第8話 エルフの一族大暴れ

 王子を期待していた国民や家臣の中には、口ではおめでとうございますと言いながら、王妃のいないところでは落胆を隠さない人もいた。


 彼らはエルフの特殊能力をなめていた。


 王妃は「火土風水」、そして「光闇」の六属性全ての魔法の達人。


 それらを組み合わせて人々の想像を超えたあらゆることができた。


 彼女は常日頃から家臣や国民の声を聞かなきゃと考え、風と闇の力で人々の意見をこっそり聞いていたのだった。


 そこで耳にした「なあんだ、女か」の声。


 エルフの女でも生みの苦しみは人間と同じ、やっとこさの思いで可愛い第一子を産み落としたにもかかわらず、娘だっただけでこの言われよう。


 それに国王が王妃の耳に届かないようにしていたけど、離婚や側室の話が出ていたのを王妃はちゃんと知っている。


 そんな心ない人々の言動に王妃はずっと耐えてきたのだ。


「でもついにブチ切れちゃったわけね」


 まあ、サラでも気持ちは理解できる。


「おのれ、女子おなごであったというだけで我らが愛し子を侮辱し軽視するとは、言ったやつらに目にものを見せてくれるわ!」


 と、王妃が言ったと伝わっている、誰が聞いていたのかしらね?


 城を飛び出し、老若男女および貴賤の区別なしに、陰口を叩いた者どものところに押しかけ、家財道具を壊し家屋を破壊し始めた。


 それを知った他のエルフたちも共鳴する。


「我らの大事な娘と赤子にたいするひどい扱い、看過するわけにはいかぬ! 皆の者、ミューレアの手助けに行くぞ!」


 森を出て王妃と一緒に王都で破壊活動を始めるのだった。


 言った者どもを怪我をさせたり命を奪ったりせず、攻撃はあくまで物を壊すことに徹したのはエルフの優しさ。


 エルフはもともと人間に友好的な種族だから。


 しかし、それにしても王都は大惨事だった……。


 国王とその家臣、国民一同も、王妃ミューレア及び協力者のエルフに平身低頭謝罪した。


 一通り暴れた後は娘を連れて森に帰ろうとミューレアは思っていた。


 でも、もともと国王との仲は良好。


 生まれた子が娘であったのに文句を言ったのも外野の人間で、父親である国王自身はこの上なく喜んでいたのである。


 王妃は許す代わりにあることを約束させた。


 王位は赤ん坊である娘フリーダに継がせると。


 たとえこの先、二人の間にまた子供が生まれてそれが男子であっても、後継ぎは長子の彼女であると。 


 それ以前は男子が家の後を継ぐのが当たり前だったのだが、断固とした王妃の態度に人々はそれをのまざるを得なかった。


 幸いにも、娘のフリーダ女王は、父のゼーンハルト王とともに中興の祖とたたえられるほどの名君だった。


 この時以来、我が国では長子相続が主流となる。

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