45 君を探して

 夏だった。

 夏は夏休みだし、夏休みは夏だった。


「あ〜〜〜〜〜」


 亮太は冷たいレモネードを目の前に、自室で宿題に手をつけていた。


 英語を半分ほど終わらせたところで、文字を書く気が失せ、シャーペンを手から離す。

 シャーペンはコロコロと転がり、ノートの上で止まった。


 やる気出ない。




「ちょっと散歩」


 言い置いて、家を出た。

 まだ、昼前。

 太陽は明るく、暑い。そして、これからまだ暑くなる空気を孕んでいる。


 なんとなく、電車に乗り、なんとなく学校のある駅まで行く。

 暇があればこの辺りまで来るのはいつもの事だった。

 服も靴も本も、一通り揃うし、暇つぶしにも最適なのだ。


 そこでふと、本屋に向かいかけた足を、ゲームセンターの方へ向かわせた。


 そして、思う。


 れおくんは、今頃何処にいるだろう。

 あれだけゲームが上手いんだから、ゲーセンにはちょくちょく行くはず。


 特別、用事があるわけじゃない。

 ただ……、ゲームセンターに行けば、もしかしたら会えるかもしれないと思っただけだ。


 大会のあったゲームセンターに入ってみる。

 イベントらしいものは今日は無いようだ。

 騒がしい店内。

 FPSのコーナーに目を配りつつ、店の中を歩く。


 いない……。


 そりゃあ、そうだ。

 そんな都合のいい事は無いだろう。


 けれど、諦めきれなくて、駅周辺にあるゲームセンターを全て回る。

 歩く道すがら、黒髪に目をやる。


 何処にも、いない。


 家もよく知らないし、会えるなんて思ってはいなかった。

 けど、いざ、本当に会えないと思うと、寂しく思う。


 連絡先、やっぱ聞いておけばよかったな。


 そしたら、一緒に宿題だって出来たのに。


 のそのそと駅へと戻った。


 普通は会えないだろ。

 今日この時間、外に出ているとは限らないし、同じ店に行くとは限らないし、探している場所にたまたまいるなんてこと。

 普通はないから。


 その時だった。


 数十メートル程先に、見知ったもさもさの黒髪の後ろ姿を見つける。

 見知った黒尽くめの服。

 亮太よりも少しだけ高い背。


 い……た…………!


 一人で歩いている。

 大きなリュックを持っているところを見ると、図書館か、買い物だったんだろうか。


「れ……!」


 嬉しくなって声をかける寸前で、ちょっと待て、と立ち止まった。


 俺、何してんだよ。


 必死でれおくん探して、見つけたら嬉しくなっちゃって、何も考えずに声掛けようとして。

 声、掛けて、なんて言うつもりだった?


 何でこんなに探してんだよ。

 何でこんなに喜んでんだよ……!


 そんな事を考えると、かぁっと顔が熱くなった。

 急に、恥ずかしくなる。


 結局、声は、そのままかける事が出来ずに終わった。


 少し時間をあけて、亮太は昼過ぎの暑い日差しの中、一人、無言で帰途に着いた。



◇◇◇◇◇



結局、連絡先聞けないっていう。

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