55 秋が来る予告(3)

 礼央は、取り繕うように笑う。

 嫌な顔を見せるのは、やっぱり違うと思うから。


 目の前で、みかみくんが主役に選ばれた時、心臓がチクリとした。


 劇の主役。

 自分では、劇に出るなんて事、しようとは思わない。

 目立ちたくはない。

 文化祭だって、裏方に回った。


 みかみくんが、劇に出るのは仕方がないと思う。

 それは、止められるものではないし、劇で活躍しているみかみくんを見るのは、悪くない。


 むしろ、喜ばしい事だった。


 楽しそうにしているみかみくんを見るのは、僕だって嬉しい。


 あんな恋愛ものの、相手役じゃなければ。


 現実で、パートナーになれないのはわかってる。

 けど、あんな風に、女子と二人並んで立って、現実を突きつけられた気がした。


 舞台の上でだって、僕はみかみくんのパートナーにはなれないんだ。

 相手役として、候補に挙がることすらない。


 あんな風に、女子の横で、照れた微笑みを浮かべるみかみくんの姿を見るのは、正直きつかった。

 いつだって見ているあの色素の薄い髪が、誰かの隣で揺れた。

 チラリと目があって、そして直ぐに逸らされる。


 隣に居られるのは、自分じゃないってわかってる。

 いつだって。

 どこでだって。


 君の隣にいるのは、自分でありたかった。

 剣を構えて、君を守るのは。


 ……僕の呪いが解かれたら、いったいどうなるんだろう。

 それがどんな呪いであれ、解けるのは君しかいないのにな。




 どういう感覚で、みかみくんの隣を歩いたらいいのかわからなくなった。

 恋人にはなれない。

 親友にだって、きっとケント以上の存在にはなれないだろう。


 ただ、たまたまそこに居合わせただけの友人。

 それ以上にはなれない、ただの友人だ。


 隣を歩くみかみくんを眺める。


 柔らかそうな髪。

 触ったら、どんな感じなんだろうな。


 ちょっと丸い鼻と、スルンとした頬と。

 あ〜〜〜、ぐにぐにしてやりたいなぁ。


 ……はっきり拗ねてみたらどうだろう。

『僕は君が僕以外の人と居るのは嫌なんだよね』

 なんて。


 そんな事言ったら、気持ち悪がらせるだけだって知ってる。

 けど、人生で一度くらいは、そんな風に素直に言ってみたい。




 電車は、みかみくんの方が先に来た。

 みかみくんとケントが、同じ電車に乗るのを見守る。


「んじゃ」

「じゃな」


「うん、また明日」


 いつもはなんて事ないのに。

 今は、こんなちょっとした事がキツいや。


 ケントとみかみくんは、いつだって距離が近くて。

 家も近くて。

 もし、僕が告白でもしようものなら、真っ先にケントに言うんじゃないか。


 あ……、触っ……。


「…………」


 こんな事でいちいち、嫉妬していい間柄でもないのに。


 せっかく友人にまでなれたんだから、我慢しないといけないのに。


 気持ちは溢れて、もう溺れそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る