第3話:(2/2)異界の審判(タロットの導き)

 悠人は森を歩きながらさらに考えを深めた。霧が晴れ間を見せる中で、悠人は次なる敵との遭遇を予感した。彼の戦術と技術、そしてタロットカードの不可解ながらも強大な力が、この未知の地での生存をかけた戦いにおいてますます重要なものとなっていく。


 このように、悠人は自分自身と向き合い、その内なる力を理解しようとしながら、次なる挑戦に備えた。森の中で繰り広げられるこの冒険は、悠人にとってただの生存戦ではなく、自己の再発見と成長の旅であった。


 そして彼は、未知の敵との遭遇、そして新たなる力の試練を前にして、内心で静かに誓った。「この力を理解し、コントロールする。それができれば、この奇妙な世界でも生き抜ける」悠人の足取りは確かで、次なる戦いに向けてその目は鋭く輝いていた。


 悠人は再び二つのカードを意識すると、空中には銀色の粒子で形成された手のひらほどの大きさのカードが浮かんだ。左側にはワンドペイジ、右側には審判のカードが現れる。これらのカードは金属質の艶やかな感触をもち、触れると冷たさすら感じられるが、物理的に動かすことはできなかった。目の前に出現した粒子の集まりを見つめると、二つのカードが重なり合い、融合した。その瞬間、カードは光り輝いて霧散し、技の準備が整ったことを悠人は感じ取った。


 悠人は「これがカードの力の使い方なのか?」と驚嘆しつつも、超常的な現象に心躍らせた。この力があれば、どんな強大な敵にも立ち向かえるだろうという奇妙な自信が湧いてきた。


 悠人は「階位が上がれば、さらにカードも増える。もっと強くなるのなら、力は指数関数的に増すだろう……」と未来の無限の可能性を思い描きながら、先ほどの勝利の喜びに浸った。


 このとき悠人の心には、自身の信条でもあるニーチェの「自分自身を創造せよ」という言葉が響いた。これまでの近接戦闘の経験を踏まえ、さらに高みを目指す準備が整ったと彼は感じた。


 少し前に出会った神秘的な女神と思わしき女性から教わった階位の確認方法を思い出す。階位は鳩尾からへその上にかけて横線が並ぶ。最大で十四本。悠人はシャツをめくり階位を確認するが、まだ何も現れていなかった。しかし、彼はその事実を糧にさらに努力する決意を固めた。


 悠人が考えを巡らせている間に、先ほど倒した黒いライオンのような魔獣から舞い上がった銀色の粒子が彼の胸に吸い込まれた。その清涼感と爽快感は、彼が獲得した魂の力の証だった。


 森の中を進む悠人は、この戦いが新たな始まりであることを感じていた。タロットカードの力を得たものの、彼は依然として生身の人間であり、基本的な生活のサポートが必要だ。金も必要だろう。彼は人里を探す必要があることを認識しつつ、この強力な新たな力がリスクを伴うことも予感していた。その神秘的な女性が言っていた、「真の力は自己克服にある」という言葉が頭をよぎる。


 悠人はこの異世界の法則に従い、魔力を持つ対象を倒すことで力を吸収し、自己を強化していく。これは明らかに弱肉強食の世界だと認識せざるを得なかった。しかし彼はそれに屈することなく、自らの近接格闘技とタロットカードの力を組み合わせ、新たな力を身につける方法を見出すつもりだった。彼の心は、この新しい世界の無限の可能性によって歓喜に満ち溢れていた。


 悠人は人里へと続く小道を進みながら、密林で新たな魔獣と対峙した。その獣は焦茶色の毛並みを持つ猪のような姿をしており、二本の巨大な牙が脅威の象徴として威嚇していた。その巨大な体躯は、まるでツキノワグマのように二メートル近くもあり、一歩踏み出すごとに地面がわずかに震えた。


 悠人は冷静に立ち位置を調整し、戦闘態勢を整えた。左肩を前に押し出し、体の側面を魔獣に向けて細心の警戒を怠らなかった。左腕は胸の高さで曲げ、防御の準備を完璧に整える一方で、右腕は後ろに引き、握りしめた拳が次の一撃を待ち構えている。彼の足取りは計算しつくされたもので、左足を前に踏み出し、右足をしっかりと後ろに固定してバランスを取った。


 空中には「ワンドペイジ」と「審判」というタロットカードが鮮やかに浮かび上がり、彼の意志に応じて位置を調整する。悠人は意識的にこれらのカードを組み合わせると、銀の粒子が舞い、新たな武術技「神罰裁断」が形成された。その瞬間、周囲の空気が緊迫した静寂に包まれた。この技はワンドペイジの速度と審判の断罪の力を融合させ、敵に神聖な裁きを与える力を持つ。


 対峙する魔獣はその巨体を震わせながら威嚇の唸り声を上げる。しかし悠人は動じることなく、その動きを冷静に見極めた。魔獣が一気に地を蹴って襲い掛かると、彼は素早く身をかわし、相手の側面を狙った。その瞬間、悠人は右側へと素早くステップを踏み、左足を軸にして全身を猛速で回転させた。


「神罰裁断!」と彼が叫びながら、光り輝く拳を魔獣の脇腹に叩き込んだ。獣は激しい痛みに絶叫し、その反動で体が反対側に激しく吹き飛んだ。衝撃で内臓が破裂し、その場に臓物が散乱した。


 倒れ伏す魔獣からは、勝利を告げるかのように銀色の粒子が放たれ、悠人の体内へと吸い込まれた。彼はこの一撃が正確に決まったことに内心で満足し、わずかに微笑みを浮かべた。その表情には、戦闘の興奮と次なる戦いへの期待が混在していた。


 悠人は「これがタロットカードと格闘術の組み合わせの力か……」とその場を離れて、静かな森の中を進んだ。心の奥底で湧き上る高揚感を抑えることができず、次なる獲物を求めて歩みを進めた。その中で、彼の心にはある邪な思考が過ぎった。「もしこれが人間だったら、どうなるのだろうか」と。この考えが彼の心を暗く染め上げるが、すぐにそれを振り払い、前を向いた。


 その時、突然耳に飛び込んできたのは、遠くで鳴く猫の声だった。この世界にも猫が存在するのだと、悠人はその声に惹かれながら、声の方向へと足を進めた。木々が密集する森を抜けると、小さな光が見え始め、猫の鳴き声が徐々にはっきりと聞こえてきた。

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