18話 完全復活ではない……。

 修道会騎士団は獅子奮迅の働きぶりを見せ、サイクロプスを蹴散らしバルバロ東門を確保していた。


「その後、ギャバン伯の無事を確認しに行ったのですが、あれほどのクズだったとは……」


 騎士団の姿を見た傭兵たちは、雇い主のギャバンを置いて逃げてしまった。

 逃げ遅れたギャバンを拘束した後、俺たちはバルバロ東門の騎士団陣地に入っている。


「うむ。盟約違反は重罪だ」


 ダンジョンや秘境を侵さないモンスターとの盟約を、ヒト族と魔族は基本的に守っている。

 自分たちの安全を守る──今回のような危機を招かないためだ。


 だが、ダンジョンのお宝を狙う盗賊や冒険者はいる。

 見付かれば処刑台送りになるのだが……。


「ヤツも処刑台に送りたいところだ」

「ええ……。ですが、現実には難しいでしょう。腐ってもバルバロ伯です」


 盟約破りを冒したギャバンの身柄は修道会で一時的に預かる。

 王立裁判所の判断を待つ間だが、結局は無罪放免になるだろう。


「まあ、そうだな──。が、ともあれ助かった。礼を言おう」


 ディアナは下っ端の従士だが、褒めてつかわす──的なスタンスが実に良く似合う。

 言われた白金騎士のケイトも嬉しそうに頭を下げた。


「──で、サイクロプスとの交渉はいつに?」


 と、2人の会話に割り込んだ俺にケイトが目を向けた。


「少年! 今回も大活躍だったな。何より無事でお姉さんとっても嬉しいぞうっ」


 ケイトは俺を胸元に強く抱き寄せると、頭頂部に激しく頬ずりをした。

 この女……。やはり、妙な性癖がありそうな気がする。


「──ほい──ひきが──できん」

「スマンスマン。余りの嬉しさで、つい」

「ぷはぁ。ふぅ──で、どうなんすか?」


 さっさとサイクロプスの子供たちを返し、この戦いを早く終わらせたかった。

 バルバロは俺の大事な商圏となる予定なのだ。


「そろそろ総長が来られるはずだが……」


 盟約違反のギャバンに代わり、聖ラザロ修道会がサイクロプス側と交渉する。

 

 交渉団の代表はヨハン総長だ。

 俺とディアナ、そしてケイトも随行メンバーに入っている。


「ふぉふぉふぉ。待たせたのう、皆の者」


 と、馬に揺られた総長が現れた。


「さ〜て、面倒事をぱぱっと片付けて、嫁のエルフちゃんが待つ修道院へ帰らんとな〜」


 ん……?


 ◇


 ギギボ、ギギボと俺たちには意味不明だが、ディアナが上手く通訳してくれている。


「──これ、1つ目鬼ども。この通りガキ6匹を返しに来たぞい。しっかし可愛気がまるで無いのお、ふぉふぉふぉ」


いにしえからの兄弟たちよ。我らの過ちを正すため6つの宝珠を返しにきた。子を想う気持ちに種族は関係がない』


 と、かなり、上手くやっているのだろう……。


『感謝する。だが、盟約を違えた者は許せない。我らの子を沼地からさらった者。それを閉じ込めていた者。痛めつけた者──』


 だが、ギャバン、ヨシュア、そして看守たちを、サイクロプスに引き渡すことは出来ない。


 ヒトの罪はヒトが裁くのだ。


『彼らは我らの手で裁く』


 ギャバンは貴族だし、ヨシュアは聖騎士として聖地奪還軍へ行ってしまった。

 サイクロプスたちが期待するような結末にはならないが……。


『──信じよう』


 それでも、彼らはそう答えた。

 彼らが結末を知る方法などないので、許す──と言ったに等しい。


『ところで、我らの子を救ってくれたのは、君と──』


 サイクロプスから問われたディアナは、俺とケイトを指差した。

 ゴルは風のように消えている。


『そうか──。ありがとう』


 眼の前に差し出されたやたらと大きな手の小指を俺は握った。


『改めて礼をしたい。機会があれば沼地をたずねてくれ。これを──』


 ◇


 こうして、バルバロとサイクロプスの一件は幕を閉じた──。

 

 意気揚々と修道会に戻った騎士団一行は、さっそく聖堂前の広場に集まり勝利を祝っている。

 山盛りの豪華な食事と酒は、バルバロの商人たちから献上されたものだ。


 中心でふんぞり帰っているヨハン総長も頬が緩みっぱなしである。


「──いつもニヤニヤと気に入らん。ほら」


 ディアナは総長を睨みつけながら、俺に焼きたての肉串を手渡してくれた。


「どうも」


 と、俺も総長の方を見た。


 おそらく多額の寄付を得たから機嫌が良い──ん──いや、待てよ……。

 

 サイクロプスとの交渉前に妙なことを口走っていたよな。

 嫁のエルフちゃんがどうとかこうとか──。


「おい、アル」

「──(もぐもぐ)──え、ああ、どうした?」

「うむ。お前に言っても仕方のないことだが、一応伝えておこう」

「あん?」

「サイクロプスを救い、ギャバンを捕らえ、念呪の祭壇も破壊した」


 城館の中には、いかにもな雰囲気の祭壇があった。

 念呪を強化するためにサイクロプスの角も供えられている。


「だがな……」


 そう言いながらディアナは、俺の食いかけの肉串に人差し指を当てる。

 すると、一瞬だけ強烈な炎が肉串を覆い、さらに良い焼き加減にしてくれた……。


「おぉ」

「やはりダメだな」

「ダメか?」

「本来の私の魔力であれば、お前を消し炭にしているはずだ」

「……(もぐもぐ)」


 返す言葉が見つからなかったので、とりあえず俺は肉串を食べた。


「完全復活には程遠い……」


 これが意味するところは……、


「魔封じの呪いを放つ呪い師は、ギャバン以外にもいるってことか」

「そういうことだ」


 つまり、複数人の念呪でディアナの魔力を抑えつけている。


 全員を排除するか、あるいは強力な呪い師に解呪してもらうか……。


「俺が知っている有名な呪い師と言えば、南方の魔女ロクサーヌ……」


 原作では主人公が手こずった相手で、味方にしても敵にしても厄介なタイプだ。


「あるいは賢者の塔で視てもらうか……。とはいえ、私は賢者どもから随分と嫌われているのでな……」


 塔を暴風魔法で吹き飛ばしたのなら嫌われて当然だろう。


「となると、これまで通り剣術に励み、善行を重ねるほかあるまい」


 そう言ってディアナは、肉串を取ってかぶりついた……。

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