第11話 水障壁の特訓

 着替えを終えて集合した櫛灘寮一行はアオの案内で奥にある運動用スペースへと向かう。

 そこで自由行動組と特訓組にわかれる事になった。


「双子と3年は自由行動だが、赤井と斑目は残れ。同じ2年なんだから特訓の手伝いだ」


 振り分けはすべてアオの判断で、特訓に参加するのは静子、メイ、喜一、真弓の2年生全員と講師役としてのアオと十。

 1年生と3年生は昼に一旦合流するまで好きに遊んでいて良い事となった。

 リゾートプールで遊べると思っていた喜一などはアオの急な決定に少し落胆した様子ではあるが、どちらにせよ特訓が終わるまでは静子たちとは遊べない。

 サクラや冬子とも遊びたくないかと言われれば嘘になるが、サクラには大河というナイトが居る上に冬子は双子の兄以外にはいまいち距離感がある。

 やはりここは本命のために協力すべきと判断しすぐに立ち直った。


「ごめんね二人とも。わたしたちの用事に付き合わせちゃって」

「そんなに気にしなくていいわよ。こいつだってあたしらと一緒じゃないと楽しくないだろうし」

「そうそう。特に喜一は……な!」

「う、うるせえぞ! 真弓!」


 親友の指摘に照れた喜一がちらりと目線を向けたのは静子の胸元だった。

 どちらかと言えばノリが良いメイのほうがと思っていた喜一も思い直す彼女のそれは豊満である。


(それにしても……こうして見るとデカいな)


 喜一のニヤケ顔に気がついたメイも視線の先を追うわけだが、矛先に気づくと「ああ」と納得してしまう。

 メイも特別小さいわけではない標準サイズではあるが、それが小ぶりに感じるほどの静子のバルク。

 思ったよりがっしりとした大胸筋に裏打ちされた大容量のバストはメイと同じ水着の柄が引っ張られて歪んでおり、あまり激しく動いたら破けそうなほどになっていた。


「あらかじめ言っておくが……特訓と言っても遠足ついでの付け焼き刃だから、完遂できなくても気にするな。それに赤井と斑目にも手伝わせたぶんの良い経験にはなる内容だ」


 アオの前説明に静子は頷いていた。

 続く詳細として説明された特訓とは男女一組になってのスパーリングで、戦技に秀でた相手との試合において繰り出されるであろう「一流どころの必殺技」を横からアオが繰り出すのだという。

 彼女に言わせれば、戦技が強い相手ほどそれを出すタイミングが読めないそうだ。

 擬似的ながらそれを再現するのにプールを使うのが効率がいいらしい。

 それを聞いてメイは「だったらアオさんが本気で相手をすれば良いのでは?」と当然の疑問を投げるわけだが、アオは「それでは参考にならない」とだけ返す。

 その意味は二人には結局わからないまま、最初の組み合わせとしてメイと真弓がプールの中央に向かい合った。


「それじゃ、スタートだ」


 スタートという合図とともに、二人の足元を取っていた浅いプールの水面が引いて壁を作り出す。

 事前に許可を取ったうえで十が発動させた水障壁の魔法が戦技用のリングを作り出し、水鏡に二人の姿が映る。

 外から眺める静子には中の様子は把握できるが中からすれば自分たちの姿しか見えないマジックミラー。

 そんなデートだったら何かが起きそうな場所に隔離された二人は真弓の先発で組み合った。

 魔法よりも素の格闘に秀でた喧嘩殺法を使うメイに対して、決して優秀とは言えないが基本に忠実なバランス型の真弓は弓のような構えでメイを狙う。

 魔法力を練りながら空手を引き絞って生み出す矢は炎。

 熱戦魔法の派生である熱矢魔法──ボーゲンラギの矢は一度の3つである。


「火傷したら姐さんに見てもらえよ!」


 矢継早に放つ矢は2つ。

 傷は治療魔法で治せるだろうし、何より自分程度の魔法では酷い怪我になどなりようがない。

 低い実力を正しく把握しているからこその思い切りの良さが真弓の強みだろう。


「りょーかい!」


 迎え撃つメイが作ったのは魔法力で成形された光の剣。

 この剣製魔法で生み出した木刀に似た光を振り回すことでメイは矢を弾き落としていく。

 真弓の矢が遅いのもあるが、それでもミスなく撃ち落とせるのは純粋なメイの動体視力の成せる技。

 一気に詰め寄ったメイは真弓の頭をフルスイングして王手のつもりだったのだが、その刹那に迸る水音。

 焦る真弓の顔が目に焼き付いたままメイは気を失ってしまった。


「な、なんだぁ⁉」


 これにはぶん殴られると思っていた真弓も驚いてしまうほど。

 事前に説明した「一流どころの必殺技」とはこういうものだと言わんばかりの奇襲の前にメイはあっけなく倒れてしまった。

 寄りかかったメイの脱力は女の子の肌を男の子に密着させて、スケベで通している彼のこともドギマギさせるほど。

 布一枚隔てているとはいえ2つの驚愕に脳を揺らされた真弓はメイを抱えてプールサイドに出た。

 そのまま交代として中に入った静子と喜一は外から見た透明さなどまるでない水の壁に驚きつつも向かい合った。

 メイの意識を一撃で刈り取ったものの正体は事前に説明された通りアオの放った魔法。

 だがメイがまったく反応できなかったとおり、感覚便りで察知するのは困難らしい。

 水辺であってもかけたままの眼鏡があるので視界は充分。

 だが視界など無意味な状況に目をつぶった静子は制空間センサーによる迎撃の姿勢で待に入る。


(ここ1ヶ月の上達ぶりは重々承知しているからわかる。やっぱ下手に手を出したらカウンターを食らうなこれ)


 喜一はなまじ魔法を抜きにした腕っぷしにはそれなりの自身があるからこそ、さらには静子の急成長を知っているからこそ、攻めあぐねて拳を握るだけ。

 真弓のように下手でも良いから攻撃魔法を飛ばすべきか。

 それともアオが入れる横槍をアテにして攻めかかるか。

 そんなお見合いの時間は10秒ほどだろうか。

 判断が遅いと言わんばかりに稲妻が二人に襲いかかった。


「今までは上手く行ったようだけどあんまり待ってばかりじゃ通用しないよ」


 水障壁を囲うように走った稲妻は中央目掛けて全方位から降り注ぎ、攻めあぐねていた喜一ごと電流で静子を痺れさせた。

 アオはショックの痺れで倒れる二人に呼びかけた。

 それから休憩を挟みつつ、あの手この手で静子らを攻撃するアオの魔法に四人はヘトヘト。

 気がつけば2時間が経過し、昼休みには丁度いい時間になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る