第3話 王太子との交流

 婚約者として、王太子との交流は十日おきにあり、私はその度に王宮に足を運ばざるをえない。


 もう少し成長したら、王家が直々に選んだ教師から王太子妃としての個人レッスンを受けなければならない、今から気が重い……。


 初顔合わせから十日後の二回目。


 庭園のあずまやのテーブルにティーパーティのようにお菓子とお茶のセットが置かれていた。


 前世ではこういうこじゃれたイベントは経験しなかったから少し新鮮。


 ゴホン!


 いやいや、お菓子とか雰囲気に惑わされるのではなく、王太子殿下そのものを見なければ。


 かんじんの殿下はまだ出てこられてない。


 私の方が先に到着しちゃったようなので、目の前のお菓子おあずけ状態。


 だけど、ほどなくして王太子殿下は従者のトロイアと一緒に宮殿から出てきた。


「サラ!」


 庭に出るやいなや、私に対して大きく手を振るジグムント王太子。


 こういうところを見ると年相応の男の子だなって感じる。


 前回の初顔合わせはお互いの家族といっしょに型通りのあいさつを交わしただけだったからね。


「王太子殿下にヴァイスハーフェン家息女サラがあいさついたします」


 立ち上がりドレスの裾を軽くつまんであいさつをする。


「えっと、あの、そういうのやめないかい、サラ?」


 殿下は言う。


「……?」


「今日のお茶会はこの前みたいに格式ばったものじゃない。現に母上たちにも遠慮してもらって、ついているのはトロイアだけだ」


 焦げ茶色の髪の従者が軽く会釈をする。


「僕のことも家族と同じようにジークって呼んでいいから」


「そんな、恐れ多い……」


「どうして、婚約者同士なのに?」


 碧玉色の瞳を大きく見開いて私を見つめる王太子殿下。


 そんなつぶらな目で見つめられるとね……。


 そばに控えているトロイアも目で何事かを訴えている。

 微笑を浮かべながらってことは、殿下の言葉を受け入れてもいいですよって意味なんでしょうね、多分。


「その、殿下がそこまでおっしゃるなら……」


 私は遠慮がちに受け入れる。


「よし、決まり! 『殿下』じゃないよ、今から『ジーク』だよ、ほら、言ってみて!」


「ジ、ジーク……」


 おずおずと私が言うと、ジークは満面の笑みを見せるのだった。


 かわいい!

 りりしい!

 かっこいい!


 いろんな要素の混じった値千金の笑顔である。


 こんな顔見せられたら、気がねすること自体悪いことみたいに思えてくる。


 まあね、厳密な身分制のある世界にどっぷりつかった者ならともかく、私はそういったものが存在しない世界で生きた経験もあるからね。


 互いに名前を呼び合うなんて友だちなら当たり前。

 

 子供同士で敬称付ける方が逆におかしいよね。


 和気あいあいな雰囲気の中、二回目の交流は終わった。


 まさか、あとで、その様子を見ていた第三者から国王夫妻に告げ口され、あんなもめごとが起こるとは思いもせずに。

 

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