第16話 パート1の悪役令嬢
「やあ、サラ。贈った髪飾り、つけてきてくれたんだね」
ジークは言った。
「はい、こんな細工がきれいなものは初めてです」
「ありがとう。サラの髪は夜空の色だから、小さくてキラキラしたものをちりばめた飾りを付けたら、星空のようになると思ったんだよ」
う~む、後ろなので私には見えないが……。
でも、ジークってほめ方が詩人だ。
パーティ会場ではフェリシアをほめそやす声であふれていた。
「なんとお可愛らしい!」
「王国も安泰ですわね」
「あの年でもう高等教育で習う数式や術式を習得しているとか、器量だけでなく聡明さもすばらしい!」
言われるのも当然だ。
銀色の髪と紫の瞳、ピンと張りつめた印象がありながら硝子細工のような繊細さも感じる美少女。
これがわずか十一歳の少女が持ちうる美貌なのか!
それにしても、この娘が何年か後には、エミール王子が恋したヒロインを虐め断罪されるのか?
ちょっと想像できないし、これほどの娘を捨て他の女に走るなんて、はっきり言ってバカとしか思えない。
「私が夜空なら彼女の髪は月のしずくのような色」
壇上のフェリシアを見て私はつぶやき、思わずため息をついた。
「どうしたの、サラ。疲れたの?」
心配性のジークが私の顔を覗き込む。
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
私がジークに礼を言った矢先、急に会場がざわざわしだした。
フェリシアが口を手で押さえ気分が悪そうにしている。
「どうしたのかしら?」
「僕は父上たちのところに戻るよ。サラ、君も具合が悪いのなら控室にでも……」
「私はあちらに家族がいるのでそこに戻ります。殿下も早くご家族の元へ」
「そうか、じゃあ、君も無理しないように」
気遣いの言葉を告げた後ジークは私から離れ、私も父上たちの元へ戻る。
「お父様、お母様」
「おお、サラか。のどの渇きはもういいのか?」
戻ってきた私を見て父は言う。
「はい、壇上が少し騒がしいみたいですが?」
「フェリシア嬢の調子が良くないみたいだな」
「あそこにずっと立ったまま、人々に注目され続けるのってとても緊張しますからね。わかります」
やはりずっと立ち続けていられなかったみたいで、少し早いがフェリシアは奥に引っ込むこととなった。婚約者であるエミール王子もそれに続く。
二人が引っ込むと、冷淡であざけるような言葉がいくつか耳に入って来た。
「王子の妃があんな虚弱で大丈夫なのかね」
「いいのは見た目だけで、ひどい人見知りらしいぜ」
「頭脳は優秀らしいが、かえって可愛げがなくなるかもしれないしな」
手のひらくるんと反すような言葉の数々、聞いていて気分の良いものではなかった。
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