21話 総長の同期?

「──もう──限界だぜ……」


 そう言ってヨーゼフは大広間の床に崩れ落ちた。


「あ、兄貴ぃ、おいらもです……」


 と、子分のゲッツも座り込んだ。


 そんな2人をディアナとマリアが冷たい視線で見下ろしていた。


「ディアナ、どれくらいたった?」

「ふむ……。鐘の音が聞こえんので正確には分からんが──」


 ディアナが自分の小腹を撫でながら言った。


「4時間程度だ」


 頼るは腹時計である。


「そうか」


 と、俺は腕を組んで考え込んだ。


 修練場から落とされた地下ダンジョン。


 仕組みは分からないが、ダンジョン内は真っ暗闇ではなく薄明かりが灯っている。 

 モンスターも今のところは出てこない。

 

 そして、迷うはずのない真っ直ぐな一本道を歩いていくと──、


「ここにたどり着くわけか」


 大広間は通路より少し明るくなっている。


 部屋の端には飲用可能な──ヨーゼフが既に飲んだ──水で満たされた水瓶があった。

 

 つまり、喉の渇きも癒せる親切設計だ。


「これで3回──いや4回目か」


 そう呟いて剣先で壁に3本目のキズを刻んだ。


 ん……?


 その時、3本目のキズの近くに、凹みがあることに俺は気付いた。

 凹みの中央には、めちゃくちゃ怪しいボタンのようなものがある……。


 押してみたいが──危ないよな、やっぱり……。


「どこかに転移魔法が仕掛けられているとしか思えん」


 ディアナの推理が終わった後に、ボタンのことを相談することにした。


「それには、かなりの魔力を必要とするだろうがな……」


 A地点からB地点へ瞬間異動する転移魔法は原作ゲームにも登場する。


 ただし、ゲームとしての利便性を高める演出に過ぎず、シナリオや戦闘に影響を与える使われ方はしていない。


「膨大な魔力だ? んなわけあるか。ここは能無しが集まる修道会だぞ」

「そうだ、そうだ」


 ヨーゼフとゲッツが仲良く茶々を入れてきた。


「でも、全員が魔力無しってわけでもありませんでしょう」


 確かにマリアの言う通りだ。


 ディアナは肉串をこんがり焼く程度に魔力が復活している。

 俺しか知らないけどな。


 そして、そもそも俺は昔からバッチリ魔法を使える……。


 ということは、他にも魔力を隠しているか、あえて言わない連中がいてもおかしくない。


「ヨハン総長だって、実は──という噂を聞いたことがありますわね」

「え──?」

「何でも若い頃、マギアノ大学で学ばれていたとか」


 マギアノ大学とは、南方にある世界唯一の魔術大学だ。


 小国の乱立する南方は大きな軍事力を持っていない弱点を、魔術や呪いの研究を発展させることで補おうとしてきた。


「しかし、あの総長が……?」


 それが事実なら、ヨハン総長が能無しであるはずがない。

 魔術を使える──それもかなり使える人間でなければ入れない大学だ。


「何でも近々お越しになるロクサーヌ様とは、マギアノ大学時代からのご縁だとか」

「さすがにそれはないはずだ。彼女はかなり若い──あ、いや──」


 と、思わず原作ゲームの知識を口にしそうになった俺は途中で言葉を濁した。


 南方の魔女ロクサーヌ。

 四元素全ての魔術を極め、呪い師としても名高く、星も詠めるという。


 見た目やセリフの口調は若かったし、なおかつ主人公にヤンデレ化するキャラでもあった。


 マリアの言う通りロクサーヌがヨハン総長と同期なら老婆になってしまう。


「ふん。ロクサーヌは禁忌を犯した女だ」


 と、ディアナが吐き捨てるように言った。


「邪悪な魔術で自然の摂理を反転させた。そのために、あらゆる非道に手を染めたとも聞く……。ともあれ、良からぬ女である点は間違いない」

「ふうん。だけど、あの魔女が──」

「だああああっ、もうどうでもいいだろ、そんな話はよおおおっ!!」


 ヨーゼフが頭を掻きむしって立ち上がった。


「問題は、この糞ダンジョンだ」


 その意見には一理ある。


「ぐるぐるぐるぐる同じところを回って──これのどこが試練なんだっ?」

「た、確かに、兄貴……。こいつが、毎年やってる試練って話も怪しいもんでやんすね」

「ああん? どういう意味だ? ゲッツ」

「ヒョロガキとまな板女は修道院の疫病神になる──と、聖騎士のヨシュア様もおっしゃってたでやんしょ?」

「ふむふむ──、はは〜ん、なるほど」


 ヨーゼフは嫌な目つきで俺とディアナを見比べた。


「何かの間違いで騎士に上げちまったが、やっぱり疫病神は始末しようって話か」

「そうでやんす」


 まったく意味の分からんことを……と思ったが、アホは追い詰められるとトンデモ理論を展開するのかもしれない。


「くそうっ! ってことは俺ら巻き添えを食らったわけだな。いや、まてよ……。じゃあ、2人を殺しちまえば助けてもらえるんじゃねーか?」

「おおっ、さすがは兄貴っ!」

「ぐふふ。よぉし、やっちまうぞ、ゲッツ」

「ガッテンでやんすっ!」


「危機回避──」


 ◇


 この1年で、俺の身長は少しばかり伸びたし、基礎訓練のおかげで腕力も強くなっている。


「んが?」

「ほえ?」


 ヨーゼフとゲッツを、隣り合わせで壁際に立たせていた。

 

 ヤツらのすぐ傍の壁には3本のキズが刻まれている。


「試したいことがあるんだ」


 そう言いながら戸惑い顔のヨーゼフを俺が思い切り蹴飛ばすと、カチリ──機械式のボタンが押される音が辺りに響いた。


「悪いな、お前ら」

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