第6話 知らないうちに天下取ってたし


――――――午後のティータイム、例の茶室。


「やっと帰ってきたの?椿鬼つばきったら」

調査……とは言えすぐに帰ってくると思いきや、椿鬼つばきはなかなか帰ってこない。もうお昼も過ぎて午後の3時、おやつタイム。


さすがにヒョウカちゃんに心配だと相談したら、『いやいや、長に限ってあり得ない……あぁ……お父さんお母さんお兄ちゃんたちに確実に怒られるぅ……』と嘆いていた。椿鬼つばき、恐怖政治とか働いてないわよね……?あんまりアレならお姉さんたちに相談したら?とアドバイスし、イチゴヨーグルトをおごってあげたけど。


「ちぃと時間かかっちまってなぁ……コイツらにも勧められて、雉高以外も、この辺り一帯シメてきたから」

「はぁっ!?」

何やってんの、だからこんなにかかったのかよ。そしてえらくスピーディーに制覇してんなこの辺り一帯をぉっ!!


お金持ち校とは言え、同じ市の中にも一般の市立校とかもあるし、工業高校とかもあったはず……。

電車で巡るには少々手間がかかるし……まさか車出してないわよね!?


私たちは今朝は電車通学だったけど!因みにそれはぼんさんが目立ちたくないと言うことで電車通学にしているだけなのだそうで、特待生の陽咲ひさちゃんはともかく、本来ならば車通学が普通なのようちの学校!!

まぁ私は……わけあって電車だけども。


――――――とは言えだな。


私は椿鬼つばきの後ろの不良たち……いや、今や椿鬼つばきの舎弟代表になっている子息たちを見やる。

そして舎弟たちが嬉々として口を開く。


あねさん……!アニキならマジでこの辺り一帯を支配下におさめると思ってやした……!」

「バッサバッサと敵をなぎ倒し、そして見事に手中におさめたアニキさすがです!」

「きっとあの河原の鬼もアニキにはかなうまい!」

ダメだ。コイツら完全に椿鬼つばきに呑まれてるぅ――――――。やっぱり男子ってちょっとワル系なのに憧れるの?まぁダークヒーローとか人気だものね。でもこの性悪しかしぼんさんだけは大好き闇のニンジャは果たしてダークヒーローのくくりに入れていいのか……迷うところよね。


「で……?あんたたちはちゃんと授業受けたんでしょうね」


『ギクッ』

コイツらも椿鬼つばきと一緒に堂々サボりかい~~っ!いや、サボりはいつものことだろうけども、少なくとも学校内でサボっていたはずよ……!いくらなんでも、車での送り迎えはさすがに登下校時だけのはずだし!コイツらこれでも名家のお坊ちゃんたちだもの~~!電車には基本乗らないのよ車移動なのよ、これでも!!


「ふ……っ。コイツらには俺の勇姿をその目に焼き付けさせたかんな」

カッコつけんな椿鬼つばきぃっ!!


「しかし……河原の鬼、いなかったな。一応河原にも寄ったんだよ」

「え……?河原まで寄ってきたの?てか、普通に学校じゃないの?」

そんな都合よく河原に入り浸ってるわけないし。もしかしたら河原の鬼も、普段は椿鬼つばきみたいに伊達眼鏡被った真面目な地味男子を演じているのかもしれないわよね。


「まぁ、いなかったもんは仕方がねぇ。それは今度にしようってんで戻って来たんだ。河原の鬼みたいな危険なやつを放置して、ぼんに何かあっては困るからな」

「それはそうねぇ」

そしてこんなんで…もぼんさんのことを何よりも一番に考えてるのは……変わらないのよね。


「そう言えばアニキ、雉高のやつらとは知り合いだったんすか?あの荒くれもんたちがアニキの顔見るなりおそれおののいてましたけど」

どんな荒くれもんなのかも気になるところだけれど、椿鬼つばきの顔みるなり……って、一体……?普段は自分を認識できない術をかけているのよね。


「あん?そりゃぁ前に……」

何かあったのかしら……?


「うちのぼんにケンカ売ったからシメておいた」

まさかのぼんさんに!?確かに見た目温厚そうだけども……!そしてぼんさんのためだからと、素顔をさらしたってこと……!?そもそもこの男は普段の地味眼鏡ではなく、素顔で乗り込んだはずである。


「まぁぼんぼんで強いから、目立ちたくないんでシメはしないがさらっとまいたけどな。だが用心棒としては、ぼんを守るのも役目と言うか本能だしな。またぼんに目ぇつけられたらたまったもんじゃねぇ」

ぼんさん実は強いんだ~~。やっぱり影のヒーローよね!!瑠夏るかさまを影ながら守りピンチの時に颯爽と駆け付ける感じよね!?マジカッコいいじゃない!!妄想が……たまらんっ!!


