27話 魔女に免じて。

『ヨシュア様へ。


 マーロでも大変なご活躍とのこと嬉しく思います。

 1日も早く修道会へ戻られるよう、我ら一同毎夜祈っております。 


 ところで、昨夜、貴重なお宝を手に入れました。


 金で作られた小さなカギで、オパールの飾りが付いておりますので、

 ヨシュア様が以前お話になっていた代物しろものではないでしょうか?


 こちらへ戻られた際にお役に立てられるよう────』


 部屋の引っ越しでマリアが失くした「盗賊王のカギ」をヨーゼフが拾った。


 その件をヨーゼフはヨシュアに手紙で報告し──、


「うちらにも色々と事情があってさ〜。マーロ宛の手紙は全て調べさせてもらってんだよね。あ、遠慮せずに飲んで飲んで」


 そう言って俺たちにアイスティーを勧める少女が、暗殺者ギルド「ブラックゴート」のギルドマスターらしい。

 つまり、この見た目で暗殺王……。


「大丈夫だぉ〜。眠り草とか入ってねーから、あははは」


 表面上はポップで明るいところが却って恐ろしい。


「ほーんと、うちの部下ちゃんが気付いてくれて良かったってば。ありがと、ビリー☆」

「へい! おかしら──アイリス様、恐縮ですっ!!」


 地下牢へ俺たちを迎えに来た男が勢いよく頭を下げた。

 教育が行き届いているのか、それともギルドマスターに対する恐怖か……。


「ファンネル家のおねーちゃん捕まえちゃったしぃ。おまけに古龍を呪い殺した魔女ロクサーヌ様までいるんでしょ? やべーって、マジ怖い」


 マリアは大商人の娘ではなく、ファンネル家──この世界で最も凶悪な海賊一家の娘だった。

 まあ、物凄い資産はあるだろうから、お嬢様と言えなくもない……。


「でもさ、こんな手紙めっけたら、書いたヤツ捕まえたくなるっしょ?」


 と、ヨーゼフの手紙をひらひらさせると、書いた本人が再び震え上がった。

 別の部屋で手荒い尋問を受けていたらしい。


「お兄ちゃんが拾ったカギは盗賊王のカギって言う、と〜っても大事な物なのよぉ〜♡」

「は、はひっ」

「それをまた失くしたなんて言いやがるからさ〜。ムカつくよね」


 実際にはヨーゼフが失くしたわけじゃない。


 マリアに頼まれた俺がヤツの部屋に忍び込んで取り返したのだ。

 つまり「盗賊王のカギ」を現在持っているのはマリアということになる……。


 だが、それをここでは言わないほうが良いだろう。

 色々な事情が分かっていないからだ。


「その──」


 そこで俺は、マリアの顔色を窺いつつ事情を探ることにした。


「──盗賊王のカギってのが何なのか、教えてもらうことは可能か?」

「えっとぉ、アル君だっけ」

「ああ」

「好奇心って大事よね〜、うふ」


 アイリスは瞳を細め、品定めでもするかのように俺を見た。


「ま、いっか。マリアおねーちゃんは知ってるかもだしぃ。ね?」

「──さあ。わたくしはファンネル家を追放された身ですもの」


 と、マリアは素知らぬ風を装っている。


「ふうん、そっか。 んじゃ、どっから話そうかなぁ……。えと、ほら、最近パリスって治安がかなり悪いじゃない?」

「ああ」


 一般的には、パリス王家が内部の権力抗争に明け暮れているためと言われている。


「違うってば。ようは、うちら裏社会を取りまとめるヤツがいねーってこと。んで、それぞれが好き勝手にナワバリ争い始めちゃったのが治安悪化の原因」

「ってことは、以前は取りまとめ役がいたのか?」

「うん。つーか、5年毎の交代制だったの。海賊一家のファンネル、盗賊団のギルガメ、暗殺者ギルドのブラックゴート、この3家が持ち回りで盟主をやるっていうね」


 盟主を決めることで、裏社会と言えども一定の秩序を保っていたのだ。


「な〜んだけど、盟主の証──盗賊王のカギが消えるっていう大事件があってさ。しかも、ギルガメが盟主の時だよ。盗賊団が物を盗まれるってホントにアホだよね〜」


 と、二重の意味で、ギルガメは盟主ではあり得なくなってしまった。


「おまけに、見つけた野郎が次の盟主だああ〜〜なんて、ファンネルのパパ上が宣言しちゃうから、3家以外の連中も目の色が変わっちゃったのよ」


 盟主が消え、次の盟主になろうとする悪党たちが、血で血で洗う抗争を始めたのである。


「で、そこへヨーゼフと俺たちが飛び込んで来たわけか」

「そそ。ルーラル村はうちらのシマだかんね」


 ここから先の話は慎重に進めなければならない。


「ブラックゴートの事情は良く分かった」


 マリアが俺をジッと見詰めている。


「修道会で、ヨーゼフの失くしたカギが見付かれば必ず返すと誓おう」

「そりゃ当然だよね。うちらのモンだし」

「ああ。だが、今は先を急ぎたい。王都へ行かないとダメなんだ」

「いいよ」

「送り届けないといけない人がいるし、俺たちも鐘を──ん?」

「だから、いいってば」


 アイリスはニコニコと無邪気そうに微笑んでいる。


「いいのか?」

「うん」


 俺たちへの疑惑は晴れたのだろうか……。


「だって、見付けたら返してくれるんでしょ?」

「──ああ」

「じゃ、ロクサーヌ様に免じて信じるよ。もちろん裏切ったら殺すからね〜」


 と言う少女の──アイリスの瞳を見て俺は確信した。

 全てバレている、と。


 修道会にカギがあり、その修道会にはファンネル家から追放された娘がいた。

 普通に考えれば、マリアが盗み出したという結論になる。 


「アル・ボルトン。うちらは忘れないよぅ♡」


 南方の魔女ロクサーヌがいるから、いったん解放してくれるんだろう。

 つまり、俺たちだけになれば……。


 当面、ロクサーヌと離れるわけにはいかなくなってしまった。

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