それよりも今気になるのはオリジンちゃんだ、隣を向けば。
「あら、ガクさん右手がないですわよ」
ボトボトと血が滴る自分の手とオリジンちゃんを見比べる。
「…………知ってます」
何も無かったようにキョトンと首を傾げて俺を見つめるオリジンちゃんと目が合った。
あ、気が抜けたら痛みが、出血の所為か意識が遠くなる。
まぁ、右手無くなりゃねぇ。
あ、また死んだわコレ。
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