……しかし、ぼんさんが強いのなら……やっぱりぼんさんのお父さまが椿鬼つばきを用心棒として学校に通わせたのは……椿鬼つばきのため……よね。……多分。いや、やっぱり……?


そう思っていれば、ふと、椿鬼つばきが……。


「ふ……っ。だから河原に呼び出してシメてやったんだよ。ありゃぁぼんの1年の……去年の秋のことだったか……。ん……?」


「え……河原に呼び出し……?」

「狩られたのって雉高のやつら……」

「去年の秋ぃっ!?」

舎弟たちが驚愕するのも致し方がない。しかし証拠は出揃ってしまっているわけである。

答えは……ただひとつ。


「河原の鬼って……あんたじゃない」

ほんとに地味眼鏡真面目な優等生に紛れ込んでたし……!日中学校に行ってるってのもあながち間違いではなかった……!


「あぁー、俺か。通りで会えないわけだぁ」

クツクツと嗤う椿鬼つばき。しかし舎弟たちの顔は青ざめている。そりゃぁそうだ。彼らとて恐れる最強の存在が……今ここに、目の前にいるのだから……!


「……にしても、鬼ねぇ……?」

ニタァッと笑む椿鬼つばき。あんたそれ、高校生に見せる顔じゃないから。

いや私も高校生だし昨晩見たけど……!


『ヒィッ』

もう本当にビビっちゃってるじゃないの。


「ちょっとあんたねぇ、公序良俗守りなさいよ!?相手はけなげでいたいけな高校生なんだから!」

もちろん私もですけど……!


「けなげ……?いたいけ……?」

椿鬼つばきが首を傾げる。


「きょ……今日はあんたの弾丸ツアーに同行しちゃったけど……普段はちゃんと制服崩さないで着る!授業ちゃんと受ける!ゲーセン行くなら制服から着替えろ!むしろちゃんと家に帰ってお勉強……!!そもそもあんたら疑われてんのよ!?目撃者なのに陽咲ひさちゃん襲撃事件の犯人に……!汚名返上のためにも、この鬼から慈悲を賜るためにも、もうちょっとけなげいたいけ感を捻出しなさい!この鬼はあんたたちが高校卒業したら本気で来るわよ……!!」


『ひいぃ、分かりましたあねさん!!補習受けてきます――――――――っ!!!』


「よし!ほかの連中にも伝えること……!」


「イエスあねさん!」

「やっぱりあねさんは俺たちのあねさんだぁ~~!」

「ひいぃ補習~~っ!」

大急ぎで茶室を飛び出して行く舎弟たち。まぁ彼らが真面目に授業を受けるようになるなら一安心だけど……。


「私はどうあってもあねさん確定なのか。うん……確定なのね」

何故かそこだけはどうあっても覆らない気がした。


「そう言えば椿鬼つばき、調査の方はどうなったの?」

まぁ情報収集に関してはくのいちのお姉さんたちや椿鬼つばきに任せてしまったとはいえ……。いや、私だって何もしてないわけでもないのよ?


ランチタイムではヒョウカちゃんと一緒にしっかりとラブロマンスを追っかけるための情報交換をしてましたとも……!昨日のぼんさんと瑠夏るかさまの下校風景もバッチりよ!!

ぼんさんと一緒に初めての電車を体験するシーンとか最高だったわー……。


――――――とは言え。真相をたぐる方は椿鬼つばきにお任せしてしまったのよね。


「あぁ、それな――――。面白いことが分かってなぁ……」

ニタリと椿鬼つばきがほくそ笑んだ時だった。


外からドタドタと足音が近付いてくるのが分かった。舎弟たちかしら……?何かあったの……?


そしてバァンッと開かれた茶室の扉の向こうには……。


「げ……っ」

河原の鬼椿鬼つばきですら完全敗北する存在が……いた。


椿鬼つばき……!一体お前、何してんだ……!」

そこには普段の温厚そうな雰囲気とはまるでかけはなれた、怒りの形相のぼんさん。そして何故かその後ろでは、青ざめて俯くヒョウカちゃんの姿があった。


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