第20話 シシリーを守れ

そのあと自邸で開催された会合に、私は入れてもらえなかった。

シシリーを守る会の臨時総会が開催されたのである。


一見冷静そうだが、実は怒り狂っているらしい父とマーガレット大伯母様、兄とドリュー様はかろうじて父の書斎に入ってよいと許可されたが、私は自分の部屋に閉じ込められて、ロザリアと一緒に紅茶とお菓子を堪能するように言いつけられた。


「お嬢様。あんな下品なカフェで、あんな下品なダドリーといつも一緒だなんて、反吐が出そうですわ」


「それほどでもないわよ。お店の女の子たちはとっても優しいし親切だし」


ロザリアは正気かという顔をした。


「いい子でも何でもありませんよ。結構いがみ合ってるし。お嬢様に優しいのは、あの厄介なダドリーをほんわかお相手してくれるからでしょう」


ダドリーには割と塩対応のつもりなんだけど。


「これだから、シシリー様は……。あれのどこが塩対応なんですか。あんなことを言われたら、私ならテーブルを蹴飛ばして椅子で殴り掛かりますよ。でも、もうそろそろ限界ですね。噂が広がっちゃいましたからね」




私はカフェの例の熟女店長にしばらく休みますと手紙を書いた。


店長もあのすごい噂を聞いて知っていたので、私が休んでも仕方ないと思っているらしかった。それどころか、もし本当にマーガレット夫人の遺産相続人になるなら、大金持ちだ。もう、店には出てこないだろう。


『短い間だったけど、ありがとうよ。あんたがあんまり美人だったんで、最初、店の他の女の子たちは反発して嫌がらせをしようとする子もいたんだよ。だけど、あんたは優しくて気がよくて、みんなが困り果てていた問題客のダドリーを上手にあしらってくれたんで、最後には感謝してた』


「美人?」


熟女店長は抜け目のない女性だったが、私を美人だって言うだなんて?


『だけど、お店には来ない方がいいかもしれないよ。素のあんたのことはみんな好きだろうけど、いきなり大金持ちになっただなんて聞いたら不愉快だろうからね。仕方ないよ』


「そうね……」


私はつぶやいた。




一方、家の中では、知らない間に何かが起きているらしかった。邸内にはドキドキするような妙な緊張感が漂っていた。ドリュー様は毎日のようにうちを訪問されるが、私を見ても一瞬ニコリと笑ってあいさつしてくださるだけで、すぐに緊張した顔に戻って父や執事のいる書斎へ向かう。


「シシリーのことは父上の男爵や俺たちが完全に守り抜く」


ドリュー様は言った。


「あんな貧乏侯爵家に出来ることなんか限られている。だが、油断は禁物だ」


執事のセバスも厳しい顔をしていた。


「屋敷うちの警備は私めの責任でございます」


かなめは父で、手広く商売をしている父は伝手が多かった。王都の騎士団や警護にも顔がきく。

だが、どうやらダドリーの行動を押えたのは、ドリュー様らしかった。ダドリーは学内で一番評判が悪い連中に接触したらしかった。



「そうか。ダドリーはプロの犯罪者集団に馴染みはないのものな」


父は苦笑いしていたが、もしかして、お父様は知っているの? その犯罪者集団とやらを?


「デートを申し込んできた時がチャンスだ」


父が言った。


そして、私の知らない間に、デートの申し込みがあって、知らない間にデートは敢行されたらしかった。


「お嬢様はお知りにならなくてようございますわ」


ロザリアが言った。


「でも……」


「お任せなさいまし。お父上様を始め、お兄様のロイ様、ドリュー様、屋敷中の使用人たちがみんなお嬢様をお守りしております」


「でも、私だけ、こんなところでお茶を飲んでいるなんて」


「お嬢様はいるだけでよいのです」




私は全部後から聞いた。


詳細を話してくれたのは兄とドリュー様だった。


「デートには行ったが、実際には馬車だけだ。誰も乗っていない。ダドリーにそそのかされた連中はウチの馬車に襲い掛かって……」


それでどうなりましたの?


兄はきまり悪そうに笑った。どうやら本当に大したことはなかったらしい。


「全員、騎士団に捕まって拘留されている。さすがあのダドリーが雇った連中だ。口ばっかりの薄っぺらいやつらだった。ダドリーの指令をペラペラしゃべってくれたが、なんとも安直な計画だった。このことが学院にばれると即刻退学処分どころか罪に問われると理解すると、みんな真っ青になって当家に協力すると誓ったよ」


頭が悪すぎると兄は批判した。


「ダドリー侯爵夫妻はシシリーに冤罪をかぶせろと言ったそうだが、逆にダドリーの有罪の証拠がバッチリそろってしまったな」


「ということは、いよいよ学園恒例のパーティですね!」


ロザリアが張り切って言い出した。


「そう言うことになるな。その連中を使ってダドリーにはシシリー嬢には男友達が大勢いる証拠をつかんだと報告させた。それ以上何かあることにすると刺激が強すぎるからな。いい気になったダドリーは、シシリー有責の婚約破棄、マリリンとの婚約を発表するだろう」


父が言った。


「お嬢様、ドレスは用意してありますわ。準備は万端でございます」


ロザリアは顔を紅潮させていった。

父は笑い出した。


「今度はシシリーとロザリアの出番だ。期待してるぞ?」



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