第13話 真相


椿鬼つばきとやって来たのはまさかの実家。いや、やはりとも言える実家である。


「でも……こんな時間だったら門限過ぎてるから……どうせ入れてもらえないわよ」

「うん?関係ねぇよ」

関係ないとは……はて……?


次の瞬間、椿鬼つばきが勢い良く脚を振り上げ……。


バァンッ!!


「ひゃっ!?ちょ、壊れるって!」

足蹴りでドア蹴破ったぁ――――っ!つーか確実に壊れたわっ!!


「一応セキュリティもあるんだから」

「んなもん既に切ってある」

「はいぃ――――――――っ!?」


「使用人だってびっくり……そう言えば嫌に静かね……」

ドアが蹴破られたと言うのに、誰も起きてこないなんて……。


「さぁ、始めようか」

椿鬼つばきがニヤリとほくそ笑み、ダイニングの扉を開けた先には……。


「お前……!冬氷ふゆひ!何でお前が……!」

「まぁ、全部あなたのせいだったのね……!」

「……っ」

好き勝手喚くのは祖父母。そしてそんな祖父母に何も言わず顔を背ける父親。

そしてその後ろに使用人たち。


さらに彼らがこんな1ヵ所でおとなしくしているのにはわけがある。全員お縄について、忍装束のお兄さんやお姉さんたちに取り囲まれていた。しかもその中に……。


「あれ、霜華そうかさん?実家にいるんじゃぁ……」

氷華ひょうかは送り届けたからねぇ。冬華とうかに任せてある。俺は俺で、任務に合流しただけだよ~」

「そうそう。こうして先に待機してたってわけだ」

ニヤリと嗤う椿鬼つばき霜華そうかさんで3人で話していれば、先ほどから喚いている祖父母を見やる。


「それでこの人たちは何故こんな……?」

「コイツらが依頼者だ」

「あぁ――――……、予想はしていたけども」


「お前!冬氷ふゆひ!貴様こんなことをしてただで済むと思ってんのかっ!!」

「そうよ!家にも住まわせてやってたのに……!」

……住まわせて……ね。私はやはり、彼らの家族とは見なされていなかったようだ。まるで居候のよう。ひとえに彼らが溺愛するお兄ちゃんへの機嫌をとるために、この家に置いておいたのだ。


「んで、お前はコイツらをどうしたい?一応裏の存在に手を出し依頼を出した以上、裏で裁くしかねぇよ」

つまり忍を使って戸籍上の孫娘を暗殺しようとしたことか。そりゃぁこれを表沙汰にしたら大変な騒ぎになるだろう。何より忍の存在が世間の明るみに出てしまう。


だから、裏に手を出したのなら裏で裁くと言うことか……。


「んまぁ……その、関わりたくはない……かな?元々そう言う関係だし。椿鬼つばきのところに永久就職していいなら住むところには困らないでしょ」

「……何、それ誘ってるのか……?お前もその気なら、もう是が非でも逃がさねぇぞ」

「えっ!?」

突然の顎くいからのイケメンアイズドアップ~~っ!?目付きは悪いけど……やっぱり目元だけでもイケメンだし……初恋の相手に似てるところが憎いわ……。そして……。


「そもそも逃げる宛てなんてあるわけないじゃない……」

実家はこんなだし。


「なら決定だな。冬氷ふゆひは俺の嫁だ」

「……っ」

よ、嫁って改めて言われると……やっぱり頬が火照る……っ!

うぅ……っ。


「ちょっとお二人さ~ん、ラブラブなところは結構だけど」

は……っ。霜華そうかさんの声で我に還る。


「いいだろうが、今いいところだ」

口を尖らす椿鬼つばきだが……。


「んで?どうすんの?」

「どうっつったって冬氷ふゆひはコイツらには何の思い入れもないようだからなぁ」

「えと、仮に裁きをとなると、具体的にどうするの?」

「そりゃぁ……闇社会で使えるところなんざぁ、ごまんとあるからなぁ?」

ニタリと嗤う椿鬼つばき。それに続いて霜華そうかさんやほかの忍たちの目元もなにやらにやにやしている……?ぶっちゃけ統木すめらぎよりもヤバい集団なんじゃないか、こやつら。


「お……お前は一体どういうつもりなんだ……!こんな怪しげな連中とつるんで!!」

そこで、祖父である老人の声が響く。

怪しげな……と言うか、自分だって怪しげな集団ーー忍に孫娘の暗殺依頼出したじゃない。


「育ててやった恩を忘れたのか!!」

育ててやった……ねぇ。今はもうお星さまになってしまったお母さんや、唯一優しくしてくれた使用人に育てられた記憶はあるけれど……。この人たちは私を、家族の一員とも見なしてこなかったのだ。


「いいのか!?私たちは花見咲はなみざきとは長い付き合いなんだぞ……!」

それで頭隠かみかくしの忍に依頼するつてを持っていたのか。……しかし、頭隠かみかくしにそっぽを向かれたからと頭隠かみかくしに対立する氷隠きがくしに手を出し、それも払いのけられればほかの忍モドキに手を出すとは。


――――――そう言えば前に実家の庭に不審者が出たことがある。何故か馴れ馴れしく私の名前を呼んできて、お兄ちゃんを騙っていたが……あれもそのつてを伝って雇ったお仲間のひとりだったのだろうか。……その時は生命を狙われたわけではないから、あれだけは未だに謎だが。


そして祖父である老人の脅し文句を聞いた椿鬼つばきはと言えば。うんぁ……っ、すごい凶悪な笑み浮かべてるうぅぅっ!!


