第1話 プロローグ。

プロローグは短いので本日は続けて投稿します。そちらもお楽しみに。




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『自分は何者で、何処へ行こうとしているのか』


 多分に哲学的な疑問を、少年はこの時、極めて即物的な理由で抱いてしまった。


 季節は秋、十月半ば。そして少年は中学三年生。


 先に述べた高尚な疑問は、未だに進路が定まっておらず進学か就職か、それすらも決めかねていて、担任教師から「いい加減に決めろ」と催促され、生徒指導室で進路相談を受けさせられている時に感じた疑問だ。


 進路を決める時、良く「将来の夢は何ですか?」と問われるのだが、彼は決まって答えた。


「ありません。平凡に生きて平凡に一生を送れれば十分です」


 そう。今まではそう答えても何の違和感も疑問も抱かなかった。だが今回は違った。


 彼は自分の言葉で気が付いてしまった。自分が如何につまらない人間かを。


 少年は、目立たず、騒がれず、注目されず、過ごして来た。平均より身長が低い事を除けば、顔は女子からは特徴が無いと言われ、成績は上にも下にも同じ位の人間が居るという、見事なまでの平均どストライク。


 彼はそれでいいと思っていた。目立つのは嫌いだったから。例え幼稚園の頃から一人も友達がいなくても、例えクラスメートから『空気君』と陰口を叩かれても、少年は全く気にならなかった。これまでは。


「僕は何て平凡でつまらない人間なんだろう!」


 十五歳という若さで夢も将来の展望も、何も無いと言うのはよく考えれば実にもったいない事だと思う。ある人が言った。若さはそれだけで可能性だと。だが平凡な人生を望み、平凡な生き方をしてきた自分は、その可能性を全て捨てているのではないだろうか?


 だから、少年は決意した。


「決めた!今日から僕は生まれ変わる!折角の人生を平凡に生きるなんてもったいない!まだ夢は無いけれど、絶対に見つけて夢を掴んで見せる!」


 若さと言う可能性にかける決心をしたのだ。したのだが……


「でも何をすれば変われるのだろう?」


 それすらも解らない程、彼は将来の事を何も考えて居なかった。その時。


 ふと、教師が大量に用意した高校の進学案内パンフレットの一つに目がとまる。


『当学園では、あらゆる世界に進出し、活躍する人材を育成する事を目指しています。新しい世界、新しい可能性を、当学園で見つけてみませんか?』


 その謳い文句を見た瞬間。


 少年は「コレだ!」と直感した。だから、そのパンフレットを即座に取り願書を抜き出す。


「僕、ここ受験します。だって面白そうな学校じゃないですか!」


 かくして少年は新たな自分を見つけ出す為、この学校を受験する事を決意する。






 その学校は――『私立三黒須みくろす学園』と言った。

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