「バカじゃねぇの?」


ドンッ


祖父である老人の顔すれすれに壁に蹴りをお見舞いした椿鬼つばきは、祖父である老人を見下ろしながら凄む。


「その花見咲はなみざきが俺たちの侵入を許し、何もしねぇ時点でお前ら……見限られてんだよ」

『ひ……っ』

祖父母の老人たちがふるふると震え、青い顔で俯く。やっと自分たちのおかれた状況を呑み込んだのか。


そして私は静かに父親を見る。


椿鬼つばき……お父さまの罰は軽くしてくれる?」

その言葉に、父親が驚いたような表情を見せる。


「何でた?むしろ冬氷ふゆひが情けをかけるなら、それはそれで影でお仕置きをキツくしたくなるな」

「何で!?」

こやつ、ドS!?筋金入りの跳ねっ返りドS!?まさかの私のかけた情けが反動になるって何で……っ!?


「いや……その、この人は何もしなかったから。そう、何も」

しなかったのだ。嫌がらせもせず、子育てもせず、私に嫌がらせをしたり屋敷の外に閉め出したりした自分の両親を野放しにして、何もしなかったのだ。お母さまが死んだ時だって……。


父親も、その言葉の意味を分かったのだろうか。がっくりと項垂れる。

こんな時でさえ……あなたは何も言えないのね……。祖父母の言いなりであったように。


「まぁ、いいだろう」

椿鬼つばきが頷いた途端に……使用人たちがざわつき出す。


「助かるんだわ!」

「あぁ、助かる!」

「悪いのは全て大旦那さまたちだもの……!私たちは……っ」


「いや、あなたたちは違うわよ」


『え……』

絶句する使用人たち。いや、何で父親が罰を軽くされるからと言って自分たちもと思ったのだろうか。


「あなたたちも祖父母と一緒にいろいろやってきたじゃない」

むしろ祖父母が命じ、実際に手を加えるのがこの人たち。掃除にせよ、食事にせよ、いろいろやってきた。


「それは大旦那さまに命じられて……」

「そうです……!俺も大奥さまに……っ」


「その割には随分と楽しそうでしたけど。あなたたちを庇う理由もないもの」

そう告げると、使用人たちも一様にがくりと項垂れる。

――――――――知っている。この人たちもお兄ちゃんを崇拝しているから。

お兄ちゃんの前ではいい顔をするけど、毎回お兄ちゃんが見てないところで、お兄ちゃんが気にかける私に生意気だの、妬ましいだの言っていろいろやってきたじゃない。


それはお兄ちゃんの兄心で、兄妹だったと言うだけなのに。


『何故』とか、『何であんただけ』とか言われても……あなたたちは兄妹じゃないでしょとしか言えないのだ。

お兄ちゃんに特別扱いしてもらいたかった使用人たち……。


バカみたいね。


「んじゃぁコイツら、引っ張ってくか」


『了解』

どうやら表沙汰にはできない場所に連れていかれるらしい祖父母や彼らは、忍たちに無理矢理立たされて歩かされていた。


その時だった。使用人の中のひとりの縄が……外れた……?


その瞬間素早くメイドがこちらに迫る……っ!


え、何どう言うこと……っ!?


しかしメイドが襲い来ることはなかった。


「気付いてねぇわけねぇだろ」

「がはっ!!」

椿鬼つばきの素早い腹パンとかかと落としにより、メイドがドサリと崩れ落ちる。


「ひ……っ、このひと……」

「夕方のやつらの仲間だろうなぁ……?」

「まだいたんだ……と言うかうちに潜り込んでいたなんて……あ、じゃぁあの人も……」

「あの人?」

敵の一員だったメイドは、霜華そうかさんたちに先程よりも頑丈に拘束されていた。霜華そうかさんたちも想定していたように鮮やかに処理していた。


そんな中思い出したのが、あの事。


「前に庭に不審者がいたのよ。何かお兄ちゃんのふりしたかったようだけど……顔が違うのに無理に決まってるじゃない」

「ははは……っ、そりゃぁ相変わらず効いてなかったんだよ、お前に。忍の術がな」

「じゃぁ……本人は化けているつもりだったんだ」

でも、あれ……?じゃぁその人も私に術が効かないことを悟ったんじゃ……。


「多分……いや、またあの人か……」

またって……どう言うことだろう。そして椿鬼つばきはまるでその人の正体を知っているような。


「庭に出ようか」

「……いいけど……庭に誰が……?」

「問題ない。俺が一緒だからな」

そう言って手を差し出した椿鬼つばきの手をとる。不思議とこの掌の熱が……私を安心させるのだ。


……本当に、不思議。

あれ、でもこれって昔どこかで……。


「どうした?」

椿鬼つばきが片手で頭と口元を覆う布頭巾を取り払いながら問うてくる。

「……っ。ううん、何でもない!」

今は庭で待っているであろうその人に、会いに行かなくては。




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